✨️第038季 目線の交差点✨️
今まで
目線は
私にとって
「言葉より先に判決が下る場所」
だった
人の視線が交わる瞬間に
私の胸の中では
小さな法廷が開廷しまう
証拠は表情
証言は沈黙
判決は
“安全か否か”
私は無意識に
それを繰り返してきた
誰よりも
早く危険を察し
誰よりも
早く距離を測り
誰よりも
正しく身を引く
その正確さが
私を守ってきたのは確か
けれど同時に
守りのための精密さは
心が触れる前に手
を引く癖を
私に残した
でも
隆也と出会ってから
私の世界の速度が変わり
変わったのは
何かが
大きく動いたからではない
むしろ
その逆で
隆也は私を急がせない
言葉の速さも
歩幅も
呼吸の深さも
私の
“今”
に合わせてくれて
そして
視線においても
同じ
今までの私は
目線を
合わせることが
怖かった
怖いのは
相手ではなく
私の中の
「計算」
目線が交差した瞬間
私は条件分岐を始め
好意か
拒否か
困惑か
期待か
もし誤読したら?
もし先に
踏み込みすぎたら?
もし
“重い”
と思われたら?
私は誤差を恐れて
いつも視線を逸らし
結論を保留にしてきた
けれど
隆也の目は
答えを要求しない
視線は
私を測らない
採点もしない
議論もしない
ただ
そこに
私と隆也だけの
居場所をつくる
✨️第038季 目線の交差点✨️は
私がその居場所を信じ
私、大隅綾音と魚住隆也の
目線の交差点は
衝突の場所ではなく
互いの速度を
合わせるための合図
見つめ合うことで
壊れるのではなく
見つめ合って
二人の意識の交換を
確かめるための場所
目線が
交わる一瞬に
私は初めて
“逃げ道”
ではなく
ともに
“帰り道”
躊躇せずを選ぶ
目線が交わる
その瞬間だけ
私は
計算をやめ
隆也
あなたの瞳は
問いではなく
「ここにいていい」
の合図
まつ毛の影が
境界線なら
私は越えない
ただ並ぶ
二人の目線の
交差点は
ぶつかるためじゃない
私と隆也
同じ方向へ
進むために……
移ろいゆく季節は
香りを少し薄め
輪郭を落ち着かせ
自室の窓の外は
明るく室内を
柔らかい薄明かりにし
その光は尖らず
私はこの雰囲気が好き
好きなのに
どこかで緊張してしまう
私と隆也
二人の空間が
“静けさの正解”
を求め
遠慮を纏っている
隆也
私の隣に座り
机の上には文献
揃えられたペン
執筆中の原稿
隆也はいつも
整っている
けれどその整い方は
私のように
「誤差を許さない」
整いではなく
必要なものだけが
そこにある整い
無駄を抑え
私と隆也
一緒に呼吸ができる
空間が残って
私はノートを開いたまま
文字を追えていなかった
目線だけが
行間を泳いでいる
頭の中で組み立てようと
しているのは
文章ではなく
もっと曖昧なもの
「今の私たちの距離」
隆也の横顔を
見てしまう
見てしまった
ことに気づいた瞬間
私は目線を戻そうとする
昔からの反射
目線を合わせることは
相手に何かを
要求すること
のように思えて
要求していないのに
要求の形に見えてしまう
だから私は
先に避ける
けれど
今日は
避ける手前で止まり
胸の奥で
小さな揺れが起きる
ここで逸らすのは
いつもの私
逸らさない私も
試してみたい
「綾音!」
隆也が
私の名前を呼ぶ
声は小さいのに
凛として
私と隆也の
静けさを壊さないまま
私の内側だけを
確かに揺らす音
私は顔を上げる
そして
目線が交わる
交差点
私の胸の中で
いつもの
法廷が開廷
証拠
表情
沈黙
だが
隆也の目には
“判決”
がない
そこにあるのは
私と隆也
二人の温度
「大丈夫?」
と問うようで
問うていない
「答えて」
と迫るようで
迫っていない
私は
深呼吸を
胸が少し軽くなる
隆也目線は
私の呼吸を急かさない
「綾音
……考えすぎてる顔
大丈夫?」
隆也の心配顔
そして微笑む
微笑む時
目尻が柔らかく沈み
私が緊張したときに
作ってしまう
“固い線”
と違って
人をほどく
私は
今までは
否定しようとする
「違う」
と言えば楽
けれど
その楽さは
私を遠ざける
「隆也
そう
私は考えすぎてるかも」
私は素直に認め
認めた瞬間
恥ずかしさが
胸を熱くする
けれど
その熱を隠さない
熱を隠すための言葉を
今日からは使わない
隆也は頷く
そして
ほんの少しだけ
私に向けて
身を乗り出し
私の青いノートの
端を見た
「綾音
今日は書けてない?」
「書けてない
わけじゃない
……ただ
隆也と目が合うと
私の頭の思考が散るの!」
言ってしまった!
私は自身の発言に驚く
“目が合うと
頭の思考が散る”
そんな無防備な言い方を
私は普段しない
言葉は鎧であるべき
と長いこと信じてきたから
隆也はただ
静かに言う。
「綾音
散っていいんじゃない?」
散っていい……
私の内側の緊張をほどく
散ることは
失敗じゃなく
散ることは
未熟さじゃなく
散ることは
私が
私のままで
いるための自然な動き
そう認めてくれる
隆也の声
私は目線を
外したくなる
外したら
きっと楽?
交差点……
目線を合わせたまま
壊れないことを
確かめる季
私は
隆也の目線の中に
自分の未完成さを
置いてみる
「……隆也の目
ずるい」
「ずるい?」
「うん
私が逃げる場所を
優しく塞ぐもん!」
隆也は一瞬だけ
目を伏せ
それから
また私を見る
「綾音
塞いでないよ
……気軽に帰れる場所を作っているだけ」
気軽に帰れる場所
私はその言葉を
胸の中で繰り返し
逃げ道ではなく
気軽に帰れる道
守りのため
に遠ざかる
のではなく
安心のために
近づく道
私はゆっくりと
手を伸ばし
机の上で
隆也の指先に触れる
触れるだけ
握らない
縛らない
ただ
存在を確かめるように
隆也は
同じ強さで触れ返す
握り返し
引き寄せる
のではなく
触れたまま
“逃げない”
その逃げなさが
言葉より強い
「ここにいる」
と言われるより
「ここからいなくならない」
と示される方が
私には効く
私の胸の奥で
また小さな法廷が開廷
でも今回は
裁判にならない
証拠も
証言も
判決もいらない
ただ
私と隆也の
温度だけが残る
私は
視線を逸らさない
逸らさないために
頑張らない
頑張ると
また鎧になるから
ただ
呼吸を合わせる
隆也の
まつ毛の影が
私の視界の中で揺れ
その影は
境界線ではなく
橋のよう
薄いのに確かで
踏み外さない程度の
幅がある
私はその橋の上に
言葉を置かずに
立っていられる
「綾音……」
隆也がもう一度
私の名を呼ぶ
「何?」
「今の目
好き!」
心臓が跳ねる
私は思わず目を
伏せそうになり
踏みとどまる
ここが交差点
ここで逸らしたら
また昔の私に
戻ってしまう
私は
少しだけ口角を上げ
微笑む形を
“作る”
のではなく
熱が勝手に
形になるのを待つ
「……今の?」
「そう……
綾音の自然体の
逃げない目……」
逃げない
逃げないことが
こんなにも
親密だなんて
私は知らなかった
目線は
ただの情報ではなく
目線は
約束の形になる
私は
胸の奥で小さく頷く
「じゃあ
……もう逃げないからね!」
隆也は
私が
私のままでここにいること
に
「Good Job!」
サイン
私と隆也
二人に降り注ぐ
外の光が濃くなっていく
静けさは変わらないのに
でも
私の内側では
世界の角が
どんどん
丸くなる音がして
目線の交差点は
衝突の場所ではなく
私と隆也
同じ方向へ
進むための瞬間
私はページに
視線を戻し
私の青いノートへ
記す事が
出来る様に
気が散漫になっていた
思考がゆっくりと
戻ってくる
戻ってきた思考は
“私一人”
の私ではない
隆也の呼吸を
隣に置き
戻ってくる
私はペンを握り
青いノートに一行書く
目線が交わる時
私は逃げ道を
探すのではなく
ともに帰る事ができる
道を選ぶこと
そして私は
もう一度
隆也を見る
私と隆也との
目線の交差点に
立つのが
怖くないわけじゃなく
けれど怖さは
未熟さではない
誠実さの端っこ……
隆也の目線が
その端っこを
静かに撫でてくれる……
✨️第038季 目線の交差点✨️
で私は
見つめ合うことの
“強さ”
ではなく
見つめ合っても
心が壊れないという
“静けさ”
私は長い間
目線を
「情報」
として扱い
表情を読み
沈黙を測り
相手の意図を
先回りし
誤差を減らし
その精密さは
私を守った
けれど
守るほどに
私は人と触れる前に
引いてしまう
癖を覚えて……
でも
隆也の目線は
私を優しく導き
私に答えを
迫らない
そして
私の不安を
柔らかくいなしてくれる
だから
私は目線の中に
未完成さを置いても
暖かく包んでくれる
事を知り
目線が交差する一瞬は
私と隆也
二人の速度を
合わせるための合図
私が選んだ
小さな勇気は
視線を逸らさないこと
逸らさないために
頑張るのではなく
頑張らなくてもそ
自然に
こに居られる事を
信じること
その信じ方を
私は
隆也から
言葉より
目線より
丁寧に教えてくれた
次季は
✨️第039季 微笑みの向こうには✨️
あとに残るのは
表情という
“熱”
微笑みは
ストレート
誤魔化しが利かない
私は隆也の前で
照れや不安を隠す
ための微笑みではなく
私と隆也の
心のぬくもりを
自然にはぐくむために
私の笑顔
隆也の笑顔
互いに
どんな合図として届く?




