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19 実技

 本日の実技の授業は全員必須項目。

 この学園は前世でいう大学に似たカリキュラムなので、受講必須の科目とそれぞれの将来の希望に応じた選択講義がある。騎士志望の学生はより実践的な科目をより多く受講し、嫡子に決まっている者は教養科目を受講する者が多い。


「攻撃魔法で的当てか。アリバラ先生の授業を思い出すな」


 フィンリー様はワクワクとした表情で授業が始まるのを待っている。


「学園が始まって一ヶ月、やっとそれらしくなってきましたね」


 ジェフリーも珍しく表情が緩んでいる。

 この一ヶ月は基礎の基礎、魔法の発動の確認、練習だった。これは教師側が各生徒の現在の実力を見極められる場でもあった。貴族が集まるこの学園では、見栄のために事前調査票に嘘八百を書き連ね、たいして魔法を使いこなせていないどころか、魔法を暴走させる生徒も少なからずいるのだ。


「今日のイベント、起こると思う?」


 昨夜、アイリスと今日のこの授業について話し合った。

 初めての実技の授業で、とある生徒が調子に乗って魔法をコントロール出来ず大暴走してしまう。それを止めたのがレオハルト、フィンリー様、ジェフリーの三人だったが、それでも怪我人が大量に出てしまう。大怪我を負った者も多く、学園の校医である治癒師だけでは対処しきれない所でアイリスの出番となるのだ。これによって、アイリスの実力は知れ渡ることとなり、良くも悪くも更に目をつけられるようになる。因みに、治癒魔法を使える学生に声をかけてまわったのはルカだった。


「暴走させた奴が誰だったかわかんないのよね」

「モブだったもんね〜」

「男子生徒ではあったわよね?」

「うん。男子の制服だった」


 他にわかっていることといえば、火の魔法で生徒達が怪我を負ったことだ。女生徒達が火傷の傷を嘆くシーンがあった。一応ルカには真実を、他のメンバーには初日の授業の危険性について話はしている。何かあればすぐに動いてくれるだろう。


「魔法の属性、威力は問いません。10m間隔に立っている的に当ててください」


 扉サイズの大きな板が最大10枚、100m先まで用意されている。


「的でっか!」

「アリバラ先生のはカップくらいの大きさだったからな」


 ルカとレオハルトが思わず声を漏らしていた。だがこの国の攻撃魔法の対象といえば、基本的には魔物だ。その中でも魔獣と呼ばれるタイプのものが多い。危険な魔獣は基本的には大きなものが多いので、まだ入学したてである我々はその体に一撃当てることができればよい、とされているのだ。


「動いてないから当て放題だな!」

「まあまだ入学して一月(ひとつき)ですし、これくらいが妥当でしょう」


 フィンリー様もジェフリーも学園の授業が思っていたより簡単に感じたのだろう。それだけアリバラ先生には鍛えられていたのだ。そもそもレオハルトには王家が用意した教師がいたにも関わらず、しょっちゅうアリバラ先生に教えを乞いにきていた。フィンリー様もジェフリーもいつのまにか一緒に学んでいた。結果、お互い張り合って全員がメキメキ力をつけていっていたので誰も文句は言わなかった。


 生徒達が順々に的に攻撃を当てていく。火の魔法や風の魔法を使う者が多い。生徒の実力も様々で、10m地点ではそれなりに威力のある魔法を繰り出せても、30m地点まで届きもしない生徒がいれば、威力はイマイチだが70m先まで余裕で届く生徒もいた。


「じゃあ俺から行かせてもらおうかな!」


 私達の番が来た。トップバッターはフィンリー様だ。


「よっと!」


 掌を広げ、的の数だけ火球を出すと全てを一気に放った。


「あーあ」


 ルカの声が聞こえたかと思う同時に、的に当たった火の球は音を立てて爆発した。的は全て木っ端微塵だ。


(きゃー!!!)


 カッコいい!!! 原作のスマートなフィンリー様もカッコよかったけど、ド派手に的を吹っ飛ばすワイルドなフィンリー様も拝めるなんて、生まれ変わってよかった~~~!

 周囲は突然の高レベルな魔法を目の当たりにして呆気に取られている。


「次は僕ー!」


 二番手はルカだ。せっせと学園の補助員が取り替えた的に向けて人差し指と親指を立てて、バキュンのポーズをしたかと思うと、一発で全ての的に雷の魔法で木の板に穴を開けた。これまでのように直線的に魔法を放つのではなく、一発をコントロールして的から的へと魔法が移動したのだ。


「おお〜!」

「きゃー!」


 その場にいた全ての人が思わず声を上げた。女子の歓声も聞こえる。


「ルカの後はやりずらいな」


 お次はレオハルトの番だ。この国の第一王子に注目が集まる。

 レオハルトはフィンリー様のように掌を広げるとバチバチと光る雷の輪を作り出し放った。そしてルカのようにコントロールし、ルカが的に開けた穴の周囲を取り囲むように、今度は輪になった穴を開けていった。


「おおお〜!」


 またもやどよめきが起こる。レオハルトはお得意の王子様スマイルを振りまいていた。


「なーにが僕の後はやりづらいだよ! いい感じに使われちゃった!」


 ルカはわざとらしく拗ねるように口を尖らした。


「少しは後に続く生徒のことも考えてくれよ」


 王子様スマイルを維持しつつ、レオハルトの声色は得意気だった。


「それはレオハルト様も同じです」


 ラストはジェフリーだ。彼もコントロールが得意なタイプだが、そのネタは二連続でやられてしまっている。他の生徒達からの期待の視線が気になるようだ。

 ジェフリーは少し息を吐いた後、的に向けて人差し指をを的へ向ける。そして50発、小さな火の魔法を放ったのだ。

 的にはそれぞれ5発ずつ、レオハルトの魔法の跡をさらに取り囲むように穴が開けられていた。


「おー!!!」

「そうきたかー!」


 男子達は楽しそうに戯れあっている。彼らの実力に教師達も驚きを隠せないようだ。単純な技術だけなら、下手な教師よりよっぽど上をいっている。レオハルトや側近達の実力を同世代の貴族の子弟達に見せつけるいい機会になった。

 ライザ含めて貴族派連中はことごとくたいしたことがなかったので、悔しそうにしていてより気分がいい。


「リディの番よ!」


 ルイーゼに声をかけられる。


「所詮、治癒魔法が使えるってだけでレオハルト様の婚約者に選ばれてるのよ」

「最近は平民と連んでるって話だからやっぱり肩書きだけだろうな」


 どこからか声が聞こえた。ルイーゼがキッとそちらの方をすぐに向いた為かすぐにその声は止まったが。

 私は迷っていた。正直私を侮ってくれている方がいざという時に相手が油断して御し易いな、とか、レオハルトと婚約破棄した時の言い訳にもつかえるな、とか。


(だけどあんまり舐められすぎるのもな〜)


 それなりに大人しくお利口に過ごしてきたからか、最近さっきのような輩が少し増えたのだ。私より周りが怒ってくれるのでそろそろ申し訳ない気もしてきている。家名として舐められるのは良くない。母もそういうの嫌うし……。


 的の周りに誰もいないことを確認し、掌をそちら側に向けた。大き目の火球を作り出し、一気に火の魔法を放出する。

 爆音と共に周辺の地面が揺れ、一発で的が立ててあるエリアを焼き尽くした。


「やば。爆弾じゃん」


 アイリスが呟く。


 私は先ほど声がしたあたりに笑顔を向けた。


「この程度の実力でお恥ずかしいですわ〜」


 地面が抉れてしまっていたので、整地と新たな的を立てるために補助員達が慌ただしく動いていた。少し申し訳ないことをした。


「大人気なーい」

「リディの攻撃はいつも派手で見ていて気持ちいいな!」

「他の生徒が引いてるぞ」

「整地の手伝いに行ってきますね」


 フィンリー様に褒められた! やってよかった! 厄災の令嬢の名は伊達ではない。やはり治癒魔法よりも攻撃魔法の方が覚えが良かったのだ。


「魔力にものを言わせるだけの下品な攻撃ですこと」


 はい。今日も平常運転のライザの嫌味だ。いい返そうとした男性陣を制して前に出たのはアイリスだった。


「あれ防ぐ実力もないのによく怖がらずに言えるよねー? ヤバくない? 危機感なくてヤバくない? 頭がヤバいの?」

「なんですって!?」


 反撃したのが私じゃなくてアイリスだったのは予想外だったようだ。


「ど田舎の平民風情がどの口で私に意見など!」


 怒りに震えている。


「ど田舎って、うちの領地なんだけど」


 フィンリー様が不愉快そうに追撃する。なんて珍しいシーンなんだ! 原作より年相応の反応、いただきました!


「ここが学園内である以上、貴族も平民もないというのは君もわかっているだろう」


 最前列に出てきたのはレオハルトだった。このセリフは原作でも言っていた。原作の私に向かってね! 

 貴族も平民もないが、王族が出てきたら引くしかない。ライザはレオハルトの目を少し切なそうに見つめた後、踵を返してその場を立ち去った。

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