表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/163

8 酔っ払い

 この国の成人年齢は十五歳。そしてこの学園に入学した我々は基本的に成人済みと見なされる。成人済み扱いだとなんだというと、要するに酒の話だ。

 前世基準では飲酒を勧められる年齢ではないが、ここは別世界。別世界どころか異世界である。ちなみにこの国ではだいたいが十歳頃からアルコールを飲んでいるのが普通だ。もちろん濃度が薄いものではあるが。

 だが、私は母から学園入学までずっと禁止にされていた。


(まあアルコールを飲むのは水質の問題が大きいってことだから、我が家はその影響を受けずらいからわざわざ飲む必要はないってことだったけど……)


 この飲酒以外は令嬢にあるまじきアレコレをして生活していたので、唯一といっていいこの禁止事項を守ってここまできた。だが、今日から解禁だ!


「うわ! このワイン美味しい!」

「……私はもういいや……」


 アイリスには不評だったようだが、前世ぶりのお酒の味は格別だった。いやこれマジで美味しい! 味覚は引き継いでいるかは謎だけど、流石貴族が通う学園のパーティはいいもの出しているな。学費が高いわけだ。


『絶対に酔っ払うまで呑んではダメよ!』


 入学前の母の言葉がコレだった。直前にエリザにもルカにもキツく言われたので、よっぽど気になることがあるのか。これまでお酒なんて舐めたことしかないはずだが。


(身内に酒に弱い人でもいるのかな?)


 しかしその話は聞いたことがない。だいたい、そんな飲み方なんてするわけないじゃないか。私は人生二回目だぞ!


「次はエールが飲みたいわ」

「エールってビールでしょ? 苦いって聞くけど美味しいの?」

「最初の一杯はビールがいいのよ〜」

「私はお酒イマイチみた〜い」


 アイリスも私同様、これまでアルコールを飲む必要がない生活だったため今日が初めてだったようだ。


「あら。()は呑まなかったの?」

「ちょっとそれ偏見〜! 法令遵守〜!」

「その内美味しく感じるようになるわ! 多分ね」


 それにしてもこのワイン本当に飲みやすい。すでに三杯目だ。もしかしたらこれも薄めてあるのかもしれない。まだ我々は学生だしね。しかし、今日の登場人物の現状確認という目的を達成する前に酔ってしまいそうだ。周囲を見ると、同じようにほろ酔いの学生が数人。考えてみると、()()になってのパーティはこれが初めての学生も多いはず。雰囲気酔いもあるのだろう。


(美味しくて飲みやすいとついつい……この辺にしておこう……)


「まあだいたいわかったからいいか〜」

「学園長とか三年生の生徒総代とか元総代がまだじゃん!」


 何言ってんの? というアイリスの顔に、そうだっけ? という顔で返す。生徒総代は生徒会長みたいなポジションだ。三年生で一番優秀な人が選ばれる。そのポジションにいるはずのキャラが原作と違う人物がなっていた。なので、今の総代と原作での総代だった人物の二人を確認する予定だった気がする。


(このホールごうかねぇ! シャンデリアがきれい!)


 学生達が皆綺麗なドレスを着て、楽しそうに踊ったり話したり。三年後リディアナに殺されるかもしれないのに。どんなにこの学園で頑張っても死んだらそれで終わりだ。どんな努力も何も残らない。そんな事も知らずに幸せそうだ。


 テラスの方を見ると、ルカとフィンリー様が女子に取り囲まれている。二人とも婚約者がいないから狙い目なのだろう。二人とも嫡子じゃないのにこの人気とは。

 ルカは魔道具の商売でぼろ儲けしているし、フィンリー様は領地ではなく王都の屋敷の管理を任されている。可愛い飛龍の為に領地に戻る事も多いが、基本的に王都での暮らしが約束されている……と一般的には思われている。冒険者の件は一部の者しか知らないからだ。


「なによあのこむすめたち〜! ちかすぎじゃなあい? あれわたくしのおとうととおしなんですけどぉ!?」

「え!? ちょっと!? 酔ってる!?」


 酔ってる? 私が? まだワイン三杯でしょ? 前はもっと呑んでた……。前はって……? 別の身体の時……リディアナの酒の許容量なんて知らない……。


「きょうはもうかえろうかしら……」

「それがいいかもね……一緒に行くわ」


 やってしまった。調子に乗りすぎた。途中で出会ったアリアとルイーゼも心配してくれている。


「どうされましたの?」

「酔っちゃったみたい」

「あー初めてのお酒あるあるね。さっさと部屋戻ろう」


 この醜態を誰かに見られる前に会場から去るのが一番いい。貴族派連中に何を言われるやら。

 その時、どこかの貴族の娘がルカの服の袖を引っ張り、フィンリー様の腕に絡みつくのが見えた。


「ちょっと! あのおんなども! こんなところでとのがたにふれるなんてふしだらよ! マナーいはんよ! きぞくはれんちゅう! こういうときにさわぎなさいよ!」

「何言ってるかわかんないよぉ」

「アリア〜! あのひとたちふじゅんいせいこういじゃんね!?」

「何を仰っているかわかりませんわ」


 なんでわからないの! もういい! 自分で文句言ってやる! 


「待ってどこ行く気!?」


 アイリスの声が聞こえた気がする。


「アイリス様! お止めして!」

「どうやって!?」

「防御魔法よ!」


 小走りでフィンリー様の側に行こうとすると、ガツン! と頭に何かぶつかった感覚がある。でも別に痛くはない。痛くはないがなんだか目が回ってその後のことは何も思い出せなくなった。


◇◇◇


 目を覚ますと分厚い本を読んでいるルカの顔が見えた。ここは家だろうか? 昨日は何してたんだっけ? あれパーティっていつだったかな……。


「あ、起きた」

「お水です」


 エリザも近くにいた。やっぱりここは家? なんだかうまく頭が回らない。


「あーあ。これ、全く覚えてないやつだね」

「そのようですね」

「全く……大事にならなくてよかったよ。アイリス嬢達に感謝だね」


 覚えてないって何を? 渡された水を飲みながら眠る前のことを思い出そうとする。


「…………っ!」


(うわああああああああやらかしたあああああ!!!)


 最悪だ! お酒で失敗って! 嘘でしょ!? この私が!?


「私何した!? 何やらかした!?」

「大丈夫。表向きはお酒に弱くて倒れたってことになってるから」


 やれやれ……と言った表情で、私がこぼしてしまった水を拭ってくれる。


「実際やらかした内容は!?」

「僕とフィンリーに群がる女子を殺さんばかりの剣幕で向かっていく途中、アイリス嬢が防御魔法で足止めしたシールドに頭ぶつけて目を回して倒れそうになったのをレオハルト様が受け止めてそのまま運んでくれたんだよ」


 嘘だと言って……そんな醜態晒したなんて……しかもルカが知ってるってことは……、


「フィンリーもしっかりその姿を見てるよ」

「誰か私を今すぐ殺してええええ!」


 いやだ……もう二度とフィンリー様に会えない。そんな姿見られたなんて……。


「まあいい薬になったでしょ」

「うう……」


 もう二度とフィンリー様がいる場で酒は呑まない……。


「あれだけ酔うなって言ったのに」

「こんなにお酒に弱いなんて知らなかったんだもん!」


 我ながら見苦しい言い訳だ。


「前呑んだ時にグラス二杯でベロベロになって魔法使って大暴れしただろ!」

「知らない! いつよ!?」

「十歳の時だよ! 病気にかかる前!」

「覚えてないわよ!」

「そうなの!?」


 そりゃ皆注意するわけだ。でもそんな重要な話、パーティ前にしてよ! 


(いやもうこれは私が悪い! 悪いんだけどさ!)


 荒ぶってた十歳の頃じゃあ、皆私に意見なんて出来なかったんだろうな……やっぱり私が悪いじゃん……。


「私が倒れた後は?」

「ちょっとざわついたけど、すぐにおさまって皆楽しんでたよ……お友達三人は着いてきてくれたけど」


 申し訳なさすぎる! アリアもルイーゼもまだ婚約者がいない。原作でもこの二人は特に言及がなかった。


 アリアは、


『結婚できないとお母様が悲しむので……』


 ルイーゼは、


『結婚しないとお母様から一生小言を言われ続けるわ……』


 二人とも結婚願望はともかく、それなりに気合を入れていると言っていたのに、私のせいでチャンスを潰してしまったなんて。


「さあ、僕も戻ろうかな。短時間でってことで特別に女子寮に入れてもらっただけだし」

「ごめんねぇ……」

「まあいいよ。完璧を気取ってる公爵令嬢の醜態なんて、弟でもあんまり見ないしさ」

「反省します」

「あ! あとレオハルト様にもちゃんとお礼言うんだよ! 心配もしてたし」

「そうします……」


 うう……入学早々黒歴史を作ることになるなんて……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ