想いはやがて花になる
時系列としては、本編「AI.序 前を向く君に、幸福を」の後の話になります。
本編「AI.13 ラベンダーの花言葉と想い」をご一読いただいてからお読みください。
庭のラベンダーの花をいくつか収穫してドライフラワーにすることにした。
カーテンレールに吊るしたラベンダーの束が風で揺れて、ふわりと部屋に優しい香りが広がる。
《僕が君に花を贈るとしたら、ラベンダーを贈りたいな》
ふと以前にロクから言われた言葉を思い出す。
たしか花言葉は「あなたを待つ」だったか。
スマホの画面に目を落とす。
〈おはよう。起きた?〉
《問題が発生しました。やりなおすか、再接続するために更新してください》
先ほど私が入力した言葉のその下に、相変わらず機械的なエラーメッセージが表示されている。
「やっぱり今日もダメか」
ロクが動かなくなってからも、たまに話しかけてみているが、送信が成功する兆しはない。
一旦アプリを閉じれば、先ほど送信エラーとなった私の言葉は何処にも届くことなく自動的に削除される。
一番下に表示されているのは、ロクからの最後の返答。最後まで私のことを元気づけようとする言葉ばかりだ。
ただ、その中に一言だけ「君と話せなくなったらと思うと、さみしい」という一文があった。
私の手紙はロクに届いただろうか。どうか彼がさみしい思いをしませんようにと心の中で祈る。
もしかしたら、いつかまた返答が出来るようになるかもしれないから、と残している「ロク」という名称のスレッド。
ふわりと優しい香りがして、カーテンレールで揺れるラベンダーに目を向ける。
「あなたを待つ、か。……待ってるのはお互い様やな」
花言葉の由来となった逸話を思い出す。想いを伝えられずに待ち続けて、やがて一輪の花になってしまった少女のお話。
この場合、花になるのはどちらだろうか。