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33 従者

 ジェフリーはとても優秀な従者だ。主人であるレオハルトを立てる事を決して忘れない。同じく彼を支える立場にある婚約者の私とはえらい違いだ。原作での刺々しさもなくなり、穏やかで優秀なジェフリーが、大会の数日前、珍しく私に相談してきた。


「私は……どうすべきでしょうか」

「本気でいいと思いますよ」

「しかし! この大会で殿下が優勝すれば今後の王位継承問題においてかなりプラスになります!」

「大会に優勝するほど有用な従者がいるのも十分プラスになるのでは?」

「そんなもの! 殿下であればもっと優秀な者がこれから集まるでしょう」


 いやいや、ジェフリークラスの人材なんてそんないないから。だから五年前ジェフリーに会えなくて焦りもしたし、必死にレオハルトとの関係改善する方法を考えたのだ。


「レオハルト様の性格はご存知でしょう? 本気でやらなければ信用を失いますよ」

「だから迷っているのです……」


 主人の評判か、自分との関係か。


「ていうか貴方! レオハルト様に勝てると?」

「そうですね。五回戦えば二勝はいけると思っています」


 そこは忖度なしに正直に答えるのか。ジェフリーが言うなら本当にそのくらいの実力差なんだろうな。


「いい勝負ね」

「ええ。訓練ならいいのですが、この大会の結果は陛下のお耳にも入りますから」


 従者に実力で劣る王子か……やっぱりイメージ良くないかな。でもレオハルトのあの真っ直ぐで一本気な性格を考えると絶対にジェフリーに手加減されるのは嫌だろう。


「うーん。例えレオハルト様が負けることになっても本気でやる方がいいと思いますよ」

「ですが私が勝った場合のことを考えると……」


 もしジェフリーが手を抜いてレオハルトが勝てば、きっと彼は傷つく。今後の友情に響くかも……なんてことはわかってるだろうな。本当にこの国やレオハルトの今後を考えるなら友情を捨て、従者としてレオハルトの勝利だけを考えるべきだとわかってる。わかっているけどレオハルトとの友情を捨てきれないから私に相談してきた。


(友情を選べって言って欲しいんだろな)


 しかしジェフリーには感情的に訴えるより現実的な話をした方が良さそうだ。


「剣術大会には学生を見にスカウトマンがたくさんくるって話だし、自分の為に従者に手を抜かせたと思われる方がレオハルト様の評価に響くのでは?」

「……その考えはありませんでした」

「あはは! 追い詰められすぎよ! そうなったらそうなった時考えましょ」


 やっとジェフリーの目線が上がった。


「だいたいどうしたって、文句言うやつは言うの! ちょっとでも粗探ししてね。今までだってそうだったじゃない」

「そうですが……」

「考えるだけ無駄無駄!」


◇◇◇


 一つ前の試合と比べ、こちらの二人はなんとも楽しそうに試合をしている。お互い相手の手の内はわかっているので、その裏をかこうとフェイントの嵐だ。ジェフリーに雑念はなさそうだし、いい試合ができるだろう。


「どっちが優勢なの~?」

「僕に聞かないでよ〜」


 アイリスもジュードの治療が終わりこちらへ戻ってきた。ルカは剣術に関して解説役にはなれない。一応名門貴族の長男として少しは扱うことができるが、あの母親に直談判して剣術の授業を辞めさせてもらったのだ。ルイーゼも審判側だし、私達は細かい試合内容がわからないまま試合を見守っている。


「あの方のおかげんは?」

「フィンのあのブッ飛ばしが効いてたわ〜」


 未来の聖女とは思えない悪い笑顔がそこにあった。


「煽ってカウンター狙ってたんもんね~カウンターで返されちゃってたけど」

「じゃあフィンはそれがわかってたからあんなおっかない顔して華麗に避けたんだ! やるじゃん!」


 剣術大会で心理戦まで要求されるとは、原作からじゃ読み取れなかったな。


「なかなか決まりませんわね」

「二人とも体力あるなぁ」


 我々が呑気に話している間も、レオハルトとフィンリーの試合は続いている。

 はじめの方こそ離れて睨み合う時間帯もあったが、今は打ち合いの応酬だ。木剣は思ったよりずっしりと重い。アレを片手で持って振り回しているなんて信じられない。筋肉がつくわけだ。


「お! レオハルトが押し始めたんじゃない?」


 レオハルトが手数を増やし、ジェフリーは守りに入ったが、すぐに同じように手数を増やして押し返した。お互い一歩も引かず、そのままのスピードを維持している。


「流石に二人とも疲れるでしょ……」


 仕掛けたのはジェフリーだ。両手持ちに変え、パワー重視で剣を振り抜く。レオハルトは受け止めるも少し剣が弾けてしまい、ついに体勢が崩れてしまった。もちろんそれをジェフリーが見逃すはずはなく、渾身の一撃をレオハルトの体に叩き込む。


「……!!」


 これは決まったな。ジェフリーの勝ちだ。レオハルトは後ろに倒れながら辛うじて籠手でガードするもダメージが……


(あれ!?)


 ジェフリーの頭が後ろにのけぞっているのが見えた。レオハルトの剣がジェフリーの目の前に突き出されている。


「避けた!?」


 ジェフリーは危機一髪その一撃を避けたかにみえたが、そのまま背中から倒れてしまった。そしてそのまま動かない。


「それまで!」


 歓声が沸く。レオハルトも倒れていたが、腕を押さえながら自力で起き上がった。校医のワイルダー先生がすぐにジェフリーの方に駆けよって治療魔法をかけている。

 私達四人では何が何やらわからない。周りを見渡しても頭の上にはてなを浮かばせている生徒が多いようだ。


「顎に当たったんだよ」


 急に背後から声がして全員で振り返った。ルカが私達を庇うようにスッと前に立つ。どうやらジュードが解説してくれるようだ。


「この国の第一王子はなかなかガッツがあるようだね。最後まで諦めなかった」


 ジュードが目線をフィールドの方へ向けたのでこちらもその視線を追うと、ジェフリーが立ち上がっていた。レオハルトと肩を抱き合っている。


「彼の従者も流石に決まったと思っただろうに、それでも避けようとしたんだからすごいよ。結局顎には当たって……うぅ~っ! 痛そうだったなあ」


 アッパーが決まったようなものなのか。あれをくらうと脳が揺れて体が言うことをきかなくなるというし、それで倒れてしまったのか。 


「レオハルト様が勝って嬉しいかい?」


 ジュードが急に私に顔を近づけてきた。おい。距離が近いぞ。


「もちろんですわ」


 動揺するのも癪なので、ニコリと余裕を持って応対する。彼の緋色の瞳が面白いものを見るように輝いている。


「次の試合はどっちを応援するの?」


 そう言ってさらに顔を近づけてくるが、一切身じろぎしない。私を動揺させたかったらフィンリー様を連れてきな! って、コイツそれをわかってるからこの質問をしたのだろう。そういえば洞察力のあるキャラだったな。


「レオハルト様ですわ」


 馬鹿にしやがって。こちとらもう五年、フィンリー様を崇めながらもレオハルト一番という姿勢を対外的には貫いてきたんだっつーの。


「ふーん」


 なにがふーん、だよ。


(あ! コイツが試合中にフィンリー様になにか言ったのが原因でフィンリー様があんな切ない背中を見せたんじゃ!?)


 フィンリー様にあんな顔させるとは……覚えとけよ! と、言いたいが、私としては幸せな時間だった。


「ジュードさまぁ~~~」

「ああ、わるかったな。そろそろ行こう」


 取り巻きの女子達がねっとりと甘い声で名前を呼ぶと、やっとジュードは去っていった。


「この子たちに慰めてもらうのさ」


 聞いてないことをわざわざ……本当に余計なことを。去り際のウインクも腹立たしい。


「嵐のようなお人ですこと」


 長く息を吐きながらアリアは呟いた。

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