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4  罪悪感の行方

 それにしても罪悪感が酷い。いっそのこと全部話してしまって楽になる? ここが物語の中の世界だって? いやいや、病気で頭がやられたと思われても困るし何より……、


(この家庭が不幸のどん底に落ちてく話なんかしたくないわ!)


 なんとハートフルな家族なんだ! こっからどん底の突き落とされたらやっぱり闇落ちしちゃうの!?

 

 母と共にソフィアの部屋へ向かう。相変わらずエリザが車椅子を押してくれているが、もう通常通り歩けるのだ。母の治癒魔法は偉大である。

 ソフィアの身体はやはり氷のように冷たかったが、まだ話すことはできた。


「ああ、お姉さま……治ったのですね……よかった……」


 震える声で私の回復を喜んでくれた。一生懸命微笑もうとしてくれるところがもう泣ける。まだ七歳だぞ。なんて優しくていい子なんだ。こんな子を死なせてたまるかってんだ!

 母がソフィアの腹部に手を当てる。ほんの小さな光が見えた。


「……()()わね」


 そして悔しそうに呟いた。


「なんで気が付かなかったのかしら……」


(仕方がないよ。本当なら世間がこの病の正体に気がつくのは八年後、その時お母様はすでに……)


 なんて話せるわけがない。


「今わかって良かったではないですか!」

「そうね」


 少し寂しそうな微笑みだった。おそらくこれまでに助けられなかった人々のことを想ったのだろう。


「ソフィー! もう少しで治りますからね。あと少しだけ辛抱してね」

「……はい」


 辛いだろうに、こちらを心配させないようにまたも笑顔を見せようとする。


 ロディの方はどうやら深く眠っているようだ。規則正しく息をしていた。


「あまりに寒がって辛そうだったから眠らせたのよ」


 同じように腹部に手を当てて確認している。私はなんとなくしか魔力を吸われてる場所がわからなかったが、どうやら母はピンポイントでわかっているようだった。スキャン機能でもあるのだろうか。


「リディアナ、今日はもうすぐに休みなさい。明日から貴方にも頑張ってもらうことになるわ。いいわね?」

「もちろんですわ! お母様も早くお休みになって!」

「そうね。でもその前に貴方の叔母様に治療方法についての報告に行かなきゃ!」


 叔母のリリー・フローレスはこの国の聖女だ。聖女はこの国で一番の治癒魔法の使い手がなる。母と同じく今回の氷石病には手を焼いていたようなので、この報告は喜んでもらえるだろう。

 不意に抱きしめられた。


「リディアナ・フローレス、貴方はこの国を救ったのですよ」


(うわあああ! 罪悪感で心が潰れてしまう!!!)


 正直、ここはサラッと流して欲しい。私の功績なんかにならなくていい。実際横取りしたようなものだ。不安気な私の顔を見て、母が少し不思議がった。


「お母様、夢のことは黙っていて欲しいのですが……」

「……わかったわ! うまくいっとくわね」


 安心させようと優しく撫でてくれた。自分がまだ十歳の姿であることを思い出す。そしてまた新たな罪悪感が湧いてくるのだった。


 部屋に戻りベッドに潜り込む。食事は部屋にお願いした。エリザが出て行った途端にベッドの下から人が飛び出してきた。


「リディ!!!」


 双子の弟、ルカである。実は部屋に入った時から隠れきれてない足の一部が見えていたのだ。エリザも気づいていただろうが、特に触れなかった。


「リディ!!! よかった! 本当によかった! 良くなったんだね!!!」


 手をとって嬉しそうにブンブンと振り回す。覚醒してから初めてこんな元気な人間を見た。


「ええそうよ! 良くなったわ!」


 久しぶりに見た顔だ。双子だというのに全然似ていない。弟は母に似て銀髪、目の色も淡いブルーだ。全体的に色素が薄い。


「なんで僕だけ感染しなかったんだろ。皆一緒に風邪ひいたのにね」


 どうやらまだルカには氷石病の詳細は知らされていないようだ。私たち兄弟はおそらく夏の間を過ごしていた領地で種をもらってしまった。その後王都へ戻って、そろいもそろって風邪を引いたのだ。結果、ルカだけが発病しなかった。彼は兄弟の中、いや家族の中で唯一魔力量が少ないのだ。これが後々彼のコンプレックスとなり、今の明るく人懐こそうな少年に影を背負わせていく。


「ラッキーじゃん」


 今はまだそんな闇を抱える必要はないだろう。実際病気なんてならずに越したことはない。


「なにそれテキトー!」


 キャハハと笑う。私もつられて笑う。ルカにだけはあってるかもわからないお嬢様言葉を使わなくていい。この世界での私の半身だ。


(でもこの子、最後はリディアナを裏切るのよね~)


 なんてことが頭をよぎらなかったわけではない。けどそれは今のルカとは別のルカだ。

 そうしてしばらく、私が寝込んでいた一ヶ月の間にあったことを教えてもらった。途中でエリザが二人分の食事を持ってきてくれた。まだ一応私は病人扱いされている。


「アリバラ先生がリディに会っちゃダメって言うんだ……」


 急に元気をなくした声になった。アリバラとはルカの教育係である。私に敵対心を抱いているのは知っていたが、どうやらルカにもその感情を仕込もうとしているようだった。


「なにそれ!? そんな奴の言うこと聞いちゃダメよ!」

「だって! アリバラ先生はスゴいんだよ!? これまでの誰より魔術について詳しいし、実際スゴい魔術師だと思う……だから先生の言う通りにしたらスゴい魔術師になれるって!」

「スゴいスゴいって、具体的にどんだけスゴいのよ」

「……」

「どうせ私の悪口でも言ってたんでしょ」


 しまった! と想った時にはもう遅かった。ルカはシクシクと泣き始めてしまった。

 この可愛い弟になにをいらんこと吹き込んでくれてんだ。ていうか、すでに魔力コンプレックスが始まりつつあるじゃない! アリバラのせいか!


(アリバラって原作に出なかったからよく知らないのよね!)


 モブ風情がよくも私の可愛い弟を! と、リディアなに生まれ変わるならモブの方がよかったと嘆いた自分を棚に上げている。


「ごめん……ちゃんとリディはそんな子じゃないって言うべきだったのに……うまく言い返せなかったんだ……」


 ああ、それで罪悪感を感じて話してくれたのか。十歳が大人相手に口で勝つのは無理だろう。


「本当にルカのことを考えてくれて何か教えようとしてくれようとしてる人が、双子の姉に会うななんてそんなこと言う? 例えばお父様やお母様がいいそうなこと?」


 アリバラの奴、天下の公爵令嬢の悪口を言うなんていい度胸してるじゃない。腹立つな。


「言わないと思う」


 涙を一生懸命に止めようとしていた。きちんと話をしようとしてくれているのがわかる。


「あのね、世の中には色んな考えの人がいて色んな立場の人がいるわ。なんてったってルカはフローレス公爵家の長男よ! 言い方は悪いけど、たいていの人は少なからず自分の利益を考えてルカを操ろうとするわ」


 コクリと頷く。これはまだ十歳の子供にとっては酷な話だろう。この年にしてすでに心を許せる人間は少ないのだ。


「なにかおかしいなと感じたら、その時は自分の心に従っていいのよ。私も相談にのるくらいできるわ!」


 ついでに付け足す。


「最後は必ず自分で決めること」

「わかったよ」


 ルカの涙を拭いながら顔を見合わせ、お互いににっこりと笑う。


「あと! 私は悪口なんて言われたって少しも気にならないわ! 全然平気なの! わかるでしょ?」


 ニヤリと悪そうな顔をしてみる。ルカはまた声をあげて笑ってくれた。そもそも悪口言われるのに思い当たる節が多すぎるのだ。リディアナの教育係はすでに十人は代わっている……クソガキと言われても仕方がない生意気っぷり()()()。過去形であることが救いである。


「ありがとう……」


 父と似た、くしゃりとした笑顔だった。だがそう安心した次の瞬間、真剣な顔つきに変わりしっかりと目を合わせてきた。


「ところで、君は一体誰?」


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