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23 悪役計画

 ついこの間やっとのことで真実を告白したばかりだと言うのに、もう新しい秘密ができてしまった。


「どうだった?」


 ルイーゼはアイリスと私がレヴィリオを探しに医務室へ行ったことを知っている。昼食中の話題としてなんとなく出したのだろうけど、二人してギクリと反応をしてしまったので、全員の興味をそそってしまった。


「何かあったのか?」


 レオハルトが心配そうに聞いてくる。


「大丈夫?」


 フィンリー様も察したようだ。


「あーー……そのことなんですけど……ごめんなさい。話せない事情ができてしまったの」


 嘘をつくのは心苦しいので、出来る限りの真実を話す。


「ごめんね……」


 アイリスも一緒に謝ってくれた。


「わかりましたわ」


 アリアが頷くと同時に、皆も頷いてくれた。


「えーー! 僕にも秘密なの!?」


 ルカだけは不満そうだ。今までルカにだけは全て話していたから、私としてもなんとなく物足りない。


「ルカ様、聞き分けがありませんよ」

「うっ……はぁい……」


 アリアにピシャリと嗜められ諦めたようだ。


「マジ? いいの?」

「何がでしょう?」


 ジェフリーは不思議そうに尋ね返した。アイリスも私と同じように追求されると思っていたのだろう。アッサリしすぎていて拍子抜けだ。


「いや、もっとなんか……この期に及んで隠し事なんて責められるかと思ってさ」

「私達はお二人を信用しておりますので」

「二人が話さない方がいいって判断したなら、それが正しい答えだと思うよ」


 ルイーゼも優しく答えてくれた。思いの外信用されていたことがわかって嬉しい。ルカはまだブウたれているが。


「そう言えば、剣術大会の日程が決まったんだ!」


 フィンリー様が気を利かせて話題を変えてくれた。

 剣術大会は原作でもあったイベントだ。夏季休暇前に開催される。レオハルトの見せ場回だった。全学年の上位成績者だけで行われるトーナメント形式の試合なのだが、いつも(アイリスには)優しいレオハルトの男らしく剣を振るう姿を見てキュンとしてしまう場面があった。

 決勝はレオハルト対フィンリー様で、かなりいい勝負にはなるのだが、結果はレオハルトが勝つ。今回はすでに色々事情が違うのでいったいどうなるか。


「一学年は成績上位者五名が出場できるんだけど、俺達皆入れそうだよ」


 俺達というのはルカを除いた男性陣のことだ。


「いや、ルイーゼの圧勝で決まりじゃん!」


 思わずルカが突っ込む。この国で彼女に勝てる人間はいるのだろうか。少なくともすでに魔法なしの剣術だけなら学園内に勝てる生徒はいないだろう。剣術の担当教師も負けを認めているらしい。


「私は出ないわよ。審判役を頼まれてるから」

「ルイーゼは別格だからな」


 負けず嫌いのレオハルトとフィンリー様も認める圧倒的な実力の差だ。剣術大会は毎回ヒートアップした生徒が『止め(やめ)』の合図がかかっても追撃してしまうことも多く、止める側も大変だ。その辺ルイーゼなら難なく止めさせることができるだろう。


(アイリスが医務室で働いているからこそのイベントもあったのになぁ)


 怪我を隠すレオハルトにいち早く気が付いたアイリスがそっと彼を治療するのだ。あのジェフリーでも気が付かなかったのに……! と、自分を気遣ってくれるアイリスに対してレオハルトはいたく感動していた。


「ルイーゼいいの? 生意気な上級生シメるっていってたじゃん?」

「生意気なのはもうシメ終わったわ」


 男性陣が目を逸らした。どうやらその瞬間を目の当たりにしたようだ。実技関係の講義は内容によって全学年合同のものもある。愚かにもルイーゼのことを噂で聞いた上級生が、彼女の実力をみくびって馬鹿にしていたのだ。


「なにそれー! めっちゃ見たかった!」

「アイリス様! またそのような口調……」


 と言いつつ、アリアの目も輝いている。ルイーゼがシメた所を見てない組は興味津々だ。


「五対一で瞬殺だったんだ」

「あれほど綺麗に相手のプライドを砕いた瞬間を初めて見たよ」

「しっかり医務室送りでしたしね。彼らは身をもって実力差を知ったでしょう」


 剣術組が次々と教えてくれた。


「この国で騎士を目指そうって人間が私のこと知らないなんて、どう考えても勉強不足でしょ」

「騎士団長より強いなんて噂、簡単には信じられないよ~」


 剣術が得意ではないルカはほんの少しばかり相手に同情したようだ。


「ルカ様! 我が国の騎士に求められるのは強さだけではありませんよ。人格……心持ちも大事でしょう」


 アリアにも理想の騎士像があるようだった。ルイーゼの兄を思い浮かべているのかもしれない。

 剣術や弓術、斧術を受講する生徒は騎士志望者が大多数を占める。貴族の子弟全員が私達のように王都の屋敷を中心に生活するわけではないので、この国の情報伝達網を考えると知らなくても仕方ないような気もするのだが、ルイーゼにしてみれば不満のようだ。


「そうそう。武勇だけじゃなくって、礼節も必要よ」


 ルイーゼが鼻息荒くしている。その時の相手の無礼な振る舞いを思い出してしまったのかもしれない。


「やっぱ一発ガツンとやっとかないとダメね〜馬鹿は調子に乗らせると碌なことしないし」

「同意します」


 ジェフリーはこれで武闘派の側近なので、力で黙らせる方がお好みなのだ。


「だからこの間の実技の授業で、リディがこれ見よがしに力技を見せてくれてスッキリしたわ〜」

「アイリス嬢も良かったですね!」


 ルイーゼとジェフリーの二人で盛り上がり始める。確かにアイリスのもインパクトのある攻撃魔法だった。生徒達の印象にはしっかり残っただろう。


「さあそれじゃあ、俺達は行くとしよう」

「え?」


 次の授業まで時間はあるはずだが、レオハルトが席を立った。


「そうだな」


 フィンリー様も席を立ち、他のメンバーもそれに続いた。一番最後はルカだった。不本意ですと顔に書いてある。


「二人で話したい事もあるだろう?」

「気がきく〜!」

「まあな!」


 アイリスに褒められ、久しぶりにレオハルトのドヤ顔を見た。


「何かあれば頼ってくれよ!」

「そうさせてもらいます……!」


 はぁ~~~フィンリー様の優しさが沁みる……! レオハルトの視線が痛いけど!!!


「さてと……どうする?」

「賭博場でも探ってみる?」


 レオハルト達が去ってガランとしたテーブルにアイリスと二人になった。

 原作情報で賭博場の場所はわかっている。入るための合言葉の見つけ方も。関わっている学園の生徒も。


「『あの女』も探すべきよねぇ」

「もう少し情報がいるわ」


 レヴィリオの知り合いだろうか? 覚醒した後また話してくれるといいのだが。


「レヴィリオの好みって悪い女だったわよね〜?」

「原作ではそう言ってたわ」


 アイリスはニヤリと少し悪い顔をした。作中では見たことがない表情だ。


「私に悪役令嬢になれって?」

「んなことさせないよ! あたしがやるの!」

「えぇ!?」

「その顔ウケる〜」


 どんな顔してたんだろう。とりあえず開けっぱなしにしてしまった口を閉じた。


「レヴィリオは単純なキャラだったじゃん? 貴族派所属のくせに家のことは嫌ってる反抗期真っ最中の青少年だし。現悪役令嬢のライザに心酔する前にこっちにつけるわ」


 申し訳ないが期待できない。


(さっきの悪い顔、迫力なかったしなあ)


「あ! 無理って思ってるでしょ!」

「まぁね。所詮アイリスはヒロイン。何やっても可愛いのよ」

「そんな貶し方ある!?」


 今のレヴィリオはちょっと悪いことに憧れる貴族の坊ちゃんじゃなくて、賭博と薬にまで手を出してしまってるガチの悪になりつつある。アイリスが悪ぶったくらいで靡くだろうか。


「原作のリディアナの真似すればいいんでしょ! 余裕だし! やってみたかったんだよね~~~!」


 本人はやる気満々のようだ。……代案を考えておかなければ。


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