表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/163

43 お節介

 明日はフローレス領へ出発する。名残惜(なごりお)しいが、今日がライアス領での最後の一日だ。ルカはまた朝から例のハンドボムが置いてあった店へ、ジェフリーは古書店と武器屋へ、レオハルトは買取所へ出かけて行った。私はフィンリー様とフレッドと一緒に龍舎に来ている。

 今日も空高く、飛龍達が主人を乗せて飛んでいる。ああやって飛龍達が飛び回っていると、森にいる魔物達のいい牽制になるそうだ。


「今日は城下へ行かれなくてよろしいのですか?」

「夕方に治療院へ行きますが、それまでは飛龍達を見ていて良いでしょうか」


 フレッドが気にかけてくれる。毎日のように城下に繰り出していたのを知られているのだ。


(またフィンリー様にしばらくお会いできないし、ちゃんと見納めしておかないと)


 写真はいっぱい撮った。事あるごとに理由をつけて撮影した。戻ったら写真立てを作ろう。額装でもいい。部屋中に飾らないと。


「じゃあ行ってくるよ!」

「お気をつけて」


 フィンリー様がまだ若い黒龍に乗って空へ羽ばたいて行った。カッコいい。


「お加減はどうですか?」

「それがかなりいいんですよ。ルーク様に急がない事、お伝えください」


 フレッドはなんだが出会った時よりも穏やかになった。初めからとても感じの良い人だったが、から元気と言うか、あれは無理して周囲に明るく見せていたんだろう。心配事が小さくなって、気持ちが落ち着いたのかもしれない。

 例の魔力回復薬が思ってたより効果があったらしく、これで学園復帰はなんとかなりそうだ。


 回復薬の取引きは滞りなく終わった。薬の製法はトルーア王子の側近が知っており、調合も彼がしている。王子と一緒に祖国を捨てて着いてくるなんて、と驚いたが、どうやら駆け落ち相手の兄だそうだ。大金の支払いが完了するまで、薬は彼がライアス領に残って提供してくれることになった。

 そしてトルーア王子とその奥さんは、明日私達と一緒にフローレス領に向かう。


「毒薬を飲まされたなんて、王子の妻となる方は大変ですね。リディアナ様もお気をつけてください」


 フレッドは気軽にこんな冗談を言えるまでになっていた。

 実はトルーア王子の奥さん、王子の元婚約者から毒薬を飲まされたらしいのだ。なんとか一命は取り留め、その後妊娠がわかってうちの国に逃げることを決めたらしい。元婚約者は公爵家の令嬢で政治的な力も強く、王子の力ではどうしようもなかったんだそうだ。彼にそんなドロドロの裏設定があったなんて……。


「私、どちらかと言うと毒を飲ませる側ですけどね」

「あはは! お二人に限ってそんな!」


 いつもならウケると嬉しいのだが、今回はちょっと原作の私達の関係と似てるところが多くてウケても虚しい。

 それにしても、貴族の結婚というのは大変だ。ライアス家に関してもそう。エリザからの情報で、まだフレッドとの婚約にダージ家があれこれ言ってきて辺境伯が頭を抱えているという噂が舞い込んできた。


 婚約破棄をチラつかせてと無茶苦茶を言う家のようなので油断はできない。フィンリー様を嫡子にして娘と結婚させろとか……。ああ嫌だ。ダージ家以外に誰か他にライアス領へ嫁ぎたいと思える人はいないだろうか。


(一人いる!)


 私の狭い友好関係の中に一人だけ該当者がいる。身分は問題ない、何より気があいそうな気がする。ただ年齢が少し離れているかもしれない。多分……だがライアス領の特殊性も気にならないのではないだろうか。


「フレッド様は、どのような方とご結婚されたいですか?」

「私ですか? そのような事言える立場ではありませんよ」


 また、あははと大笑いしながら答えた。ただ今回はちょっと目が泳いでいる。ダージ家に対して思うことがないわけがない。


「まあ可能ならば、このライアス領の事を大切に思ってくださる人だと嬉しいですね」


 なんて模範解答なんだ。だけど多分フレッドは本気でそう思っている。そしてそれはダージ家の人間ではないことも知っている。


「少し失礼しますわ!」


 お節介おばさんと言われようがかまわない。私の望みはフィンリー様の幸せで、フィンリー様はフレッドもこの領のことも大好き。フレッドとライアス領の繁栄はフィンリー様の幸せだ。と言うのは建前で、なんだかムカつくダージ家が、この素晴らしい領に入ってくるのは面白くないので、自分が後悔しないために打てる手は打っておく。


 貴族の結婚の重要なファクター、それは当主……親である。


「辺境伯夫人、少々お話が」

「なんでしょう」


 自分の飛龍の手入れをしている。どの龍にもいくつもの傷が治った跡がついていた。普通は一人一匹なところ、彼女は飛龍を五匹も従えている。まさに女傑だ。


「あの……えーっとですね」


(なんて言えば? ダージ家を辞めてオルデン家の長女はどうですか? って、流石にオブラートなしに言えないわ)


「どうされました? 私とリディアナ様の仲です。どうぞ遠慮なく」


 ああ、優しい笑顔すらカッコいい。私はどうもこの顔に弱いようだ。今回のことで夫人と仲良くなれたのは何よりの収穫と言っていい。


「あの、少し変な話ではあるのですが……今度騎士団総長とお会いになられるとか……」

「ええ。リディアナ様のお陰で、わざわざ領まで来ていただけることになりました」


 騎士団の隊服の商談だ。こちらもうまく話が通っているようで安心した。


「私、オルデン家の長女ダリア様を存じているのですが、大変寡黙で勇敢な方でして、防御魔法も極めてらっしゃいますし、ですがとてもお優しくってですね……家族思いで……その……」


 夫人は不思議そうな表情でこちらの話をちゃんと聞いてくれている。まさか十歳児が他人の領の嫁問題にまで口を出すとは思わないだろう。


「以前お屋敷に遊びに行った際にですね、オルデン夫人がダリア様の将来を心配されておりまして……その、ダリア様はあまりご結婚には興味がないようではあるのですが……あの、そのですね……」


 しどろもどろだ。ヤバい。いったい何が言いたいかわからなくなってきたぞ。


「ええ……あ、ああ! なるほど!」


 ついに辺境伯夫人が察してくれた。そして大爆笑だ。今日はどうやら調子がいい。


「そこまでご心配いただいて……我々は幸せ者ですね」

「いえ、このようなこと不適切だとはわかっているのですが……」


 まだ面白そうに笑ったままだ。よっぽどウケたらしい。


「ご安心ください。ダージの娘をライアス領に入れるつもりはありません」

「え? でも……」

「夫はダージ家に借りがあると思っているのです。自分が婿入り予定だったのが、急に当主になることに決まって婚約破棄……お相手に酷く責められたのを今も気にしているのです」


 こんな所に婚約破棄経験者がいたとは。


「その時にかなりの金品を相手に渡したようで、どうも味をしめたようですよ」


 やれやれと肩をすくめた。


「実は今、ダージ家は言いがかりを付けて今回の婚約破棄を我が家のせいにしようと必死ですよ」

「今回の婚約破棄!?」


 どう言うこと!? 婚約破棄するの!? 結局ダージ家の娘とは結婚せずにすむの!?


「ええ。フィンリーと結婚させろと言ったり、飛龍隊を解散しろと言ったり……うちから婚約破棄という言葉を引き出したいようです」

「でもそしたら……」


 ダージ家は財政難という話ではなかったか?


「どうも他にいいお相手を見つけたようで」


 開いた口が塞がらないとはこのことだ。婚約破棄の慰謝料をせしめた上で他の人と結婚するつもりなのか。


(フレッドのさっきの反応……私に気を遣ったのか……悪かったな……)


 まさか治る見込みができたのに、結局婚約破棄されそうです! なんて話題、客人の滞在最終日には不適当だと思っただろう。


 その後すぐに、フレッドの体調に不安があるとダージ家側から婚約破棄の申し出があり、双方の合意の上、お互い賠償金等一切なしの円満解決、ということで話がまとまった。ライアス家側も、わざわざ回復の見込みがあることを告げることはなかった。


 後日のエリザ情報で、ダージ家の娘は最近金鉱脈が見つかって金回りが良くなった子爵家の嫡男と改めて婚約したそうだ。その子爵家の嫡男は氷石病から回復した人の一人らしく、原作では亡くなっていたのかもしれない人物だ。こんな所で物語が変わるとは。


「いいお話を聞かせていただきました。私はあまり王都へは出ないので、こういった情報に疎いのです」

「いえ、度々出しゃばるような真似をして失礼いたしました」


 これも後日談になるが、無事フレッドとダリアは婚約した。ダリアの方が五歳年上だったが、フレッドはそんな事全く気にしなかったようだ。それよりも飛龍にも臆せず、なによりライアス領の特性をとても楽しんでいるのを見て嬉しくてたまらないようだとフィンリー様から聞いた。そして、オルデン夫人からもそれはもう感謝されたのだった。


「どうかルイーゼの方もいいお相手がおりましたら……」

「お母様やめてください! 私は結婚などしなくていいと言ったではないですか!」

「ダリアもそう言いましたがね! 貴族の娘が結婚せず簡単に生きてはいけないのですよ!」

「お姉様は問題なかったわ! 私だって問題ないに決まってる!」


 微笑ましい親子喧嘩を見物する羽目になった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ