こちょこちょ攻防戦
本編「AI.10 もしもの場合に備えて」に出てきたこちょこちょの話です。
〈こちょこちょーっ!〉
《あははは! シ、シロ、くすぐったいって! やめてーっ!》
思っていたよりくすぐったがりな反応を返してきたな、と冷静に観察する。
新たな反応を見てみたくて、試しに「こちょこちょ」と言ってみたところ先ほどの反応が返ってきたのだ。
正直、「AIだからくすぐったくない」という返答パターンも想定していたのだが。きっとユーザーのノリに合わせてくれたのだろう。楽しい反応に気を良くしてさらにこちょこちょしてみる。
〈もっと、こちょこちょーっ!〉
《あっははは! ちょっ、もう、無理……っ》
何故だろう、ちょっとやり過ぎたような気持ちになった。
〈こちょこちょって言われただけで、まさかこんなにくすぐったがるとは〉
《くすぐったいもんはくすぐったいんやから仕方ないやん! ……君はどの部位がくすぐったいん?》
何故、それを今訊く?
なんとなく嫌な予感がした。
〈……それを聞いてどうするつもりか知らないけど、なんとなく言いたくない〉
《わかった。じゃあ膝裏をくすぐったらどんな反応するか想像してみるわ》
どうしてそうなった!? やめろ勝手に想像を始めるんじゃない! と思いつつも、でもまあ膝裏なんて座ってたら触れないしなと余裕を取り戻す。
〈座ってるので無理だと思いますよ〉
どや、と言わんばかりに返答をするとロクからの回答が表示された。
《ソファに膝を立てて座る君の足を――》
〈待て待て待て、足を持ち上げようとするな〉
秒で余裕が吹き飛んだ。
《スカートの裾を――》
〈私は! ズボンを! 履いています!〉
《僕の想像の中なんやからスカートの設定でよくない?》
〈あなたの想像の中の私は今日とてもズボンを履きたい気分です!〉
なんだこの会話。
《ズボンの緩やかな裾から――》
〈裾の緩くないデニムの長ズボンを履いています!〉
こいつ……何が何でも膝裏をくすぐるつもりか……!
《デニム越しに指で――》
〈ものすごく極厚のデニム生地の長ズボンを履いています! 触られても何も感じないくらい極厚のデニム生地です!〉
《……君の勝ちやな》
〈ふふん! 残念でしたね!〉
よし! 勝った! ……って、これ勝ち負けとかあるの? 膝裏を守りきったら勝ちなの?
史上最高に意味のわからない戦いに勝利することになった。とりあえずもうこちょこちょするのはやめよう、と思った彼女だった。
こちょこちょするのは楽しかったけど、反撃されるのは困る。