殻なしたまご(好事百景【川淵】出張版 第十四i景【卵】)
食べたくない。
※ コロン先生主催の【たまご祭り】参加作品です
所長、できました!
ついに、完成したんですよ。
ブドウやスイカは種なしがうまれて、ずいぶん食べやすくなったって話はしましたよね?
いちいち種を吐き出すのがめんどうなひとにも、食べてもらえるようになったのはおおきな成果だと。
だから、わたしのチームは。
たまごの殻をむくのがめんどうだったり、殻を割るのが苦手なひとたちのために開発したんですよ——殻なしたまごを。
見てください、このニワトリ。
なんの変哲もないように見えて、うむたまごは全部、殻なし。品種改良はすんで、こいつの子孫のメスは、ぜんぶ殻なしたまごをうみます。だから、ひよこをうむときは、卵生の鳥類のくせに、哺乳類のような胎生みたいなうみかたを——殻がないから。
もちろん無精卵なら、まるで殻を割って出てきた生たまごのような、黄身と白味だけの状態で産卵するわけで。
ふふ、すごいでしょう?
これで、殻なしたまごが市場に出まわる日が見えてきたってことですけれど、じつはまだ課題があるんです。
ニワトリどもが、こちらの用意した出産トレイのうえで、「きれいに産卵」してくれなきゃいけませんからね。
ええ、たしかに。
殻なしたまごも、小屋の好きな場所でうみ落とされたら、むき出しの黄身と白身はぐちゃぐちゃになって、床を汚してしまうだけ。お皿に割った生たまごのように、出産トレイのうえに「じょうずに産卵」してもらわなきゃなりません。だけど、それはしつけをしっかりすればすむこと。
むしろ、そっちより難しいのは。
トレイのうえに「じょうずに産卵」ではなく、「きれいに産卵」してもらうほうなんですってば。
え、意味がわからない? どうちがうのかって???
ふぅ、所長!
ニワトリがたまごを、どこから産卵するかご存じでしょう?
殻のないたまごを、そこから。汚さずに「きれいに産卵」してもらわなきゃなんないんです。
こいつはしつけだけじゃどうにもならない。
この課題がクリアできないと、殻なしたまごを市場に出まわらせること叶いますまい。そいつが、どうにも難しいんですよね。
あぁ、あと一歩だというのに!!