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⭐️色褪せることのない絆⭐️ ✨️EMPATHY 大隅綾音と魚住隆也✨️  作者: 詩野忍


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29/60

✨第025季 花曇りの午後✨

 挿絵(By みてみん)

 花曇りの午後

 その手前で

 春の空にも

 曇りの日という

 ものがあるのだと

 中庭で気づき

 新しく顔を

 出しはじめた若葉が

 どちらも主役に

 なりきれないまま

 曖昧な光を

 まとって揺れて

 その日は

 朝から胸の奥に

 うっすらとした

 霞みのような

 ものがかかり

 原因は

 分かっている

 前夜の

 スマホの画面に浮かんだ

 隆也のメッセ

 そして

 その最後に

 付け足された

 一行の文


 「明日改まって話そ?」


 それだけの

 ことなのに

 私の心拍は

 眠っている間も

 どこか

 落ち着きどころを

 見失っていた

  嬉しい予感……

  こわい予感……

 その両方が

 花曇りの空のように

 境目をぼかして

 重なり合う


 ベンチに座り

 青いノートを

 膝の上にひらく

 ページの白さが

 今日だけは

 少し冷たく見えて

 私はペン先を

 置く場所を

 探しあぐねていた

  “鼓動がおしえてくれる”

 と信じて

 ページを重ねてきた

 私の心は

 今

 ほんの少しだけ

 迷子になっている

 ほんの少し前まで

  「好き」

 と言うか?

 言わないか?

 その境界線の上で

 私は心地よく

 揺れていた

 揺れている自分を

 どこかで楽しんでいた?

 けれど

 季節は確実に進む

 花曇りの午後は

 その揺らぎに

 そっと現実の影を

 落としてくる

 この季は

 晴れでもなく

 雨でもなく

 はっきりとした

 答えの出ない

 空の下で

 私・大隅綾音が

 魚住隆也との

  “距離の揺れ”

 と向き合う午後の記録

 曖昧さに

 守られていた関係が

 曖昧さによって

 試され始める瞬間

 その怖さと

 それでも

 手放せない

 願いを

 私と隆也は

 このページに刻んでいく……

 挿絵(By みてみん)

 花曇りの午後

 キャンパスの空は

 白と灰色の

 境目を

 見失ったまま

 薄いベールの

 ような光を

 静かに

 降らせている

 講義を終えた

 学生たちの声が

 遠くで波のように

 揺れながら

 私の

 足もとだけを

 そっと

 避けて流れていく


 私はひとり

 中庭のベンチに

 腰を下ろし

 青いノートを

 膝にのせる

 ページを

 ひらく指先が

 いつもより

 ほんの少しだけ

 ぎこちない


 この後

 隆也と会う


 それだけの

 事実が

 ページの白さを

 少し重くしている


   「花曇りって……」

 

 前に天気予報を

 見ながら

 隆也が言った


   「晴れと曇りの中間みたいだけど

    実はどっちとも違う

    “桜を見るための曇り”

    なんだって」

   「へえ……

    じゃあ

    心にもそういう天気

    あるのかな?」


 そう言って微笑

 私の声が

 今になって

 胸の奥で

 静かな反響を返す


  じゃあ今の私は

  どんな天気?


 好きと言うには

 もう少し

 だけれども……

 まだ怖くて

 友達に戻るには

 もう

 進みすぎていて

 晴れでもない

 雨でもない

 どちらにも

 決めきれない

 花曇りの心模様

 挿絵(By みてみん)

 ノートの端に

 小さく

 “花曇り”

 と書き込んでみる

 その文字が

 自分の気持ちに

 ゆっくりと

 ピントを合わせていく

 と

 スマホが震える


   【今中庭?】


 短い問いかけに

 鼓動が跳ねる

 文字の向こうの

 声色を

 想像するだけで

 鼓膜の奥が少し

 熱を帯びる


   【ベンチのとこにいるよ】


 送信ボタンを

 押す指は

 不思議と震えない

 震えているのは

 胸の内側だけ

 数分後

 砂利を踏む足音

 視界の端に

 見慣れた

 影が伸びてくる


 花曇りの光のなかで

 隆也の輪郭は

 いつもより少し

 淡く見えた


   「待たせた?」

 挿絵(By みてみん)

 息を弾ませて

 隆也が微笑む

 額にかかる

 前髪の先に

 湿った

 空気の気配が

 小さく光る


   「ううん

    さっき来たとこ」


 本当は

 十七分も前から

 ここに

 座っていたことを

 私は言わない


 花曇りの

 空みたいに

 真実の輪郭を

 少しだけ

 ぼかして

 しまうのは

 てれかくし?

 それとも

 ささやかな見栄?

 私と隆也

 二人並んで

 座ると

 間にひとつ分

 空白があいた

 コートの袖が

 触れない程度の

 安全な距離


 だけど

 心の中に

 ある言葉は

 その空白を

 埋めようとして

 焦ってしまう


   「この前の……」


 先に口を

 開いたのは

 隆也だった


   「あの

    ……メッセのこと

    ちゃんと話したくて……」


 私の喉の奥で

 息が詰まる

 花曇りの空が

 一瞬だけ

 ぐっと近くなる


   【眠れないから

    綾音のこと考えてた】


 あの夜の文字列が

 ありありと蘇る

 心拍が

 花びらのように舞い上がり

 胸の中で

 行き場をなくしている


   「……うん」


 かろうじて

 それだけ答える

 挿絵(By みてみん)

 隆也は

 いつになく

 慎重な目で

 地面の一点を

 見つめたまま

 続ける


   「変なふうに

    綾音に

    プレッシャーかけたくて

    言ったんじゃなくて

    ただ……」


 少し沈黙

 遠くで

 誰かの自転車のブレーキが鳴る


   「綾音と

    いる時間が

    前より

    大事になってきてる

    気がして……

    それを

    見て見ぬふりするのが

    苦しくなってきた

    っていうか……」


 私の心拍が

 はっきりと

 速さを変える


  やめて!

  それ以上言われたら

  私はきっと

  戻れなくなる!


 そんな逃げ腰の声と


  でも

  聞きたい!

  ちゃんと言葉で

  聞きたい!


 そんな

 赤裸々な声が

 胸の内側で

 同時に

 手を挙げる

 花曇りの

 空みたいに

 どちらの声も

 濃度を決められず

 ただ

 滲みあっていく


   「……ごめんね

    変なこと言ってるかな?」


 隆也が

 はにかみなから 

 照れている


   「……ううん……」


 私は

 ようやく

 隆也の横顔に

 目を向ける

 花びらを

 失いかけた

 桜の枝が

 風に揺れ

 その向こうで

 薄い光が

 私と隆也

 二人を包んでいる


   「私も

    隆也と同じくらい

    大事になってて……

    それがこわいから

    ノートに逃げてたんだと

    思う……」

 挿絵(By みてみん)

 言葉に

 してしまった瞬間

 胸の中の

 何かが

 ほどける音がする


 青いノートの

 ページに

 書きつけてきた

 “鼓動の記録”たちは

 全部

 この一言に向かって

 集約されていくような

 不思議な感覚


   「逃げてた?」

   「うん」


 私は苦笑!

 続けて


   「“好き”って言葉に

    まだ責任が持てないから

    “鼓動”って名前で

    誤魔化してたのかも」

 

 花曇りの午後の空が

 すこしだけ

 明るさを増す

 隆也は

 少し驚いた

 顔をして

 それから

 ゆっくりと頷く


   「誤魔化してくれてて

    よかったのかも……」

   「え?」

   「“好き”と

    綾音から

    言われたら

    たぶん僕

    嬉しさのあまり

    パニック起こして

    心臓発作かな?」


 ふっと

 私と隆也

 二人の間に

 小さな微笑みが

 かわされる

 花曇りの光が

 その笑い声を

 やわらかく

 包み込む


   「ねえ綾音」


 微笑みの余韻が

 まだ胸に

 残っているうちに

 隆也が

 少し真面目な声に戻る


   「今日

    はっきりさせるとか

    そういうんじゃなくて

    花曇りの日みたいに

     “どっちつかず”

    のままでも

    ちゃんと

    大事にしたい関係って

    あってもいいのかな

    って……

    最近思う……」

   「どっちつかずのまま

     大事にする?」


 聞き返しながら

 私は

 その言葉の意味を

 自分の中で転がす

 挿絵(By みてみん)

 恋人か?

 友人か?

 どちらかのラベルを

 早く貼らなければ

 ならないと

 焦っていたのは

 もしかしたら……

 

  「今日の空

   きれいじゃない?」


 隆也が

 花曇りの空を

 見上げる


   「青でもないし

    灰色ってほどでもない

    その中間で

    桜の最後を

    ちゃんと見届けてる

    みたいな色」


 私は

 その横顔を 

 見つめながら

 私自身の

 心の空も

 同じ色を

 していることに

 気づく


   「……そうね」

   「僕たちの関係もさ

    今は

    そういう色のまま

    進んで

    いってもいいのかなって

    はっきり

    “好きです!”

    って

    宣言する前に

    “君といると

    ちゃんと呼吸ができる”

    って

    その事実を

    もっと大事にしたい」


 その言葉に

 胸の奥で

 静かな

 波紋が広がる

 鼓動が

 さっきまでの

 激しいテンポをやめ

 少しだけ

 落ち着きを

 取り戻していく


  花曇りの午後は

  結論を出すための

  時間じゃなくて

  結論の手前で

  互いの

  不安と願いを

  見せ合うための

  時間なのかもしれない

 挿絵(By みてみん)

 私は

 そっと

 青いノートをひらき

 新しいページに

 今日の日付と

  “花曇りの午後”

 と書き込む

 その下に

 震えない文字で

 ゆっくりと綴る


   「私は

    魚住隆也という人と

    “鼓動が落ち着く場所”を

    これからも

    一緒に探したい」


 書き終えた瞬間

 花曇りの光が

 ページの上に

 柔らかく降りかかる


 隆也が

 ノートを

 覗き込むことはない

 ただ

 横で静かに

 同じ空を見上げている

 その沈黙が

 怖くない

 もし

 この先

 深夜の告白や

 すれ違いの時間が

 私たちを

 試すとしても


 今日の

 この花曇りの午後を

 “はじまりのひとつ”として

 私はきっと

 忘れない

 曖昧な光のなかで

 交わした言葉も

 沈黙も

 胸の中で

 ゆっくりと

 形を変えながら


 いつかきっと

 “あの日があったから”

 と振り返る

 ことのできる

 確かな輪郭に

 育っていくだろう

 花曇りの午後

 まだ

 名前を決めきれない

 私と隆也の関係は

 それでも

 確かに

 同じ方向へと

 歩き出している


 小さな

 小さな歩幅で


 鼓動がおしえてくれる

 そのテンポに

 私、大隅綾音と魚住隆也

 ともに

 合わせながら……

 挿絵(By みてみん)

 次の季への

 気圧配置

 花曇りの午後

 胸の奥に

 残っていた

 ざわめき

 少しだけ

 形を変えていることに

 気づき

  “はっきりさせなきゃいけない”

 という焦りは

 相変わらず

 どこかで顔を出すけれど

 それ以上に今は

  「曖昧なままでも

   守りたいものがある」

 という感覚の方が

 静かに

 重さを

 増している

 空が晴れて

 いるときよりも

 こういう薄い雲に

 覆われた午後の方が

 自分の心の

 輪郭が

 よく見えることがあり

 花びらが

 散りきる直前の

 枝のように

 まだ

 決意になりきれない

 感情が

 風に揺れながら

 確かにそこに

 存在している

 私と隆也は

  「恋人」

 という名前を

 目の前にして……

 でも

  “鼓動が落ち着く場所”

   を一緒に守りたいと願う二人

 として

 同じ天気図の

 上に立っている

 ことに確認できたことが

 今日の花曇りの午後の

 一番の願いだったのかな?

 だと思い

 けれど

 天気は

 急に変わり

 気圧配置は

 いつまでも

 同じではいられず……

 次の季、

 ✨️第026季 瞬きの合間の真実✨️

 この花曇りの

 あとに訪れる

 少し重たい雲と

 思いがけない

 晴れ間が

 きっと

 私、大隅綾音と魚住隆也

 私たちを待っている……


 深夜の告白

 読み違えたメッセ

 返事を待つ

 時間に降る

 目に見えない雨

 それでもなお

  「行く先は決して見失わない」

 と信じる私と

 不器用なほど

 まっすぐに

 言葉を

 探そうとする隆也

 花曇りの午後で

 静かに芽生えた決意

 どんな試練に

 どんな形で守り

 守られていくのか

 青いノートの

 次のページに

 そっと

 ペン先を置きながら

 私は

 私自身の

 鼓動の変化を

 またひとつ

 丁寧に

 聴き取っていく……

 少し花曇り

 気味の心で

 私と隆也

 ともにページを

 紡いでいきたい!

 挿絵(By みてみん)

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