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13 状況把握

 翌日、学園で運良くジェフリーと二人でいるルカを見つけた。すぐにルカを引っ張って人気のない校舎の影に移動する。


「レオハルトから聞いてるよ。宣戦布告されたんだって?」


 私が話し出す前から面白そうにニヤニヤとしていた。宣戦布告って、君の心に挑戦するってアレか。


「リディにとって自分が一番になってみせるってことでしょ」


 なるほど。そういう意味だったのか。本当に負けず嫌いだな。


「勝ち目はないって言ってくれたんでしょうね」

「なんで? 全然あるだろ?」

「ないわよ!」

「これまではね。だけど昨日の一件でリディは絶対にレオハルトを意識し始めてるじゃん?」


 痛いところを突かれた。確かに、そう言う目で見ようとしてこなかった分、昨日の少女漫画のシーンみたいなことをされると、どうしても彼を男性として見ざるをえない。


「最初はともかく、今はリディのこと大切にしてくれてるじゃないか」

「レオハルトの味方するの!?」

「客観的意見を述べたまでだよ。リディは『原作』に囚われ過ぎてるとこあるしね」


 また痛いところを突かれてしまった。その通りだ。今は浮気王子のレオハルトではない。


「予知夢のことが解決しなきゃ、そんな気にはなれないわ」


 フィンリー様のこともあるし、自分の愛だの恋だのにかまけている場合ではないんじゃない。


「ねえ。それなんだけど皆に言うのはダメなの?」

「私がフィンリー様を殺しますって?」

「いや、先生の予知夢の内容だけだよ」


 でもそれ、生徒虐殺と王都襲撃の話だぞ。どっちも私が実行予定の大事件だ。いったいどう思われるか……。


「皆、アイリスみたいに言ってくれるさ」

「嵌められたって?」

「そうだよ。信じて話してみない? もう五年前とは違うんだから」


 それはわかっている。信用に値する人たちだって。だけどそれぞれに立場がある。


「でもこの件をレオハルトが知ったとして、それを王に報告しなかったとしたら……バレた時大変なことになるわ」


 王国の危機を知っていたのに言わないだなんて。オルデン家の時も当主は謹慎処分になっていたし。


「それでよくレオハルトに気がないなんて言えるよね〜」

「王にはなって欲しいもの」

「フーーーーン」


 アイリスと同じでルカは不満そうな顔をしている。私の答えを疑っているんだろうが、本当にそう思っている。この国の王になるのはレオハルトがいい。


 はぁとため息を吐いてルカは言った。


「一人で背負わなくっていいんだよ」


 そんなことわかってる。私だけの問題じゃないし。


「今はルカもアイリスもいるわ」

「いーや、一人でどうにかしようとしてるだろ」

「そんなことは……」


 ない。とは言い切れない。この件に他人を巻き込むのはどうも気が引ける。相手にとっても未来が重過ぎて、変えるためには大きなリスクを伴う気がして、それも怖い。


(自分の命を懸けるだけの方が気が楽だなんて……)


 なんて言ったらルカは怒るだろうな。


「善処します」

「まったく……夕飯の時でも話そう」


 次の講義の為の予鈴の鐘の音が聞こえる。ジェフリーが心配そうに講義室の前で待っているのが見えた。


「リディアナ様?」

「大丈夫よ」


 ジェフリーがこの様子だと言うことは、レオハルトから何か感じ取ったんだな。もしくは聞いたか。

 当のレオハルトはすでに席についていた。目が合うと嬉しそうに手をあげる。他の生徒の手前、返さないわけにはいかないので私も手をあげるが、笑顔は多分引き攣っていた。


 結局、講義はあまり頭に入らなかった。内容は魔術の発展についてだったが、魔道具には否定的な立場からの話だったので、余計どうでもよくて聞いていなかった。

 氷石病の広まりを止めることができたので、この学園に入学している魔力量に優れた学生は原作より多いはずだ。だからほんの少し、この国の、世代を重ねる度に個人の魔力量が減少していっている、という問題は遅らせられたかもしれない。

 だけどいつかは必ず致命的に少ない魔力量の世代が生まれてくるはずだ。


(自分らの後の世代の生活なんて知ったこっちゃないってこと?)


 ぼーっと講義を聞きながら、ルカの言っていた、予知夢について話すことを考える。


(今はレオハルトのことも考えないといけないのに)

 

 状況を整理しよう。


 レオハルトは私のことが好き。だけど私がレオハルトのことを恋愛対象として見てないことは自覚していて、これから頑張る宣言があった。と言うことは婚約破棄はどうなるんだ? それが出来なきゃどの道、私はレオハルトのものだ。


 私の気持ち? そんなこと考えたこともなかった。すでに我が家の破滅が消えた今となっては、ただレオハルトと婚約破棄して、フィンリー様を生涯応援して、楽しく生きようと思っていた。人の恋愛には興味津々だが、自分のことだと……。それに結婚に関しては諦めていた期間が長過ぎて今更興味はないのだ。


 原作の中でも大きな事件の一つであるアリバラ先生の予言をどうするか。残念ながら五年頑張ってもそこは変わっていないようだ。ただ、ひび割れがデカくなったと言うことは、やってきた事全てが無駄というわけじゃない。残りあと三年。私一人の力で間に合うのだろうか。


(私の目的はなに?)


 フィンリー様の命を守ることだ。私の命を懸けてでも。


(それに今じゃもう、モブなんて存在しないのよ)


 全員がこの世界の当事者だ。名もなきその他大勢ではない。

 卒業パーティーや飛龍の襲撃で死んでいった人達それぞれに人生があることを今ではもう知っている。


 いつの間にか彼らにあの予知夢が知られることで、恐れられ、避けられ、嫌われるのが怖くなっていたのだ。


(自分が死ぬよりも、あの人達に嫌われる方が怖いなんてね)


 我ながら呆れてしまう。同時に、いい人生を送っているのだとも思う。


 だけどもう、私が動いて変わる未来には限界があることがわかった。悪役令嬢の汚名を捨てたくらいじゃどうにもならないのだ。

 今更遅いと言われるかもしれないが、皆にお願いしよう。それがフィンリー様の命に繋がるならもっと早くするべきだった。我が家は幸い全員が生き残れた。この件が知られることでもしかしたら迷惑はかけるかもしれないが、きっと両親も弟妹もうまくやるという変な自信がこの五年で生まれたのはよかった。

 

「リディ? リディ〜?」


 アイリスが肩を揺らしてくれて講義が終わっていたことに気がついた。


「大丈夫?」

「ごめんなさい! ルカはどこに?」


 急いで立ち上がる。まずはルカに話そう。どうしたいか決まったから。


「ルカ様は不満気に出て行ったよ~。今日の講義の内容考えれば理由は明らかね」


 ルイーゼが教えてくれた。どうやら校内のカフェテリアに向かったようだ。


「すみません! 次の講義はお休みします」

「リディアナ様!?」


 急いでルカの後を追う。


(げっ!)


「リディ!」


 ルカの側にはレオハルトがいたのだ。私が急いで追いかけたのが自分だと思ったのかパァっと顔を赤らめて嬉しそうだ。だけど今は少女漫画をしている暇はない。そっちは後だ。ごめんね!


「レオハルト様! お話は後ほど! ルカ!」

「はいはい」


 じゃあね~。とルカはレオハルトに手を振っていた。レオハルトの方は呆然と私達を見送った。ジェフリーがフォローしてくれていることだろう。


「あっという間にいつも通りのリディだね」

「そう?」

「そうだよ。……決めたんだね」

「ええ!」


 ルカはニコリと笑顔になった。多分、私を安心させる為だろう。

 本当にいい男に育った。


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