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14 告白

 ルカに皆に話す覚悟が出来たことを伝えると、安心したような顔をしてゆっくりと長く息を吐き出した。


「実を言うともう勝手に話す気でいたんだよね。アリバラ先生の許可もとってるし」

「うそ! いつそんな……!」

「リディが僕を留学させて遠くに逃そうとした時にね」


 バレてたのか。そりゃあ可愛い弟が私のせいで針の筵の生活になるのを避けたかったというのもあるし、他国にうちの家族の避難先もあらかじめ確保できるんじゃないかと思っていたのだ。


(あの時はいい考えだと思ったんだよなぁ)


 だけどルカがこちらに残ってくれると言ってくれて、心底安心した時に、自分が思っているよりずっと自分の未来が怖かったことに気づいた。カッコつけたってどうしようもないのに。


「ありがとう」

「素直でよろしい」


 いつからがルカが兄のように振る舞うことも増えた。いや、双子だからどうでもいいと言えばそれまでなのだが……記憶が戻るまでは私が双子の姉という立場にいる事に誰も違和感を覚えなかったのだ。それが今じゃ逆だ。前世でも長子だったので、少々むずがゆい気分がする。


「アイリス嬢には何か言ったの」

「ルカの後に伝えようと思ってるの」

「呼んだ?」

「「!!?」」


 後ろからニュッと現れたアイリスに二人でビックリする。


「アハハ! やっぱ双子だね! 反応が全く同じじゃん!」


 ウケる〜と大笑いしている。

 ルカとアイリスはまだ顔見知り程度だ。ルカの方は散々私からアイリスの話は聞いているが。


「リディアナの様子がおかしかったから追いかけてきたら、私の名前が聞こえたからさ〜」

「これはアイリス嬢、失礼しました。お噂は予々(かねがね)。リディアナの弟のルカ・フローレスでございます」


 ルカが優しく微笑む。その余裕のある態度にアイリスは少し驚いたようだ。おそらく、原作と雰囲気がだいぶ違うからだろう。


「アイリス・ディーヴァでございます。ご存知の通りリディアナ様と同じく前世の記憶を保有しております」


 ルカも少し驚いている。私が報告していた先ほどまでの『陽キャのギャル』としてのアイリスの気配を消して、急に高貴な令嬢のように振る舞ったからだ。これはワザとだろう。


 顔を見合わしてニヤリと笑う二人は、どうやら原作とは違う関係性になりそうだ。


 それからアイリスにも経緯を話した。そして彼女にも協力して欲しいことを。


「は!? そんなの当たり前じゃん!」


 また通常モードのギャルに戻ったアイリスの声には、少し怒りが込められている気がした。


「当事者はリディアナだけじゃないし! すでに原作とは違うんだから、下手したら全員で共倒れの可能性だってあるっつーの」

「その通りです……」


 思わずシュンとなる。何も言い返せない。


「プハッ! あのリディアナがションボリなってるのガチヤバいね!」

「やっぱそんなにヤバい人物として描かれてたの?」


 ルカは私からの話しか聞いていない。他人から見た原作のリディアナの様子は気になるようだ。


「そーなの! だって『厄災』なんてあだ名ついてんだよ?」


 ヤバくない? と、ルカにも私にも同意を求める。


「「ヤバいね」」

「また一緒じゃん! こっちじゃ一人っ子だから羨ましいわ〜」


 後からルカと二人になると、とても機嫌のいい声でルカに言われた。


「思ってたよりずっとアイリス嬢と仲良くなれそうだよ」


 その週の休日、告白の場は学生街でも一番の高級料理店内にあるプライベートルームになった。


「わー! まさかこんな早くここに来れるなんて……」


 アイリスは瞬間に自分の台詞がまずかったと気付いたらしく、すぐに小声になった。


(気持ちはわかるわ。前世でもここまでお高そうなお店、行ったことないし)


 原作ではよくレオハルトがアイリスを誘ってこの店に来ていたのだ。最も秘匿性が保証されている場として紹介されていたので、ここ以外の場所は他にないだろう。


 メンバーは私、アイリス、ルカ、それからいつものメンバーであるレオハルトにジェフリーにフィンリー様、更に更に、ルイーゼとアリアだ。

 この中の誰かに密告され、我が身がどうなってもかまわない……という基準の人選である。それなりに全員、人脈も知識もある。きっと助けになってくれるだろう。レオハルト以外は嫡子になる予定もなく、上に対する報告の責務が若干でも薄いというのも私からすると重要なポイントだ。


 今夜の集まりで、一番訝し気な表情をしていたのはレオハルトだ。いまだにちゃんとあの日のことは話せていない。これ、私が逆の立場なら既にキレて騒いでいるので、大人しく待ってくれている彼には感謝しないといけない。


「レオハルト様、明日お時間いただけますか?」

「もちろんだ!」


 途端に機嫌が良くなるのがわかった。なんでわかりやすい奴なんだろう。


 真実を知る私たち三名以外、何を言われるのかとドギマギと食事をとっていた。せっかくのお高い料理をちゃんと味わえずに終えるなんて申し訳ないことになってしまった。また今度埋め合わせをしよう。

 こうして一通り食事が終わった頃、今度はコチラが緊張する番になった。


「本日は、あの……集まっていただいたのは……」


(どうしよう……やっぱり怖い……)


 土壇場で怖気付いてしまった。全員の顔を見たら急に不安になってしまった。これから私はここにいるメンバーにとっても残酷な未来を告げるのだ。


 顔を下にむけてしまった背中を撫でてくれたのはアイリスだった。


「かわろっか?」


 私は首を横に振る。私が言わなきゃ。


 暖かい背中の温もりを意識しながら、事の顛末を告げる。アリバラ先生の予知夢の話だ。私やアイリスの前世の記憶と、フィンリー様の命については予定通り話さなかった。


「私達だけで未来を変えることに限界も感じているの」


 話している最中、レオハルトは表情一つ変えなかった。ジェフリーは何か考えている時の体勢になった。フィンリー様は少し悲しそうな表情になっていた。ルイーゼは表情が凛々しくなり、アリアは最初手で口を塞いでいたが、次第に覚悟を決めた顔になった。


「五年も黙っていて、ごめんなさい」

「ごめん」


 ルカも一緒に頭を下げてくれる。顔を上げるのが怖い。


「何かあることはわかっていたんだ」


 第一声はレオハルトだった。


「申し訳ありません。このことを知って一番お困りになるのはレオハルト様です……」

「そんなことはいい! 話すのにかなりの覚悟がいっただろう」


 怒ってはいないようだ。それどころかこちらを労ってくれている。


「今まで辛かっただろう? 二人で頑張ってたんだな」


 次はフィンリー様だった。その瞬間、思わず涙が出そうになった。ルカも同じで、瞳が潤んでいた。


(ルカも不安だったんだな)


 最近は、当たり前のことに気付くことが多い。


「龍族についてお調べだったのはこの為だったのですね」


 ジェフリーには王都襲撃の時にいた飛龍の出所や、龍王について詳しい話を何度か聞いたのだ。あちこちの資料や文献を探したが、今のところわかっていることは少ない。


「頼ってくれて嬉しいよ!」

「信頼にお応えできるよう全力を尽くしますわ」


 ルイーゼもアリアも頼もしい。ルイーゼには後で個人的に、私が原因で呪いの恐怖に苛まれたことを謝らなければ。


 全員に責められることなく、むしろ気遣われてしまった。今後の自分達が心配だろうに。何よりあっさり全員が信じてくれたのにも驚いた。


「それで、なぜアイリス嬢がここに?」


 レオハルトの言葉で、和やかな空気の流れが止まった。

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