忘れたころに ~二人でベランダから見る月~
以前、月の土地は自由に売れると、どこかで聞きました。証明書のようなものは誰でも作ることができると。
スマホのAR(拡張現実)って、実はあまり知らないのですがどのくらい進んでいるのでしょう?
今、クラスの企画でスマホのアプリで何を作るのか決めている。
「そういえば、月の土地って誰でも売れるんだよな」
クラスの誰かが言った。
私はいきなり何を言いだすのかと思ったが、彼は続けてこう言った。
「この土地を自由に売れて、スマホを月にかざすとAR(拡張現実)のような感じで、自分の土地の境界と名前を画面に表示するアプリが作りたい」
一瞬、クラスが静かになった。しかし次の瞬間。
「いいなそれ」
「面白そう」
「やってみよう!」
大きな声が上がった。
これにみんなが賛成して、クラス全体で作ることになった。
拡張現実とはリアル世界にデジタル情報を重ね合わせることでリアルを拡張するものである。
スマホで外の景色を画面で覗いたときに、そこに人や物を合成するようなものである。
最終的にはお金で土地を売るのではなく、スマホを持って歩いた距離でポイントがたまり、ユーザーはそれで購入と言う感じのアプリにしようということになった。
何か月後かにアプリは完成して、みんなであちこち歩いてポイントをため、土地を買っていった。
「時矢君、お互い隣の土地に隣接するように土地を買おうよ」
ここで自己紹介。私、西園 奈央、学生です。
実は時矢君とはとても仲が良いのです。
「うん。そうしようか。どこの土地が良いかな」
私と時矢君とで土地を選び、購入した。
その後も時矢君とは、お互い仲が良く、付き合っていた。
ある日、時矢君と喧嘩した。
しかし、すぐにまた仲が良くなり、元通り。
そんなのを何回も繰り返し、その後、社会人になり結婚した。
結婚してから、何年か経ったある日、二人でベランダで月を見ていた。
「綺麗だね」
「そうだね」
「そういえば、月と言えば……」
ほぼ同時にその言葉が出た。
すっかり忘れていた、昔クラスで作ったスマホの月の購入アプリを起動してみた。
まだサービスは停止してなかった。
私たちはスマホを月にかざしてみた。
画面に昔、購入した月の土地の境界線が現われる。
私と時矢君の土地が一つの境界線で囲われて一つの大きな土地になっていた。
「クラスの誰かも、こんな感じに大きな一つの土地になっている人もいるのかな」
私はそう呟いた。
3年ほど前に描いたショート漫画『月の土地を売ろう』が基になってます。今回のとだいぶ毛色が違いますが。