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26 お取り潰し-1

 家を潰せってどういうこと? 時代劇とかでみた『お家お取り潰し』ってやつをしてほしいの? 原作ではリディアナのせいでフローレス家は爵位を失っていたが……。


「それは……リッグス家の爵位剥奪ということですか? それって領地をなくして貴族ではなくなるってことですよ?」

「んなこたぁわかってんだよ!」


 やっぱりわかっていってるのか。どうしよう、彼の望みを叶えるべき?


「てことは今回レヴィが大暴れしたのって、問題起こしてリッグス家にダメージ与えたかったからってこと?」

「そーだよ。つーかなんだその呼び方!」


 アイリスの変わりように今更気がついたようだ。


「お前らが話せっつーから話したんだぞ! どうにかしろよな!」

「えぇ~……」

「フン! 結局こうなるんだ」


 事の大きさについ返事を躊躇ってしまった。家を潰すなんて、いよいよ悪役令嬢のやることじゃないか。


「なんで?」

「あ?」

「理由教えてくんなきゃそんな大変なこと簡単にやれないじゃん」


 アイリスがいてくれてよかった。ズバズバと聞きたいことを聞いてくれる。というかアイリスはやるつもりなのか。貴族の家を潰すのなんて国王くらい権力がないとできないぞ。


「あー……」


 レヴィリオは言いにくそうに、だがアイリスの本気を感じ取ったのか、ちゃんと理由を話してくれた。


 嫡子となった妹は小さな頃から子供らしい事は何も許されず、常にスパルタ教育を受けているらしい。リッグス家にとって彼女はかなり久しぶりとなる高魔力保持者なのだ。


「思う通りにならなきゃ父親からも母親からも()たれるんだ。躾だって言ってな。俺は一度やり返したらビビって手を出されなくなった。だけどアイツは絶対にやり返さない……そうなるように徹底して教育されたからな。せっかく生き残れたって言うのに……」


 それでさっき、私がアイリスを扇子で打とうとした時に怒ったのか。立場の弱い者が理不尽な暴力を受け入れることが許せないのかもしれない。妹と重なるのだろう。


「嫡子は妹様と伺いましたが、彼女が当主になれば家の在り方も変えられるのでは?」


 貴族にとって当主の力は絶大だ。妹本人が当主になるならそれまで待つという手もある。強硬手段をとって家名を傷つけるより、そちらの方がよっぽど簡単で現実的だ。時期が問題なら、彼女を早く当主に据えること方法を考えた方がいいんじゃかいだろうか。うちのお母様がお爺様を引きずり下ろしたように。


「クソ両親と志を同じくするクソ男が婚約者になっちまった。アイツは名ばかりの当主になる」


 悔しそうに顔を歪めていた。そのクソ男がリッグス家を取り仕切ることが決まっているようだ。政治や領地経営に強い配偶者が取り仕切っていることはあるが、全権を握られてしまうということか。


「なら尚更貴方が側に居て支えてあげなければ! 退学になってる場合じゃないですか」

「学園に入学できたのは世間体のおかげだ。子供を学園に入れないなんて周りから何言われるかわかったもんじゃねぇだろ」

「それはそうですね……」


 この国の貴族の子がこの学園に入学しないということは、その家の経済力に問題があるか、本人がよっぽどヤバいかだと思われてしまう。どの道、『家』に問題があるとはどこも思われたくないのだ。


「クソ野郎どもは早く俺を追い出したくてたまらないのさ。卒業したらアレコレ理由をつけて家には入れないだろう」


 彼の両親は子供に愛情があるタイプではないようだし、反抗的な息子がいるとなにかと不都合なのだろう。

 レヴィリオの妹の話を詳しく聞くと、原作には描かれていない詳細が明らかになった。彼女は契約魔法という特殊魔法の使い手だった。

 契約魔法では、魔法によって契約上の取り決めを履行し、それが守られない時には最悪命まで奪うことができると言われている。この特殊魔法もなかなかレア度が高い。氷石病で死にかけただけあって、魔力量も多い為か幼いながら契約魔法もうまく使いこなしたらしい。


(けど魔法の発動条件が特殊だからそうそう簡単には使えないのよね~)


 治療魔法や防御魔法のようにホイホイ使える特殊魔法ではないのだ。


「それでクソ野郎どもは欲まみれになっちまった」

「どゆこと?」


 アイリスだけでなく私もわからない。契約魔法は商売事に大変重宝される。その仲介をすればそれなりにお金は入るだろうが、治癒魔法ほどボロ儲けができる魔法ではない。あると便利はなくても平気というやつだ。


(重宝はされるけど、それほど頻繁に必要なわけじゃあないし)


 『欲』の内容を考え付く間もなく、レヴィリオが答えをくれた。


「奴隷だよ」

「この国では認められてないことですわ!?」

「それはやり方次第だろ」


 契約魔法は双方の同意が必須だ。それから本人たちの血液。その二つがそれがなければ魔法は効果を発揮しない。


「身売りってこと?」

「それもなくはないが、そういうのはわざわざ金払ってまで契約魔法を使う必要はねえ」

「じゃあどういう……」


 これだから世間知らずのご令嬢は……と少し呆れたように話し始めた。


「まずは奴隷になる奴を集める。娼館に売る女はもちろんだが、今人気があるのは体力のある若い男だ。国外に売ることもあるし、国内でも最近じゃあどこも鉱石の採掘の人手が足りてないらしい」

「奴隷になりたい人なんてそんないる?……そんなにリッグス領の人ってお金ないの?」


 いや、リッグス家の経済状態はかなりいいと聞いた。領民からとる税に関しても重くないはずだ。原作でそこまで情報があったわけではないから比べられないが、少なくとも数年前に王都のパーティーで見かけた彼の両親は良いものを身に着けていたことを思い出した。


「だから騙すんだよ」


 何をどうして騙すのかと思ったら、字の読めない平民を騙して契約しているそうだ。仰々しく書類を作り、それに血判を押させることで契約魔法が成立するようにしているらしい。契約魔法を前に国の法律など無意味だ。この国の法律で認められないのだからと言って契約破棄することは出来ない。魔法で縛られてしまっている。


「契約魔法には双方の同意が必要だって聞いたけど」

「それも言い方ひとつだな。最初は良い条件を提示して人を集める、そんでその後『この契約書』に異論がなければ血判を押せって言うだけで魔法は成立だ」


 この契約魔法の内容は死ぬまで無償労働するというなんとも阿漕なもので、逃げようとすれば体に電気が走り痛みでのたうち回ることになるそうだ。


「それでも契約違反で死ぬほどの魔法をかけているわけじゃないからな。一人逃げ切った奴がいてよ……それで知ったんだ」

「妹さんはそれを知ってやってるんでしょ?」


 思わず眉間に皺がよる。それなら両親と同類ではないだろうか。


「問い詰めたらよぉ……クソ両親がアイツの好きな男を人質に取ってやがった」

「でもそんなの騙されて奴隷にされた人達には関係ないし」


 アイリスが珍しく怒っていた。

 確かに……彼の妹の境遇を考えると同情は出来るが、だからといってそれが許されるわけじゃない。


「家を潰したければその奴隷商売のこと、国王にチクったら終わりじゃん?」

「んなことしたら妹は地下牢行きだ」

「だからそれだけのことしてんでしょ」


 グサリと突き刺すように言い放つ。


「それでも助けてやりたてぇって思っちゃ悪いかよ……俺の妹なんだぞ……」


 これまでの強気の姿勢はどこへやら。シュンと項垂れているレヴィリオはただの妹想いのお兄ちゃんだ。アイリスも今のを聞いて思うところがあったようで、追撃せずに次の言葉を待っている。


「だからよぉ。落とし前ってわけじゃねぇけどよぉ……リッグス家を潰してなくすしかねぇんだ……俺らがなにより大切にしてる貴族って身分を差し出すしかねぇ」

「まるで平民になるのが罰みたいな言い方ね」


 つい冷たいことを言ってしまった。なんせ前世は平民だったもんで、いまだにその感覚が強い。


「んなこと言ったって……俺達が持ってるもんで一番手放すのが難しいもんだろ」


 そうしてポツポツとその後の計画について話してくれた。

 レヴィリオの妹は契約魔法だけでなく契約無効の魔法も使いこなせる。リッグス家という縛りから解放されたら奴隷にされてしまった人を探し回って全て解放するつもりだと。


「生涯をかけて全員を解放するつもりだ。だから妹を地下牢に入れるわけにはいかねぇんだよ……」

「……リッグス様もご一緒に?」

「あたりめーだろ。……俺が地下牢に行かなかったらだけどな。奴隷売った金で暮らしてたんだ。俺にも責任はある」

 

 彼は貴族と言えどやっていいことと悪いことがあるというモラルがあるようだが、どうやってこう育ったんだろう。彼の言うクソ両親の影響では絶対ないのはわかる。

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