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16 予知夢の通りに

 告白の会の翌日、昼過ぎにレオハルトが女子寮にやってきた。そう言えば特に時間も場所も決めていなかった。


「急に来てしまってすまない」

「いえ、こちらこそ長らくお待たせ致しました」


 沈黙が流れる。こんな改まった雰囲気は久しぶりだ。レオハルトも緊張しているのがわかる。

 切り出したのはレオハルト。ふぅと小さく息をはきだして話始めた。


「……以前から婚約破棄を強く願っていたのは、例の予知夢のせいか?」

「いいえ関係ありません」

「……だよな」


 卒業パーティでの断罪からの婚約破棄となるより早いうちに、と思ったのは確かだが、そもそもレオハルトと結婚する気がないから婚約破棄したかったのだ。


「でも今は、レオハルト様の足を引っ張る前に婚約破棄したいと思っています」


 これは本心だ。レオハルトの王位継承に邪魔になる存在にはなりたくない。そういう愛情はある。


「初めは、レオハルト様のことあまり好きではありませんでした。理由は散々言ったので今更ですが」


 レオハルトは黙って頷く。どうやら私の話を最後までちゃんと聞いてくれるようだ。


「だけどこの五年、貴方の私に対する誠実な気持ちはとても感じて過ごしてきました。大切にされてることがちゃんと伝わってきて……。それに婚約者という立場をわきまえず、フィンリー様に大騒ぎする私に、いつもとても寛容に接してくださいました。感謝いたします」


「だけど?」


 悲しそうにレオハルトがつぶやいた。そう、だけどが続くのだ。


「だけど、レオハルト様と同じ気持ちにはなれません」


 ハッキリと今の気持ちを告げる。レオハルトを大切に思っている。とても。だけど恋愛のそれとはどうも違うのだ。でもトキメキこそないが、決して失いたくない大切な存在には違いない。


「だけど、レオハルト様には幸せになってほしいのです」


 二回目のだけど、だ。


「わかってたけどキツイな」


 私を困らせないように笑っている。


「俺もリディに幸せになってもらいたい。だけどその時側にいるのは俺でありたいんだ」


 しっかりとこちらの目を見つめる。


「わかっていると思うが、俺は諦めない」

「そうでしょうね」

「三年……卒業パーティのその日まで時間をくれないか」


 それって例の予知夢当日じゃないか!


「それではレオハルト様の王位継承が不利になってしまいます!」

「これは俺の覚悟だ。リディに三年時間を貰うんだ。このくらいのリスクくらい払うさ」


 そんなリスク払わなくていいから、堅実に王を目指して欲しい。


「もしも叶わない時は、予知夢通りの記事を書かせよう。もちろんパーティで断罪や婚約破棄を宣言したりしない。あくまで偽の記事だ」

「え!?」


 偽の記事をこちらがあらかじめ用意するってこと!?


「今はまだその予知夢通りの流れなのだろう? これでアリバラ先生の夢に出てきた記事は『偽の記事』だと決まった。君が生徒達を虐殺する未来はもうこない。まあ大騒ぎにはなるだろうが、すぐに生きている生徒達をみれば、それが嘘だとわかるだろう。王都から学園まで数時間だからな」

「ですがそんなことをしたら!」


 腕を組み、自信満々そうにレオハルトは答える。

 

「有難いことに俺達と対立する家なんて腐るほどある。その中のどこかが嫌がらせでやったと皆が考えるだろうよ」


(そういう風に仕向けるってことか……)


 自作自演って、いつからそんな悪どいことができるようになったんだ。少女漫画のヒーローだろ。

 私の心配をよそにレオハルトはノリノリだ。


「もし君の気持ちがこちらに向いたその時は、やっぱり同じ記事を世に出そう。さあこれで問題の一つは解決した」


 結局どっちにしてもやるってこと!?


(嘘でしょ……どうしようもないと思ってたことがこんなあっさり?)


 私は虐殺なんてしない! という強い意思でしかこの予知夢を覆す術はないと思っていたのに……。敢えて予知夢通りにすることで、実際の虐殺は防げるのか。


(困ったな。こればっかりはレオハルトに完敗だわ)


 ありがたい負けではあるが。


「三年差し上げます。せいぜい頑張ってくださいませ!」

「そうくると思ったよ!」


 私もレオハルトも不敵に笑う。私の長年の悩みを一つ解決するなんて、なかなかやるじゃないか。


「ジェフリーにもこの件は頼んでおく。その方がリディも安心だろう」


 ジェフリーが関わるなら間違いなくこの約束は抜かりなく履行されるだろう。ホッと一安心だ。あとでルカやアイリスに伝えよう。アリバラ先生にも言っておきたいな。心配しているだろうし……一度王都に報告しに帰ろう。 


「感謝いたします」

「惚れたか!?」

「いいえ」


 レオハルトがこんな風に元気付けようとしてくるとは思わなかった。


「龍の王の方もどうにかなるさ」

「私もそう思います」


 きっと解決策が見つかると今なら思える。一日でこんなに気持ちが変わるなんて信じられないくらいだ。


(愛は世界を救うって本当だな~~~)


 私は幸せ者なんだ。悪役令嬢として生まれ変わったなんて信じられないくらい、幸せな人生だ。


◇◇◇


 アイリスにとっての初めての王都観光はとても楽しいものになったようだ。


「海外旅行に来てる気分ー!」

「わかる〜!」

「リディもそういえばそんな事言ってたね」


 彼女はライアス領の城下から出たことがないということだったので、日本とは違うこの風景は異国以外の何ものでもないだろう。

 

 今回の帰省の目的はアイリスと伯父ルークの顔合わせ、それからアリバラ先生への報告だ。ルカも含めた三人で帰ってきた。


「両親は今いないし、気楽に過ごして」


 屋敷に着いてすぐ、下の妹弟達の熱烈な歓迎を受けた。人見知り気味のシェリーすらすぐにアイリスに懐いていた。アイリスは小さな子どもをあやすのがとても上手い。


「村のちびっ子とよく遊んでたからねー! ()の知識活用しまくりだったわ〜」

「わかる! 私も仲間内ではレクリエーションの女王だった!」

「何その称号! ウケる! 欲しい〜!」


 両親は二日前に領地へ、伯父は既に登城していたので、アイリスを一番最初に紹介するのはアリバラ先生になった。


「その先生、原作では居なかったよね?」

「出てないわ。多分原作の私が早々に解雇したんじゃないかしら」

「あーね」


 周囲に人がいないのを確認しながらコソコソ声で話す。

 ちょうど先生の部屋の手前でルカと落ち合う。ルカは自分自身の手で魔道具を部屋に移動させていた。何やらまた精密なものを作製中らしく、学園の寮内でも相変わらず研究を重ねているようだ。


 先生の部屋はいつもならごちゃごちゃと本や楽譜などが散らかっていることが多いのだが、今日は隅の方にまとめられており、パッと見は片付いているように見えた。


「ようこそいらっしゃいました聖女様」


 どうやら今回も予知夢を見たようだ。

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