✨️第033季 鉄路の風が頬を撫でる✨️
隆也!
駅Station
という場所は
不思議ね
誰もが
DEPとARR
「行く」か「帰る」か
のどちらかを
抱えていて
立ち止まり進む
だけの人は
ほとんどいない
視線は前方
足は矢印の上
言葉は
必要な分だけ
私が
いつも心の中で
組み立てる
余計な仮定や
遠回りの理屈が
ここでは
息を潜める
正確は冷静で
緻密は公平で
Dangerous Zoneは
容赦がない
曖昧な私に
境界線を
突きつけてくる
それなのに
隆也
あなたと
並ぶと
駅STATIONは
少しだけ
柔らかくなる
硬いはずの
金属の匂いの中に
微かな体温が混じる
人の波に押されても
隆也
あなたは
私を急かさない
危ないから
と言って
腕を掴むでもなく
ただ
私自身の
立ち位置を変える
私が風をまともに
受けない場所を選び
私が
迷わず
歩ける速度を選び
私が
息を継げる間を
当たり前みたいに
用意する
私の
「平気」
は昔からの癖よ!
誰かに
負担をかけないための
短い返事
弱さを
見せないための
薄い盾
けれど
隆也
あなたは
その盾を
剥がそうとしない
かわりに
盾の内側が
窮屈に
ならないように
外側の風向きを
調整してくれる
列車が
近づく前の
空気は
いつも少し怖い
遠くから
響く金属の目覚めが
床を通って
私の足首に届く
胸が先に跳ねて
私はそれを
鼓動だと
勘違いする
勘違いしたまま
平気な顔を作る
その
瞬間に
隆也
あなたが
半歩だけ前へ
出るのを
私
何度も見てきた
たった半歩
でも
風が変わる
私の頬を
叩くはずだった
季節の
変わり目の
冷たさが
隆也
あなたの
背中で砕けて
やわらかく
優しい粒に
なって私に届く
私はいつも思うの
隆也
あなたは
私を
守るために
大げさな
言葉を使わない
その代わり
風を受ける角度で
優しさを
伝えるのだと……
隆也!
鉄路の風が
頬を撫でるたび
私は
私と隆也の
距離を数える
数えるのは
近づきたいから……
でも
近づくのが怖いから……
その
矛盾ごと
隆也
あなたの隣は
静かに
受け止めてしまう
受け止めたい……!
鉄路の風が
頬を撫でる
その一撫でが
私の中の
「まだ言えない」
をいくつも揺らす
駅STATION
すべてが
正確に緻密
正確に緻密がゆえに
人の心の誤差を
許さない
時間は一方向
矢印は一本
Dangerous Zoneは
越えるな
と言うだけで
理由を語らない
私は
理由を語りたがる
語りたがって
語れない
語る前に
考えすぎる
考えすぎて
言葉が細くなる
隆也
あなたは逆よ
言葉を細くしないわ
必要なら短く
短いからこそ
私の胸に届く
DEP
ARR
という裁定
通過が許され
時によっては
通過が奪われる
ここでは
「迷い」
が邪魔になる
でも
私の心は
迷いで
できている
人の波
雑踏
音
それらが
私を
現実へ引き戻す
現実は
想像より冷たい
冷たいけれど
あなたがいると
冷たさが
“痛み”
にならない
「綾音ここ!」
隆也
あなたの
言い方は優しく
命令ではなく
提案でもなく
ただ
“自然な配置”
私は頷く
声を出さずに
声を出すと
心が
余計なものを
連れてくる
ありがとう
嬉しい
助かる
それから先の
もっと
言うべき言葉
もっと
言うべき言葉は
いつも
私の口の手前で
小さく震える
震えるものを
私は怖がる
震えるものは
私を
裏切らないのに
列車が来る前
風が変わる
ホームの空気が
薄い刃になる
私は目を細める
まぶたの裏で
思いが速くなる
その時
隆也
あなたは
半歩
前に出る
半歩
それは
勇気の単位
言葉の代わりに
差し出す
体の言語
隆也
あなたの背中が
風を受け止める
受け止めて
砕いて
私へ渡す
冷たさは弱まり
でも冷たさは残る
残るから
私は
隆也
あなたを知る
守られている
ただし
奪われていない
「寒い?」
隆也
あなたは訊く
私はいつも
「平気!」
と言う
平気
二文字の仮面
二文字の盾
二文字の嘘
嘘ではない
寒さだけなら
たぶん
平気!
でも
隆也
あなたの半歩が
私の
心の温度を
上げる
その熱は
平気ではない
私の胸は
平気を
失っていく
列車が滑り込む
金属の息
ブレーキの摩擦
風が走る
スカートの裾
髪の先
人の心まで
ひとまとめに
さらっていく
窓のガラスに
私と隆也
の影が映る
影は
触れ合う
影は
躊躇しない
影は
誰にも
見咎められない
私は
影を羨ましがる
影のように
素直に
近づけたら
どれほど
楽だろう
でも
私は
影じゃない
私は
隆也
あなたに
触れたいと
思った瞬間に
責任
を数えてしまう
触れたら
何が変わる?
変わったら
戻れるのか?
戻れないなら
私は
耐えられるのか?
隆也
あなたは
その変化を
望む……
望む?
望まない?
そういう問いは
浅いようで
深い
深いようで
怖い……
隆也
あなたは
私の問いを
知らないふりをする
いや
知っているからこそ
知らないふりができる
隆也
あなたは
私の心を暴かない
暴かないまま
“逃げ道”
も塞がない
「危ない!
お気を付けて」
隆也
あなたの声
短い
けれど
私はその短さに
誓いを聞く
危ない!お気を付けて
私は
見ている
私は
ここにいる
君が
危険な事に
ならないように
君が
怖がりすぎないように
私は
泣きたくなる
泣かない
泣いたら
隆也
あなたの手が
伸びてくる
伸びてきた手を
私は拒めない
拒めない
私自身が
恥ずかしい
恥ずかしいのに
望んでいる
列車の扉が開く
人が降り
人が乗る
別れと再会が
交互に現れる
世界は
何度も
リセットされる
でも
隆也
あなたと私の間は
リセットされない
むしろ
一つ一つ積み重なる
半歩
短い声
風の角度
いくつもの影
Dangerous Zone
積み重なるほど
私は気づく
絆とは?
劇的な
抱擁ではなく
日々の
小さな調整
相手の呼吸に
合わせて
世界の圧力を
少しずらす
その積み重ねだ
私は
隆也
あなたの
“調整”
に救われている
救われることは
弱さだと
昔の私は言った
けれど
今の私は
違う言葉を
探している
救われるとは
信じることだ
相手が私を
壊さないと
信じること
相手に
私を
預けるのではなく
私の
ままで立てるように
支えを
受け取ること
その受け取り方を
私は学びたい
隆也
あなたから
あなたの隣で
歩き出す
風が背中を押す
私は少しだけ
隆也
あなたに近づく
一センチ
二センチ……
一センチの移動が
私の世界の
定義を変える
隆也
あなたの隣が
“仮の席”
から
“帰れる場所”
へ変わりはじめる
「綾音!」
隆也
あなたが呼ぶ
その声に
私は
返事をしそうになる
返事をしたら
次は
私が呼ぶ番
私はまだ
練習が
足りない……?
呼ぶ
という行為は
境界線を
越えること
越えたら
戻れない
戻れないのが怖い
でも
戻れないほどに
近づきたい
鉄路の風が
頬を撫でる
その撫で方が
さっきより優しい
季節は
少しだけ
私たちを
許している
私は
隆也
あなたを見る
隆也
あなたも
私
綾音を見る
言葉はない
けれど
交点は
確かに暖かい
隆也
私はいつか
平気の
仮面を外して
隆也
あなたの前で
震えるままの
声を出す
その日まで
隆也
あなたの半歩を
私は忘れない
半歩は
私の
心の世界を救い
私の
勇気を育てる
鉄路の風が
頬を撫でる
今日も
その風の中で
私、大隅綾音と魚住隆也
私達は静かに
絆
を深めている……
列車が
去った後に
残る静けさは
風の線と
人の息の名残り
私はその
空間の中で
今日も私は
隆也
あなたの
半歩に救われた
と
救われる事を
私は
長い間
“弱さ”
だと思っていた
私自身
自身で立てない人が
誰かに寄りかかるのだと
だから
私は
寄りかからないために
平気
という盾を
磨き続けてきた
けれど
今は違う
隆也
あなたの優しさは
私を
寄りかからせる
のではなく
私が
私の足で
立ち続けられる
ように
外側の圧力だけを
少しずつ
減らしてくれる
私は
自身を奪われていない
私は
矮小にも
されていない
ただ
呼吸が
しやすくなっている
その事実が
私を変える
頼ることは
相手を信じること
信じることは
責任を分け合うこと
隆也
あなたが
私を
壊さないと
信じるなら
私もまた
隆也
あなたの
優しさを
“受け取る責任”
を引き受けたい
受け取る
だけでなく
いつか
返せる人になりたい
次の季は
✨️第034季 名を呼ぶ練習✨️
距離の衣を脱却し
もっと至近に
触れる季節
呼ぶことは
境界線を越えること
呼ばれることは
相互の世界の
ともに中心へ
置かれること
私は
きっと震える
声はきっと掠れる
けれど
その掠れた
声こそが
私が
隆也
あなたを
もっともっと
信じ始めた
証になる……
すべての
会いたい人が
会いたい人と
必ず
逢えますように!




