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⭐️色褪せることのない絆⭐️ ✨️EMPATHY 大隅綾音と魚住隆也✨️  作者: 詩野忍


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15/61

✨️第011季 並んで歩く影✨️

 挿絵(By みてみん)

 影の距離を測る方法

 人と人との距離は 

 メジャーでは測れない

 心の座標軸は

 いつだって目に見えないところに

 ひっそりと引かれていて

 私、大隅綾音と魚住隆也は

 その線の上を

 知らないうちに

 無意識に歩いている


 同じゼミ

 同じ研究テーマ

 同じ帰り道

 そのどれもが

 きっと

  「近さ」

 の証明のはずなのに

 私の中にはいつも

 わずかな不安が残っている


 本当に

 私は「隣」を歩けている?

 それとも

 隆也の世界の中では

 まだ遠くのひとり?


 そんな問いが

 青いノートの余白に

 薄い鉛筆の線みたいに

 何度も何度も書き足されては

 消されきらずに残っている


 ✨️第010季 まだ名前のない想い✨️で

 私はようやく

 自分の胸のざわめきに

  「在る」

 という身元だけを付与

  「恋」

 と名づける勇気も

  「好き」

 と宣言する覚悟も持てないまま

 それでも確かにここにいる

 と認めた感情


 では

 その“在る”は

 歩幅にするとどれくらいなのだろう?

 一歩? 

 半歩? 

 それとも

 影が触れ合うか触れ合わないか?

 ぎりぎりの誤差程度?


 この

 ✨️第011季 並んで歩く影✨️は

 私と隆也が

 同じ歩道の上で

 同じ信号を待ち

 同じ方向へ進んでいく

 そのささやかな日常を

 すくい上げた記録に


 大きな出来事はない

 告白も

 涙も

 劇的な抱擁もない

 けれど

 小さな言葉や仕草の

 ひとつひとつが

 足元に落ちる影の形を

 少しずつ変えていく


 肩が触れそうで

 触れない距離

 とっさに差し出される手

 同時に漏れるため息


 それらを照らし出す午後の光と

 帰り道の灯と

 薄い影

 影は、嘘をつかない

 だから私は

 隆也との

  「影の位置関係」

 をそっと見つめ直して

 並んで歩く影の輪郭が

 少しだけ重なる瞬間

 そこに宿る意味を

 私はまだ

 言葉にはしない

 でも

 きっともう

 気づいてしまっている……

 挿絵(By みてみん)

 並び方のレッスン

 その日

 講義棟を出た時

 夕方の光が

 いつもより少しだけ斜めに差し込んでいた


  「ねえ隆也

   駅まで一緒に

   今日も歩いていい?」


 珍しく先に声をかけたのは

 私のほうだった

 自分でも意外で

 言葉が出たあと

 胸の奥がふっと熱くなる


  「もちろん!

   ……っていうか

   もう日課だけどね」


 微笑む隆也の横に立つ

 歩き出した瞬間

 アスファルトの上に

 ふたつの影がするすると伸びた


 私の影と

 隆也の影

 それぞれの頭の先が

 少しだけ触れそうで

 触れない距離

 歩幅を

 そっとがんばって

 合わせてみる

 すると影たちも

 私と隆也の

 真似をするみたいに

 ゆるやかにリズムを揃えていく


  (ああ、いま、確かに「並んで」歩いてる!)


 その実感だけで

 胸の奥の何かが

 ひとつ静かにほどけた


 同じ歩幅

 違う鼓動


 横断歩道の手前で

 赤信号に変わる

 足を止めると

 私と隆也の影は

 白線の手前で折れ曲がり

 ふたつ並んで小さく縮んだ


  「この時間の影、好きなんだよね!」


 ふいに私が言う

 隆也は足元を見て

 少し微笑む


  「綾音の影、ちゃんと真っすぐ前向いてる!」

  「え?」

  「ほら。僕のはちょっと右に傾いてるじゃん

   猫背のせいかな」


 見下ろすと

 本当に

 彼の影は

 ほんの少しだけ斜めに曲がっている

 その隣で

 私の影はまっすぐに立っていた


  「……じゃあ、私は、隆也の“猫背補正係”ってことで!」


 照れ隠し半分にそう言うと

 彼は少し肩を揺らして微笑む


  「いいね、それ。じゃあ僕は、綾音の“歩幅合わせ係”!」

  「歩幅……?」

  「うん、たぶん僕は、無意識に綾音の歩く速さ見てるから」


 さらりと言われたその一言が

 胸の内側に

 まっすぐ落ちてきた


  (私の歩幅を、見てくれてる……!)


 鼓動が

 影の輪郭より先に

 ふくらんでいく

 でも私は

 何も言えない

 ただ

 信号が青に変わるまでの数秒間

 足元のふたつの影だけを

 黙って見つめていた


 ベンチとノートと

 私と隆也の二人分の影

 キャンパスの中庭にある

 小さなベンチ

 昼休みや放課後

 そこは大抵誰かが座っているのに

 その日は珍しく空いていた


  「ちょっと寄り道してく?」


 隆也の提案に

 私は頷く

 ベンチに並んで腰かけると

 足元の砂利道に

 影がふたつ

 折り重なるように落ちる


 バッグから

 いつもの青いノートを取り出す

 隆也も

 自身のファイルを開いた


  「この前の“税制の逆進性”の続きさ……

   もし、低所得層への負担を本気で軽くしようとしたら

   単純な税率設定だけじゃ、たぶん足りないよね」

  「うん。生活の“影の部分”まで、ちゃんと計算に入れないと」


 自分で言ったその言葉に

 少しだけ胸がざわつく

 影の部分

 人目に触れないけれど

 確かにそこに存在しているもの


  「影ってさ、光があるから見えるじゃん」


 ノートにペンを走らせながら

 隆也が言う


  「うん」

  「でも、光が強すぎると、影の輪郭がくっきりしすぎて

   それを“負担”として感じる人もいるんだろうなって」

  「……優しい解釈だね、それ」

  「綾音の“光シリーズ”の影版って感じ?」

  「そうかもしれない」


 青いノートの片隅に

 私はそっと書き足す


  『今日の影は二人分

    重なったり

    並んだりしながら

    同じ方向を向いている』


 横目で見ると、

 ベンチの背もたれに沿って

 延びる影が

 私と隆也の肩のあたりで

 かすかに溶け合っていた

 挿絵(By みてみん)

 交差点と

 問いかけのタイミング

 帰り道のいつもの交差点

 信号待ちの人の列の中で

 私と隆也だけ

 半歩分だけ前に出て立っていた


  「ねえ、隆也」


 思い切って

 名前を呼ぶ

 隆也がこちらを振り向く

 夕日が彼の横顔の輪郭を

 柔らかく縁取っている


  「なーに?」

  「もし……」


 また

  「もし」

 から始めてしまう自身に

 内心で苦笑する


  「もし、私が

   “教室観察記録”

   みたいに、

   “帰り道観察記録”

   ってノート作ったら

   どう思う?」


  「それ、絶対にいい!賛成!」


 即答だった

 私が照れて視線を落とすと

 隆也は続ける


  「だって

   綾音の目線で見た“帰り道の僕”って

   たぶん、僕の知らない僕なんだろうなって」


 言葉が

 喉の奥で小さく震える


  「……そんなの、ないよ!」

  「ある!綾音が見てる世界には

   きっと僕が知らない

   光とか影がいっぱいある」


 信号が青に変わる直前

 隆也がふっと微笑み付け足す


  「本当にそのノート作ったら

   いつか一ページくらい

   見せてほしい!」


 その瞬間

 心の中で

 未送信だったメッセージが

 そっと揺れた気がした


  『ねえ隆也

   もし本当に青いノート持ってるなら……』


 交差点を渡りながら

 アスファルトに落ちる影が

 一瞬だけ重なり合う


 気のせいかもしれない

 でも

 その

  「気のせい」

 を私はそっと抱きしめた?

 並んで歩くことの

 ささやかな奇跡

 駅の少し手前

 歩道の幅が急に狭くなる

 区間がある


 いつもなら

 自然と縦に一列になって歩くその場所で

 その日は

 隆也が一歩だけ

 外側へ身体をずらした


  「綾音、こっち!」


 車道側に隆也が立って

 さりげなく

 私を建物側へと促す

 その瞬間

 二つの影の位置関係が

 入れ替わった


  「……紳士的だね」


 少し笑いながらそう言うと

 隆也は照れくさそうに頭をかいた


  「いや、まあ、こういうのは“デフォルト設定”で」

  「デフォルト、ね」

  「うん

   “綾音が隣にいるときは、守備位置を外側に取る”っていう」


 冗談めかして言う

 その一言が

 胸の奥で

 静かに何度も反芻される


 ……綾音が隣にいるとき……


 それはつまり

  「隣」

 が当たり前だと思ってくれている

 ということだろうか?

 頭で考えれば

 いくらでも言い換えができるのに

 私の感情は

 ただまっすぐに

 その言葉を受け取ってしまう

 

 いつもの駅の改札が見えてくる

 足元の影は

 だんだんと短くなり

 私と隆也のすぐ足元で

 ひとかたまりに縮んでいく


  「じゃあ、また明日!」

  「うん。また明日の光の観測、報告するね!」


 いつもの別れ際のやりとり

 でも

 今日は最後に

 ひとつだけ言葉を足してみる


  「……それと、“影”の観測も」


 隆也が一瞬

 目を丸くしてから

 嬉しそうに


  「了解。“綾音と並んで歩く影”の記録、ちゃんと残しとく!」


 改札をくぐるとき

 振り返る勇気は

 まだない。

 でも

 背中に感じる

 隆也の視線の気配だけは

 たしかに

 いつもより柔らかくて

 暖かかった

 挿絵(By みてみん)

 心拍のリズム

 ✨️第011季 並んで歩く影✨️は

 大きな告白も

 劇的な事件もないまま

 静かに幕を閉じようとしている

 でも

 足元の影は知っている

 私、大隅綾音と魚住隆也の距離が

 ほんの少しだけ近づいたことを

 歩幅を合わせるということ

 同じ速さで進むということ

 隆也が車道側に立つという

 さりげない私の守り方

 一見なんでもないように

 見えるそれらの仕草が

 私の心の中では

 ひとつひとつ

 深く刻まれている

 影は

 心拍のグラフみたいと思う

 まっすぐに伸びているときもあれば

 ふとした言葉や笑顔で

 かすかに跳ね上がる瞬間もある

 私の胸の内側では

  「まだ名前のない想い」

 が少しずつリズムを

 変えはじめている

 ただの友だちに向ける鼓動とは

 どこか違う

 でも

  「恋」

 と呼ぶには

 まだ震えが残っている

 その揺らぎこそが

 いまの私そのものなの?

 次の

 ✨️第012季 心拍のリズム✨️では

 身体の内側で鳴り続ける音に

 私はもう少しだけ

 正面から耳を澄ませてみようと思う

 論評の前夜に早くなる脈

 隆也の隣の席が

 空いているかどうかで変わる

 胸の速度

 隆也からのLINEの通知音ひとつで

 乱れる呼吸の長さ

 医学書でも、法律書でも

 説明しきれない

  「私と隆也」

 の特異なパターン

 そのグラフを

 私なりの青いノートの片隅に

 こっそり描いてみたい

 いつかこの影が

 ただ並んでいるだけでなく

 はっきりと

  「寄り添う」

 と言える日が来ると

 その答えは  

 まだ少し先……

 けれど心拍のリズムは

 すでに次の扉を

 そっと叩き始めている


  「また明日」

 

 その何気ない一言の裏で

 今日も

 私の胸は静かに

 でも確かに

 隆也の名前に合わせて

 拍を刻んでいる

 挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
影って人によっては隆也が言うように負担に感じることもありますが、本当にその人を知りたいとか助けたいと思ったら、光と影を共に知って歩むのが良いですよね。 綾音と隆也の帰り道の影は優しく、温かくて、そんな…
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