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24 再び悪役令嬢に

 医務室から戻ってきたアイリスはガックリと項垂れていた。


「ダメだった~~」

「でしょうね」


 私のやっぱりね。という顔を見てアイリスは口をへの字にして嘆いた。


「凄んでも全く効かないんだけどー!?」

「怖さが全然全く少しも足りないのよ」

「そんなに!?」


 私からの評価にアイリスは驚いていた。ワイルダー先生にも何事かと思われたらしく、詳細を聞き出す為だと事情を説明したら大笑いされたそうだ。


「悪役ヒロインって……どこからその自信が沸いたのか知りたいわ」

「辛辣じゃ~ん!」


 そう言いながら私の部屋のソファーにダイブした。恥ずかしかったようで足をバタバタさせている。これを機会に自分のキャラクターを今一度よく考えるのもいいだろう。


「毒の方はどうだったの?」

「あー! あれヤバかった! ただの魔物毒じゃないわ! 魔物毒を改良してる!」

「改良って人の手が入ってるってこと!?」

「そう! ガチでヤバい薬!」


 レヴィリオの部屋からはそれらしき小瓶が十本出てきたらしい。その内半分はまだ中身が残っていて、それと今回ワイルダー先生が取り出した毒と比べたら一致したそうだ。魔力増強薬と言っていたが、本当に魔力は増えていたのだろうか? レヴィリオの通常の魔力量がわからないから比べようがないが、攻撃魔法の威力はなかなかだった。ただ暴力性も上がっているし自制もきかないようだから、軍事的にはリスクが高すぎて使えないだろう。そうすると一体誰がなんのために?


「レヴィリオは何か話した?」

「だからダメだったんだって~~!」


 彼は予想通り反抗的な態度だった。もちろん感謝も反省の言葉もない。どうやって手に入れたのか、どこで手に入れたのかを聞こうとしても、こちらを馬鹿にしてくるか、無視するかだったそうだ。


「別に退学でもかまわないって言ってたわ~」

「ずいぶん強気ね。レヴィリオって原作となにか変わったことってあるのかな?」

「あーそうそう! 嫡子じゃなくなってた! 妹が継ぐんだって。やっぱ氷石病から回復したんだってさ」


 原作では死んだ妹の代わりに嫡子になって、急に親から期待が重くなり嫌気がさしたところで反抗期に突入していた。今回はどうやら親から全く相手にされていないらしく、自暴自棄になっているらしい。


「親に振り向いて欲しくて、かまってちゃんになってるってこと?」

「いや~耳が痛いわ~」


 アイリスも前世では親に全く期待されなかったと言っていた。彼女を傷つけることを言ってしまった。


「ごめん!」

「いやいや! レヴィリオ、気持ちはわからなくもないけど今回のはやりすぎっしょ! あたし、これでも一応他人様に迷惑かけるようなことはしてないつもりだったし~」


 親の気を引きたくてもやり方がまずいのは確かだ。

 少し気まずい空気になった時、ノック音が聞こえエリザが入ってきた。


「お嬢様、学園長がお越しです」

「ここに?」

「はい。アイリス様もご一緒にと」


 なんだか慌ただしい一日だ。寮の応接間に行くと本当に学園長が来ていた。バーク先生も一緒だ。


「お待たせいたしましまた」

「急に申し訳ない。ディーヴァ君、先程はご苦労だったね。お陰で順調に調べが進んでいるよ」

「いえいえ」


 そんな話するために忙しい学園長自らここまで来たわけではないだろう。アイリスも少しかまえている。何を言われるか不安そうだ。


「ご用件は?」

「話が早くて助かります。フローレス君にお願いがあってきたのです」


 ほらやっぱり。明日まで待たず、呼び出しもせず、わざわざ女子寮まで来たということは、『お願い』の内容はきっと簡単なものではない。


「ディーヴァ君が先程やろうとした事、君にお願いできませんか?」

「……?」


 なんのことかわからず戸惑っていると、バーク先生が助け舟を出してくれた。


「レヴィリオ・リッグス好みの女性を演じるというやつです。ワイルダー先生から話を聞きましてね」

「え?……えっ!? 悪役令嬢……そ、素行の悪い令嬢になれということですか!?」


 結局こうなるのか! やっぱり他人から見てもアイリスより私の方が適任だよね。なんせ五年前までブイブイ言わせてましたし。


「実は先程さらに二名、同じ症状の者が現れたのです」

「え!? 大丈夫だったんですか?」

「クラブ活動中でしたが、暴れ方はリッグス君ほどではなかったようでしたし、二件ともたまたま近くに教師がいましてね。大事にならずに済みました」


 あの毒はレヴィリオを狙い撃ちしたものではなかったのか。それにしても展開が早い。どんどん後手に回ってしまっている気がする。


「リッグス君の時と同様に二人とも半覚醒状態で尋ねたのですが、薬の入手先は彼からだったのです」

「賭博場への出入りは?」

「聞く限りありません」

「……薬の出所はリッグス様しかわからない、ということですね」


 今この毒だか薬だかの手掛かりはレヴィリオしか知らないのか。


「彼の信用を得て、詳細を聞き出せと……」

「そうです」


 本人から聞き出すのにどれだけ時間がかかるだろう。そもそも信用されるだろうか。


「もちろん賭博場も調べるつもりですがね。どうやら彼が暴れたあの日から閉まっているようでして」

「賭博場の件、ご存知なのですか!?」

「もちろん把握してますよ」


 賭博場は学園の小悪党達の秘密の場所って感じだったが、実は原作でも把握されていたのだろうか。


(学園長……侮れないわ)


 この賭博場もレオハルトとアイリスを中心に摘発して教師陣の評価を上げるんだけど、もう知られてるならあまり効果はないかもしれない。


「先ほどの件、お受けいたします。が、あまり期待はしないでくださいませ」

「助かります。ここにきて手詰まりになってしまいましてね」


 乗り掛かった舟だ。ほっておいたとして、問題がさらに大きくなってから火の粉を被ることになるかもしれない。この国の第一王子であるレオハルトやその関係者である我々へのダメージもわからないし、不安要素は取り除いておくべきだろう。


「……秘密にしてくれと頼みましたが、貴方に不利益が生じそうになった場合は開示してかまいません」

「ご配慮感謝いたします」

「こちらこそ」


 この学園長に恩を売っておいて悪いこともないだろう。


◇◇◇


「設定を練るわ」

「楽しそ~! どんな悪役令嬢になる?」


 アイリスがワクワクしているのがわかる。こうなれば本格的な悪役令嬢になってやろうじゃないの。……レヴィリオの前でだけ。


「言っとくけどアイリスも一緒によ。すでにレヴィリオの前で悪ぶってるんでしょ?」

「原作のリディアナっぽく振る舞ったんだけどねぇ」


 なんでダメだったかわからないと言いたげに肩をすくめている。


「ワイルダー先生からはなにか言われた?」

「気の強い令嬢の取り巻きの取り巻きレベルだってさ~そんなショボかったかな~」


 やっぱりたいしたことはなさそうだ。


「……仕方ないわね。アイリスは私の取り巻きというか、下僕扱いにするわ」

「いいじゃんいいじゃん! 悪役令嬢っぽい単語キタキタ!」

「先に謝っとくわね。たぶんアイリスの扱いは酷くなる。出来るだけ早くレヴィリオには吐かせたいから、本気の悪役令嬢をやるわよ」

「きゃー!!! もちろんもちろん!!!」


 本当にわかってるだろうか? さっきから生き生きと楽しそうにしているのはなんでだろう。


「あたしさ~、原作のリディアナ好きだったんだよね〜! それがリアルで見られると思ったら楽しみでさ! どんどんやっちゃってよ!」


 そこまで言うなら大丈夫そうだ。こう言うのは中途半端にやって見抜かれるのが一番ダサい。恥ずかしがってはいられない。


「レヴィリオは芯のある悪役が好きみたいだから、悪の美学を作るわ」

「作ろう作ろう〜!」


 あっという間に夜は更けていった。

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