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⭐️色褪せることのない絆⭐️ ✨️EMPATHY 大隅綾音と魚住隆也✨️  作者: 詩野忍


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19/59

✨️第015季 昼下がりの約束✨️

 挿絵(By みてみん)

 光のなかで

 交わされる仮契約

 約束という言葉を

 私はこれまで少しだけ

  「重たいもの」

 として見ていた

 法学部の講義で学ぶ契約法

 判例集に並ぶ

  「約束を守らなかったとき」

 の物語

 それらはいつも

 判決文という

 最終的なかたちで

 冷静に整理されている

 けれど

 私と隆也の

 間に生まれはじめた

  「約束」

 は当たり前だけれども

 そんな条文とは

 どこか質が違う

 たとえば

  「来週も同じ席で一緒に勉強しよう」

 とか

  「試験終わったらどこか行こうね」

 とか

 契約書を交わさない

 書面にも残らない

 けれど

 私の心拍グラフの上には

 相互に交わした

 確かな契約成立

 昼下がりの光と共に

 刻まれていく

 この

 ✨第015季 昼下がりの約束✨

 は私、大隅綾音の中で

   「沈黙」

 と

   「言葉」

 の間にそっと橋をかけるように

 交わされた

 私と隆也との

 確かな小さな約束たちの記録

 まだ

   「告白」

 と呼ぶにはほんの少し遠く

 でも

   「友達」

 とだけ呼ぶには

 かなり大きく

 胸がざわついている

 そんな曖昧な境界線の上で

 春の終わりと

 夏の入口の間の

 やわらかな昼下がりに

 私と魚住隆也が

 交わした未来への

 ごく控えめな

   「仮契約」

 の瞬間を

 心拍の揺らぎといっしょに

 そっと書き留めて置くの……

 挿絵(By みてみん)

 昼下がりの

 カフェの窓辺で

 その日も

 よく晴れていた

 キャンパスの並木道に

 初夏の気配が少しずつ

 混ざりはじめていた頃

 午前中の講義が

 終わったあと

 私はいつものように

 資料室に行こうとして

 廊下で

 隆也に呼び止められる


  「綾音

   今日

   ……お昼

   どうする?」


 聞き慣れたはずの声が

 その日はなぜか

 少しだけ

 胸に深く落ちてくる


   「まだ決めてないけど

   ……どうしたの?」


 私がそう答えると

 隆也は

 いつもよりちょっとだけ早口で続ける


  「法学部棟の下に

   新しくカフェできたから

   よかったら

   一緒に行かない?」


 ほんの些細な誘い

 でも私の中では

 ほんの一拍

 心拍のメトロノームが跳ね上がる

 ノートの片隅に書けば

 きっとこう


   『昼下がりの誘い

    新カフェ→同行提案

    心拍 +6』


 カフェの窓際の席は

 外の光がやわらかく

 テーブルの上に広がっていて

 私と隆也のノートと文献を

 少しだけ眩しく照らしていた


  「この辺

   要約するの難しくない?」


 そう言って

 隆也が

 自身のレジュメを

 私のほうに回してくれる


  「ここ

   判例ごとにまとめるより

   “価値観の変化”

   の軸で整理した方が

   分かりやすいかもね!」

 

 いつものように

 私はつい

 真面目モードで語り始めてしまう

 すると

 隆也が小さく微笑み


  「さすが綾音!

   では……」


 と隆也はペン先で

 レジュメの余白を軽く叩き


  「来週のゼミの発表

   もしよかったら

   一緒に準備しない?

   個別の発表だけど

   骨組み考えるのとか

   ペアでやったら心強いし……」

 挿絵(By みてみん)

 何気ない提案

 けれど

 その瞬間

 昼下がりの光の中で

 私の中にひとつの

  「約束」が

 そっと形を

 持ちはじめた気がした


  「……いいよ!OK!」


 少しだけ

 喉の奥がくすぐったい

 それでも

 できるだけ自然な声で

 そう答える


  「じゃあ来週の水曜

   いつもの図書館の

   あの窓際の

   私と隆也の指定席

   空いてたらそこに!」


 私がそう言うと

 隆也は

 目尻をやわらかくして

 うなずく


  「はい!

   約束!」


 その単語が

 テーブルの上に

 そっと置かれた気がした

 私は

 青いノートの

 新しいページの上部に

 小さく書き込む


   『昼下がりの約束 ①

    来週水曜/図書館窓際席

    ゼミ準備大隅、魚住ペア作業』


 法的な効力なんて

 どこにもない

 でも

 私にとっては

 判例集のどの条文よりも

 ずっと胸をあたためてくれる

  「覚書」

 だった

 キャンパスの木陰で交わす

 未来形の会話


 その数日後

 少し風の強い昼下がり

 学食が混み合う時間帯を避けて

 私と隆也は

 キャンパスの端にある

 小さな中庭へと足を運ぶ

 並木の下のベンチ

 木漏れ日と

 風が運んでくる

 新緑の匂い


  「学食

   今日はすごい行列だったね」


 そう言って

 笑う隆也の横で

 私は

 お弁当箱の蓋をそっと開ける


  「買いに行く気力が

   途中で折れちゃって」


 少し照れながら言うと

 隆也が

 覗き込むようにして尋ねてきた


  「もしかして

    ……手作り?」

  「う、うん

    節約も兼ねて」


 私が答えると

 ほんの一瞬

 彼の視線が柔らかく揺れた


  「すごいなあ……

   いつもちゃんとしてるよね

   綾音って」


 胸の奥で、

 心拍のラインが

 少しだけ上に持ち上がる

 +5くらい

 でも

 その揺らぎは

 不思議と穏やかだった

 お弁当を頂きながら

 私と隆也

 試験やレポートの

 話をしばらく続け

 ふと

 風が強く吹いて

 木の枝が大きく揺れる


  「……試験終わったら……」


 その揺れを

 見上げながら

 隆也がぽつりと言う


  「綾音

   どこか行きたいところ

   ある?」


 突然の問いに

 一瞬

 返事が遅れてしまう


  「え?」

  「いや、その……」

 隆也は

少しだけ視線を泳がせた


 「試験が終わったら

  しばらく自由な時間できるから

  もしよろしかったら……

  どこか

  綾音が行きたい場所

  ……あったらなって……」


 まるで

 未来のカレンダー

 の白紙の部分を

 そっと指で指し示すような

 そんな言い方だった


 私は

 しばらく考えてから

 勇気を振り絞って

 口を開く


  「……海

   行こ!……」

  「海?」

  「うん

   隆也

   伊良湖に行ったことないでしょ」


 言いながら

 私の声が

 思っていたよりも

 ずっと素直な響きを

 帯びていることに気づく


  「海か……いいね!」


 隆也は

 少し目を細めて微笑む


  「じゃあ試験終わったら

   列車で行ける海

   探してみない?

   図書館の勉強だけじゃ

   もったいないし」


 その言葉が

 私の胸の中で

 ゆっくりと形を変えていく


  「二人で」

 

 という言葉は

 どこにもなかった

 けれど

 その沈黙の部分を

 私の心が勝手に補ってしまう


 二人で行きたい

 挿絵(By みてみん)

 その願いを

 声に出す勇気は

 まだないけれど


 私は青いノートに

 そっと書き添える


  『昼下がりの約束 ②

   試験後/どこかの海

   ※「誰と」の欄は、空欄のまま保留』


 法律の世界では

 空欄の多い契約書ほど

 危ういのかもしれない


 でも

 恋の入口ではきっと

 この

  「空欄」

 こそが

 一番大切な空白なのだろう


 ゼミ室の午後と

 一つの

  「またね」

 試験前の週に

 ゼミで使う資料を

 印刷するために

 私と隆也は

 静かなゼミ室にこもっていた


 時計の針は

 午後二時を少し過ぎたところ

 窓の外では

 春の名残と初夏の匂いが

 混ざり合った風が

 カーテンをゆっくり揺らしていた


  「ここ

   どう思う?」


 隆也が発表原稿の一部を指さす


  「“個人の尊厳”って言葉

    さっきから何度か

    出てくるんだけど、

    綾音なら

    どう説明する?」


 私は少し考えてから

 ペンを手に取る


  「うーん……

   “法律の条文の中に埋め込まれた

   人間の物語を守るための最後の砦みたいなもの”

   ……かな」


 言葉にしながら

 私自身でも

 少し照れくさくなる


 でも

 隆也は真剣な顔で

 何度か頷く


  「……綾音は

   やはり

   説明がやさしい……」

  「やさしい?」

  「そう

   判例の話してるのに

   人の顔が浮かぶ感じが……」


 そう言ってから

 彼は少しだけ

 視線を逸らし

 机の上の原稿を

 整えはじめた

 ゼミ室の時計が

 コトリ

 と小さな音を立てて時刻を刻む


  「……ねえ

   隆也」


 自分でも驚くぐらい

 急に言葉が口をついて出た


  「試験が終わってからの話

   なんだけど」

  「うん?」

  「もし

   海に行く日

   ちゃんと決まったら……

   ノートに“約束”って、

   ちゃんと書いてもいいかな?」


 自分でも

 何を聞いているのか

 よく分からないような問いかけ


 でも

 隆也は

 少しだけ目を丸くしたあと

 ふっと微笑む


  「もちろん

   むしろ今から書いといても

   いいくらいじゃない?」


 その言い方がおかしくて

 私もつられて微笑


  「いや

   まだ“仮約束”くらいかな」

  「じゃあ

   “昼下がりの仮約束”ってことで」

 

 私と隆也

 微笑み合い

 静かな時間が戻ってくる

 でも

 その沈黙は

 もう以前の沈黙とは

 少しだけ違っていた

 未来への話が

 ちゃんと

  「二人称」

 で語られはじめた沈黙


 ゼミ室を出るとき

 私はいつものように

 何気ないふうを装って言う


   「じゃあ

    また明日」


 すると隆也が

 少しだけ間をおいてから

 言葉を返してくる


   「うん

    また明日

    そして

    海の件も

    “また今度”ね」


 その

    「また今度」

 が単なる口癖ではなく

 ちゃんと未来を指す

 印のように聞こえたのは

 きっと

 私の心が

 そう解釈したかったから

 だけではないはず


 その日の夜

 私は青いノートの

 一ページを使って

   「昼下がりの約束」

 という見出しを

 大きく書き込んだ

 その下に

 今日までの小さな約束を

 箇条書きのように並べていく


  ・図書館の窓際の席で一緒にゼミ準備

  ・試験が終わったら、どこかの海へ

  ・“また明日”と“また今度”の継続協定


 契約書でも判決文でもない

 でも

 私の心にとっては、

 どんな条文よりも大切な

   

   「約束一覧表」


 心拍グラフのラインは

 大きく跳ね上がることもなく

 スッと基線の上を

 なめらかに走っている


   『≒ +3〜+5の間』


 それでも私は思う

 この穏やかな昼下がりの

 揺らぎこそが

 後から振り返ったとき

   

   「一緒に生きていこう」

 

 という

 長い約束へと

 つながっていく

 初期値なのかも

 しれない……

 挿絵(By みてみん)

 消えない線で

 書かれたもの

 ノートを閉じる前

 私は

 最後のページの片隅に

 小さな一文を添えた


   『約束とは

    心拍グラフの未来形のメモ欄』


 昼下がりの

 光の中で交わされた

 ささやかな

  「また明日」

 や

  「また今度」

 が

 私と隆也の心の中で

 どれほど大きな意味を

 持ちはじめているか?


 それは

 きっと

 私と隆也が

 いちばんよく知っている

 沈黙の季を

 くぐり抜けた私は

 ようやく気づきはじめる

 言葉とは

 沈黙の上に

 そっと置かれる

   「線」

 のようなものなのだと

 その線が

 たとえ

 鉛筆で書かれたものだとしても

 消しゴムでこすれば

 消えてしまうように見えても

 紙の繊維には

 きっと何かが

 微かに残いる

 昼下がりに交わした

 私と隆也との約束もまた

 同じなのかな?

   「また明日」

   「来週も同じ席で」

   「試験が終わったら

    どこかの海へ行こ!」

 それらの言葉は

 すべて過去形になってしまったとしても

 そのたびに

 跳ねた心拍の揺らぎは

 私の中から消えることはない

 むしろ

 これからも

 増え続けていくかもね

 次の

 ✨第016季 消えないペン跡✨

 ではそんな

  

   「消そうとしても消えない線」


 論文の参考文献資料集の余白に

 うっかり並んで書いてしまった

 私と隆也

 それぞれの文字

 借りた本の栞がわりに挟まれていた

 小さな紙片のメモ

 消しゴムでなぞったはずなのに

 光の角度によっては

 まだ読めてしまう

 鉛筆の跡

 言葉にした瞬間から

 もう完全には

   「なかったこと」

 にできないものたち

 それらがやがて

 私と隆也の

 未来の物語において

 どんな

   「証拠」

 として残っていくのでしょう

 青いノートの

 次のページをそっと開き

 私はペン先を軽く宙に浮かせる

 心拍グラフのラインは

 今日も穏やかに基線の上を流れている

 けれど

 そのすぐ下には

 一本の細いペン跡のように

   「この人と

    これからも未来を分け合いたい」

 という願いが

 静かに

 しかし確かに

 刻まれはじめているのを

 感じている

 昼下がりの約束が

 やがて

   「消えないペン跡」

 へと変わっていくまでの過程を

 私はこれからも

 心拍と

 一行一行の言葉といっしょに

 丁寧に

 記録していこう!

 挿絵(By みてみん)

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