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⭐️色褪せることのない絆⭐️ ✨️EMPATHY 大隅綾音と魚住隆也✨️  作者: 詩野忍


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40/63

✨️第036季 刻まれる音✨️

 挿絵(By みてみん)

 雨は

 まだ続いている

 けれど

 昨日までの雨と

 今日の雨は

 もう同じではない

 虹色の傘の内側で

 私は

  「逃げ道がない」

 という事実を

 以前は怖さだけで

 受け取らなかった

 でも

 逃げなくてもいい相手がいる

 その発見は

 胸の奥に

 静かな梁はりを通して

 私の姿勢を

 変えてくれた


  隆也!


 あなたは

 私を急がせない

 言葉を自然に引き出し

 言葉が生まれる

 温度を守ってくれる

 だから私は

 今日は

  「音」

 で確かめ

 目に見えないのに

 一番正直なもの

 私と隆也の間に残る

 消せない痕跡

 雨の季節は

 外の世界の輪郭を

 ほどく代わりに

 二人だけの室内の

 空間を輪郭を濃くする

 机の角

 紙の白さ

 湯気の立ち上り

 窓に流れる雨の雫

 そして何より

 隆也

 あなたの呼吸の音

 二人でページをめくる音

 二人のペン先が紙を擦る音

 二人のカップが

 ソーサーに触れる小さな震え

 それらが

 私と隆也の

  「ここにいる」

 という居場所を刻む

 私が名前を呼ぶ速度を

 覚えたように

 私と隆也

 二人は

 音で

 距離の速度を学び

 確かめ

 雨音に負けない

 けれど

 雨音のやさしさを壊さない

 そんな静かな音の中へ


 雨は窓を叩かない

 撫でる

 細い指で

 ガラスの記憶をなぞる

 私と隆也

 ページがめくられる

 風の代わりに

 指先が

 世界の続きを連れてくる

 改めてペン先が走る

 一文字ぶんの勇気が

 白い紙に

 小さく接地する

 カップの縁

 私の息遣い

 隆也の息息遣い

 同じ位置で揺れて

 音は言葉より先に

 私と隆也を

  「二人」

 にする

 目に見えない署名……

 挿絵(By みてみん)

 今日の午前の雨は

 少しだけ微細

 雨粒の密度が薄く

 街の動きは鈍らす

 けれど

 私の心は逆に

 音に敏感に

 やさしき

 あたたかな

 さわり

 ふさぎ

 私はそれらを

 いつもの癖で

  「外側」

 から眺めて世界を観測し

 分類、安心する


 でも今日は

 観測だけでは足りない

 私は

 一歩

 いや二歩

 それ以上に

 私と隆也との音の中へ

 音の交換日記の世界へ


 濡れた街路樹が

 葉脈の香りを立て

 雨の香りに混じる

 清々しい青さが胸を洗い

 私は鞄の中の青いノートを

 指で押さえた

 表紙の布の感触が

 なぜか

 今日も

 私の知らない世界

 私を変えてくれる世界

 知りたい!触れたい!

 心躍り!

 胸震える!

 以前に

 戻らなくてもいい道があるなら

 私は前に進む!


   「Good Morning 綾音!」


 呼ばれた瞬間

 世界の輪郭が

 また一段くっきりし

 振り向くと

 隆也が

 濃紺のジャケットに

 雨粒が点々と留まり

 肩から下がった鞄のベルトが

 少し濡れて

 隆也

 あなたの髪は

 湿り気を含んで

 黒が深い

 私は――迷わず息を吸った。


   「隆也

    おはよう!」

 挿絵(By みてみん)

 二音の前に

 いつもの

 余計な助走が要らなかった

 隆也は目を細めて

 いつものように

 自然体で

 私を急かすでもなく

 私の気持ちを

 受け取ってくれる


   「おはよう

    綾音。……今日の雨

    少しだけ静かだね」

   「うん

    静か……

    だから音がよく聴こえる!」

   「音?」

   「……私と隆也の共通の音!」


 言った途端に頬が熱くなる

 恥ずかしさは

 まだ消えない

 消えないままでいい

 と昨日の私

 隆也は一拍置いて

 うなずき


   「いいね!

    今日は、どこ行く?」

   「図書館

    ……でも

    先に少カフェへ寄りたい

    一緒にページをめくる音

    ペンの音

    ……どっちも聴きたいから」

   「はい

    じゃあまずカフェへ

    歩こ!」


 傘を開く音が小さく鳴り

 ぱっと広がる布が

 雨を受け止め

 内側の空気が整う

 昨日と同じ

 密着の空間

 でも

 密着の空間なのに

 昨日より

 怖さが少ない

 怖さが薄いのではなく

 怖さの横に

  「嬉しさ」

 がちゃんと並んでいる

 だから私は

 逃げ道を探さずにいられる


 歩き出すと

 雨の音が傘を薄く

  「トン、トン」

 と言うより

  「しゅ」

 と擦るような音

 その音に合わせて

 隆也の足音と

 私の足音が

 重なる

 私はその重なりを

 胸の奥で数える

 数えるというより

 確かめていた

 挿絵(By みてみん)

 行きつけのカフェの扉を押す

 外の雨が遠のき

 代わりに

 室内の音が増え

 照明の暖色が

 雨の冷たさをほどく

 私と隆也は

 いつもの窓際の席に座り

 窓には水滴が線を引いていて

 その線が

 外と内の境界を示している


   「綾音!

    何飲む?」

   「……温かいの

    ミルクティーで」

   「同じのでいい?」

   「うん

    ……同じが、いい!」


  “同じ”

 という言葉は

 私にとって

 まだ少し勇気が要る

 けれど

 同じ

 というのは

 選ぶ

 ことを共有することだから

 これからも

 隆也は小さく微笑み

 オーダーを済ませてくれた

 カップが運ばれて

 ソーサーが

 木のテーブルに触れた瞬間

 私の胸の奥で

 何かが軽く跳ねた

 音が形になる。

   「ここに置かれた」

 という確かな証拠

 私は指先で

 カップの縁に触れ

 熱を受け取った


   「綾音の

    いつもの青いノートだ!」

   「うん

    ……今日はもう書きたい気分!」

    「何を書く?」

    「……音のこと

     私と隆也との

     一緒に感じている音の事」

 挿絵(By みてみん)

 隆也は頷き

 私の青いノートを見

 視線がノートに落ち

 でも

 私の世界は少し整う

 私はペンを取り出し

 キャップを外す

  「かち」

 という音が

 妙に儀式みたいに響き

 私は白いページを開く

 紙が擦れる

  「さら」

 という音

 その瞬間

 私は気づく

 私は今まで

 言葉は

  “心”

 から生まれると

 思っていた

 でも

 言葉は

  “音”

 からも生まれる

 音が先に

 心の居場所を作り

 言葉はそこにいてくれる


   「ねぇ隆也!」

   「ん?」

   「……今

    静かに呼んでみてもいい?」

   「もちろん!綾音のペースで」


 私は息を整える

 雨の日の空気は湿っていて

 声が柔らかくなる

 私は

 隆也

 あなたの名前を呼ぶ

 小さく

 でも逃げない音で


   「隆也……!」

   「ありがとう

    綾音!」

 挿絵(By みてみん)  

 隆也は顔を上げ

 私をみつめる

 その視線は

 私を追い詰めない

 むしろ

 私の背中の空洞を埋める

 私は続けて


   「私

    音で……安心してる」

   「音で?」

   「うん

    隆也と一緒に傾聴する

    雨の音

    ページの音

    ……あなたの声の

    端っこ」

   「端っこ?」

   「全部じゃなくていいの

    全部だと眩しい

    端っこが

    ちょうどいい

    近づく練習になる」


 隆也は

 少し考える顔をして

 テーブルの上に手を置き

 指先が木目をなぞり

 その小さな動きが

 また音にならない音を作り


   「じゃあ

    綾音

    二人の今日の目標を

    決めよ!」

   「目標……?」

   「そう

    “刻まれる音”

    を増やそ!」

   「増やす……?」

   「綾音と私で

    共有できる音

    綾音が逃げなくていい音」


 その言葉が

 胸の奥に静かに

  “逃げなくていい音”

 私はそれを

 まるで

 新しい概念みたいに抱える

  逃げ道を塞ぐ

 のではなく

  逃げる必要を消す

 そのための音


 私は青いノートに

 書き始め

 ペン先が紙を擦る

  「さらさら」

 という音が

 私の鼓動と混ざり

 書きながら

 私はふと

 隆也の方を見る

 隆也は

 私の字を覗き込む

 でもなく

 同じテーブルの隣りにいて

 同じ時間を呼吸している

 それが

 どうしてこんなに

 支えになるのだろうか?

 隆也

 あなたも何かを

 書き始めた

 メモ帳を取り出し

 短い線を引き

  “短い線”

 それが私の青いノートに

 引かれた時

 私はきっと

 今日の音を

 一生忘れないと思った

 ペン先が止まり

 また動く

 そのたびに

 私と隆也の世界は

 少しずつ更新される

 挿絵(By みてみん)

 ふいに

 外の雨が強くなり

 窓を叩く音が太くなり

 店内の音が一瞬

 雨に寄せられる

 私はその瞬間

 隆也に言う


  「ねえ隆也

   雨ってやっぱり

   ……言い訳を洗い流す」

  「どうして?」

  「だって

   音があると沈黙が怖くない

   沈黙が怖くないと

   ……本音が出やすいから」

  「綾音の本音が出てる?」

  「……出てるでしょ! 今!」

  「本当!出てる!」


 隆也は微笑み

 カップを持ち上げ

 その時

 ソーサーがわずかに鳴る

 私はその音を

 胸の奥の棚に

 そっと置く

 この棚がいっぱいになったら

 私はきっと

 もっと自然に

  “二人”

 でいられる……


 カフェを出て

 大学図書館へ向かう

 雨はまだ強い

 傘の内側は

 また二人だけの

 小さな宇宙空間になる

 私は歩きながら

 隆也の呼吸の音を聴く

 隆也の呼吸は

 落ち着いていて

 でも

 私に合わせて

 少しだけ速度を変えてくれる

 それが音として伝わってくる


 大学図書館に入ると

 今度は別の静けさがあり

 ここでは

 音は大きく鳴らない

 その代わり

 私と隆也

 二人の音は輪郭だけを残す

 椅子が引かれる音

 紙が重なる音

 ページをめくる音

 私はそれを

  “聴き取る”

 というより

  “触る”

 感覚で受け取り

 隣の席に隆也がいる

 それだけで

 私は自分の背筋を

 少し伸ばせる

 私は

 改めて青いノートを開き

 今日の一行を探し

 言葉を選ぶ前に

 まず音を聴き

 そして

 音に合う言葉を置く


 誠実さとは

 きっと

 そういう速度のこと

 昨日の私が書いた言葉が

 今日の私の手を導く

 私は

 隆也の方を

 ちらりと見た

 隆也は沈黙しながらも

 私を見つめ

 その沈黙のあり方が

 優しい

 沈黙

 という選択は

 私を置き去りにしない

 私は胸の奥で

 もう一度だけ呼んだ


  「隆也!」


 声は小さい

 でも

 小さいままで

 届く

 届く

 という確信が

 私の中で音になる

 そしてその音が

 今日という日を

 私と隆也の季節に

 刻んでいく……

 挿絵(By みてみん)

 音は

 目に見えない

 だから私は

 これまで音を

 軽く扱ってきたのかもしれない

 目に見えるもの

 距離

 表情

 言葉

 予定

 結果

 そういう輪郭ばかりを

 重くして

 音を

  “ただの背景”

 にしていた

 でも今日

 私は知る

 音は背景ではなく

 私たちの関係の

 空間の一つ

 という事

 言葉が立つための

 沈黙が呼吸するための

 空気

 私と隆也が

 ともに共有する

 雨の音

 傘の内側の音

 カップの音

 ページの音

 ペン先の音

 それらが

 積み重なって

 私は

  “逃げなくていい場所”

 を増やしていける

 隆也

 あなたが引いた短い線が

 私の青いノートに残るみたいに

 私が勇気をだして

 意識をしないで

 自然体で

 呼んだ二音が

 隆也

 あなたの胸に残るみたいに

 音は

 私と隆也の心の中に残る

 そして

 残り方がやさしい

 だから私は

 今日の音を

 宝物みたいに持ち歩ける

 次季

 ✨第037季 春眠のまどろみ✨

 雨が少し遠のき

 気温がゆるむころ

 私は隆也

 あなたの隣で

 安心して

 眠ってしまうかもしれない

 眠りは無防備で

 だから怖い

 けれど

 無防備を許せる相手

 隆也がいるなら

 眠りは

  “信頼”

 に変わる

 まどろみの中で

 聴こえるのは

 あなたの呼吸

 遠くの街の音やページは

 止まり

 静けさだけ

 その静けさの中で

 私は本気の

  「好き!」

 の直前の呼吸を

 またひとつ

 覚えていく予感……

 挿絵(By みてみん)

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