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2 主人公

 思わぬ衝撃でふらついた私を支えてくれたのは、自称アイリスだった。


「うわ! 大丈夫?」

「……その、ごめんなさい……アイリス……様?」


 確かに、近くで見ると面影がある。それに彼女の様相をみて久しぶりに思い出した単語がある。ギャル? いや、陽キャ?


「リディ!」


 急いでイケメン軍団が私の元に駆けつけてくれた。本来ならあらゆる人にこの状況を自慢したい所だが、今はマズイ。今のアイリスとアイリスに恋する予定の男達を合わせてもいいのか? どうしよう……どうするのが一番いいんだろう?


(ダメだ全く頭が働かない)


「リディ、医務室へ行こう」


 レオハルトが私の身体を抱えようとするのを制した。


「大丈夫です! 少しこの方とお話することがありますので後ほど!」


 そのままそそくさと自称アイリスの手を引いてその場を後にした。とりあえず出会いイベントは再チャレンジしてもらうとして、まずはこうなった事情を聞こう。


 学園の中庭は今日は人気がない。生徒達は学生街へ繰り出しているのだろう。ベンチに腰掛け、アイリスにバレないようにゆっくり深呼吸をする。


「あの……それで、貴方が特待生のアイリス・ディーヴァ様ということでよろしいですか?」


 慎重に、伺うように尋ねる。こいつは何者だ? 本当にあのアイリス?


「あ~そういう感じでいっちゃう? もうぶっちゃけない?」


 胸がドキドキする。この口調を聞くのはいつぶりだろう。『前世の記憶』が、頭の中を駆け巡る。


「リディアナ様って前世の記憶あるっしょ?」


 どう答えるべきだろう。相手の狙いがわからない以上、慎重にいかなきゃ。


「前世とは……? どう言ったお話でしょうか?」

「え!? ガチでそんな感じ? うっそ! やらかした系?」


 アイリスは普通に焦っているように見える。だけど質問の意図が全くつかめない。


「……もしかして警戒してる?」


 そう聞かれても微笑んだまま、なんのことでしょう? といった顔で誤魔化す。


「いやまあそうだよね。漫画じゃ敵同士だし、アイリスってリディアナ封印しちゃうしね」


 うそ! 原作まで知ってる! どうしよう……なんでこの可能性を想定しなかったんだろう。私以外に前世の記憶を取り戻した人がいる事を。それが作中の人物なら物語はさらに大きく変わるはずだ。


「先に言っとくね! あたし、リディアナを封印する気とかないから! だって良い人になったんでしょ? そしたら必要ないじゃん」


 それが本気ならいいけど。私は今、原作より総合的には優れているが、原作ほどの魔力はない。アイリスが覚醒すればあっという間に倒されてしまうだろう。


「あ! あとレオもキョーミないっていうかぁ~イケメン好きだけど塩顔が好みなんだよねぇ」

「うそ! それは困る!」


 しまった! つい口に出してしまった。アイリスの顔がパッと明るくなる。


(ええーーーい! もうなるようになれ!!!)


「いやいや悪いけど、レオハルトは引き取ってよ! だって愛の力で覚醒しなきゃでしょ!?」

「きゃー! やっぱ記憶あるんじゃん! ちょい焦ったし!」


 しかしこれ、前世の出身地が同じでも別世界から来てる可能性が高いな。まず年齢が違うだろう。そしておそらく私服の好みも違う。そういう世界の違いを感じる。


「つーか愛の力が必要なら別に相手がレオである必要なくない?」

「うっ……確かに……!」


 発言全てが後手後手に回っている気がする。可愛いブロンドギャルに翻弄されている。


「まあそんなことよりも、改めて。……私、アイリス・ディーヴァと申します」


 うやうやしく、マナー通りの綺麗なお辞儀をしたアイリスは、原作と少々姿は違うが、美しく可憐な姿だった。背景に舞い散る花が見える気がする。ヒロインパワーは凄まじい。


「……リディアナ・フローレスでございます」


 礼には礼で返す。こちらもきっちりと。顔を上げると嬉しそうな顔をしたアイリスと目が合った。そして二人してわけもなく笑ってしまった。

 今は心配したってしょうがない。どうやら悪意があるようには見えないし。今も熱い視線を感じるし……。


「有名人に会えた時の気分ってこんな感じ~? スマホ欲し~!」

「それはこっちの台詞だよ! 主人公はアイリスじゃん!」

「いやいや! それこの世界の人達に失礼だからさ! そうは考えないようにしてんの」


 えっ! そんな深く考えてたんだ……配慮の足りない自分が恥ずかしい。


「あーごめん! あたしを上げてくれようとしたのに!」

「いえ、アイリスの言う通りだから」

「あたし……私も別に偉そうなこと言える立場じゃないんだ」


 それからアイリスはこれまでのことを話してくれた。

 アイリスも十歳の時に前世の記憶が甦ったらしい。天馬から落ちて命が危なかったという辺りが私と似ている。それから十五歳で物語が始まるまでは好きに生きようとしたこと。


「生き残る未来が決まっているアイリスだったからこうだっただけで、リディアナだったらきっと怖くて仕方なかった思う」


 私のこれまでの頑張りをそうやってとても褒めちぎってくれた。


「未来がわかってるんだから、この世界の人の為に……リディアナの為に動くことだってできたのに……ごめん」 

「私の場合、家族を助けることが結果的にこの国の為になっただけだから」

「平民の為に奨学金まで作ってんじゃん? あれであたしの……私の幼馴染も来年から入学できるかもって張り切ってるんだよね」


 別にこの世界を救おうとしたわけじゃない。自分勝手に動いたのがたまたま他人の為にもなっただけなのだ。だからそんなに反省されると心苦しい。私は利己的な人間だ。アイリスが思うようないい人間じゃない。


「あれも別に……レオハルト様の評価を上げるためにやったことであって……」


 学べない平民の為のことを心配したわけじゃない。他に色々と思惑もあって始めたことだ。


「へー愛じゃん!」

「それはどうかな……」


 穏便な婚約破棄に少しでも近づく為だ。


「好きに生きていいって……物語に合わせて生きる必要がないって気が付いたの、つい最近なんだよね。リディアナに私と同じ前世の記憶があるってわかって、この世界を良い風に変えていってるのに気づいて、それでやっと。あたし前世から要領が悪くってさ、もうちょっとうまく生きたいんだけど……」


 そう言って俯いてしまった。初対面でこんな重い会話になるとは……アイリスも今まで不安な中、沢山考えてきたんだろう。それにアイリスの行動は理解できる。自分が動いたことによって、何か悪い風に変わってしまうんじゃないかと私も怖かった。


「アイリスが言った通り、私は必要に迫られて動いただけだよ」

「ごめん! テンションバリ下がるじゃんね!」


 無理矢理笑顔になるアイリスがいじらしい。こうやって原作で男どもは陥落していったのかもしれないと思うと少し面白くも感じる。優しい子だ。私なら間違いなくそこまで考えない。勝手に好きに生きたと思う。実際そうした。


「私の立場にたって考えてくれたんだよね。ありがとう」

「こっちこそ……あと、愚痴みたいになってごめん」


 プレッシャーもすごかっただろう。なんせ世界を救わなきゃいけないんだから。


「ラスボスのリディアナにこんなこと言うのなんだけど、今後のこと相談したかったんだ」


 真剣な瞳で見つめられた。その真剣さに不安を覚える。さっきまでとノリが違うのだ。これは心してかからねばならないかもしれない。


「それはこちらもお願いしたいわ」


 アリバラ先生の予知夢の事も伝えなければならないだろう。いざという時は……。


「リディ!」


(げ! なんでこっちきたのよ!)


 レオハルトがこちらへ向かってきた。どうしよう、まだレオハルトの件はアイリスと話せていない。こんなに早く再会イベントをリトライされるとは!


 仕方ない。二人はずっと思い合ってたはずだ。なんとかなるだろう。……たぶん。

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