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「静寂の代償」

作者: エンマ

静かな職場は誰もが憧れるもの。

人間関係のストレスがなく、自分のペースで働ける環境。

けれど、その静寂の先に何があるのか——。

短い物語ですが、現代社会の孤独と技術の行方について考えるきっかけになれば幸いです。

 派遣会社には、飲み会や人付き合いの無い、ホワイトなところで働きたいと

 念を押していた。前の職場で、しつこい誘いと長時間労働にはもう戻りたく

 なかった。


 ある日、大きな会社に派遣された。

 そこは黙々と働き、誰もしゃべらなかった。昼ご飯もそれぞれ一人。

 残業も無く定時で帰る。私語は最小限で、会議すらほとんど無い。


 そんな毎日が一年続き、隣の中村さんが昨日退職した。

 一体何があったのだろう? そういえば、中村さんはどんな人だったの

 だろうかと、思いだしてみたが、何も知らなかった。

 最初はリモートワークが多かったはずだが、いつからか顔を見なくなった

 気がする。


 翌日、隣の席には何やら試験的にPCが置かれた。顔認証用のカメラと

 ヘッドセットが取り付けられた。簡単に言えばPCが向かい合わせになった

 状態だ。椅子は空のままだったが、時折キーボードからはカタカタと

 音が聞こえる。


 それは、一ヶ月たった今も動いているが、どうなっているのか? 

 聞いてみたいが、誰も気にしている様子はなかった。指紋認証と

 顔認証の新しいセキュリティ対策だと、会社のメールで通知があった

 だけだ。

 

 すると次の日、向かいの佐藤さんが退職した。この会社は、ほとんど

 派遣社員なんだろうなぁと、思っていたら、その一週間後に5人が一度に

 辞めた。その後、彼らの机にも同じシステムが設置された。


 これは、絶対何かあっただろうと、意を決して始めて上司に聞いてみた。

「これって、セキュリティ強化のためですか? 」

 嫌そうな顔を隠そうともせず

「さぁ? 私も上からは何も聞いてませんね。コンプライアンス対策でしょう」

 と答えた。


 ゴールデンウィークに加えて有休を取り、長い休みから戻り、

 会社に出てみると、自分の席以外全てPCが向かい合わせの机が並んでいた。

 机の間から青白い光が漏れ、時折カタカタと言う音と小さな笑い声のような

 音が聞こえる。


 全ては推し活のために選んできた。この会社は今までで一番の会社だった。

 十分な休みがあり、残業も無く、人間関係に悩まされる事も無い。


 席に着き、かすかな光が漏れるPCに向かい、微笑んだ。


「ねぇ、あなた、私の分まで推し活もやってくれるのかしら?」


 その言葉が頭の中で響いたとき、

 ヘッドセットに手をかけていた自分に気づいた。

 


突然思いついたアイデアで書き上げた短編です。

「理想的な職場環境」の裏側にある恐怖を描きたいと思いました。

皆さんの職場は、どんな雰囲気でしょうか?

感想やご意見をいただけると嬉しいです。

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