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41 荒療治

 結局その日は一日中治療院で過ごすことになった。ゴーシェもフレイも、前日に運び込まれていた重傷者の対応から魔力は回復できていなかったし、伯父の教員方針である実践訓練するのに、ここほどいいところはないだろう。


(フィンリー様からいただいた服を着てくるべきだったわね)


 私が誰だかは知らないが、どこぞの貴族であることは伝わっているらしく、皆恐る恐る治療を受けにくる。側にライアス家の騎士が目を光らせているから当たり前かもしれないが。

 ほとんどの患者が治療費を気にしていた。金額が変わることはないことを告げると安心した顔になる。子どもだからと侮る者もいた。治療後の傷跡を見て素直に謝ってきたのには驚いた。


「重症の人はいないのですね」


 治療した者のほとんどが、やや深手の切り傷、火傷、毒の症状だった。多いのは中傷といったところだろうか。軽傷もほとんどこない。その程度で治療費を払うほどの余裕があるものは少ないようだ。


「魔物の森で重症の傷を受ければ、それは死と同義です」

「なるほど……」


 ライアス家の騎士が教えてくれる。彼は昔冒険者をやっていたらしい。傭兵になろうか迷っていたところ、ライアス領の兵士としてスカウトされたと教えてくれた。


「冒険者は体が資本ですから、意外と無茶をする者はいないのです。命が惜しければ、決して自分の能力を過大評価してはいけません」

「私達にも言えそうな話ですね」


 そうですね。と優しく微笑んでくれた。

 

◇◇◇


「キモマの詳細が書かれた手記を見つけた!」

「氷石病の患者の体内から取り出した幼体を保管しているものがいるそうです」

「北方の国で長らく活動していた冒険者に会えたよ」

「効き目は弱いが、ポーションを手に入れられそうなんだ!」


 今日は全員、なかなかの成果を上げることができたようだ。だが私には勝てないだろう!


「フレッド様の症状の原因と治療法がわかったわ!」

「えええっ!?」

「ただ問題はその治療法なの。ベテランの治療師といってもそれなりに訓練がいると思うわ」


 夕食の席で私以外の皆が身を乗り出した。最も興奮していたのは、今まで一番乗り気に見えなかった辺境伯だった。


「そ! それはどのように!?」


 私はまず原因のあらましを話す。もちろん、専任治癒師ゴーシェに非はないことを念入りに。彼がいなければフレッドは絶対に今より酷い状態であると力を込めて。ただそれがくどすぎたのか、


「そのようなことはもちろんわかっております」


 辺境伯夫人にピシャリと嗜められてしまった。

 

「肝心の治療法なのですが……」


 フレイとゴーシェから聞いた、骨の場合の例を伝えた。

 まず、もう一度同じ箇所の骨を折る。それから正しい位置に固定して治癒魔法をかけるそうだ。


(リセットするのか)


 火傷の場合も似たようなことをするらしい。患部を再度傷つけて治すそうだ。


「なかなかの荒療治だね」


 ルカは治癒師の家系生まれだけあってそのやばさがわかるようだ。治療を受ける方もおこなう方もそれなりに胆力がいるだろう。


「それではフレッドの場合、魔力が漏れ出ているところを再度広げてそこを修復するということですか」

「そうです。もう一度壊して再治療をおこないます。ですが同様の治療をおこなったことがある治癒師はおそらくいないでしょう」


 壊し方はわかっている。中途半端になら治す方法もわかっている。だけどぶっつけ本番というわけにはいかない。調整は必要だろう。


 その前にどこが漏れているかわからなければ。伯父の手紙を読んだ限りでは期待ができそうなので、これはあまり心配していない。


 ガタリと大きな音を出しながら、辺境伯が椅子に倒れこんでいた。


「父上!?」


 急いで駆けつけ、治癒魔法で体内の状態を確認する。心臓がバクバクと大きな音を立てているが、特に悪い所はなさそうだ。


「あ……いえ、その……まさか本当に解決策が見つかるとは……まだ十歳の子供達が……あぁ、申し訳ございません……」


 どうもまだフレッドを救う術が見つかったことが信じられないようだ。

 悪いことが起こる時は転がり落ちる様に色んなことが悪化していく。それと同じように、良いことが起こる時はこんなとんとん拍子に進むこともあるだろう。

 

 翌日の昼、フレッドがライアス領に戻ってきた。嬉しそうな顔をして。


「漏れ出ているところがわかったよ。ルーク様はすごいお方だ!」


 ただ、伯父にとってもかなり難しい作業だったらしく、確認が終わった後ふらふらだったらしい。


『かなりの集中力が必要な作業だったよ。こんなに大変なのは久しぶりだ。僕もまだまだ頑張るべきところがあるね』


 まだ腕を上げるつもりなのか。

 漏れ出ている箇所はちょうど心臓の当たりだった。ここは所謂、魔力貯蔵器官があるとされている場所だ。


「わ、私はその辺りに触れて治癒魔法をかけていました……」


 ゴーシェは後悔が滲みでている声だった。


「やめてくれよゴーシェ! 君がいなきゃ二度と飛龍に乗って飛ぶこともできなかったんだから」


 ちょうど体内の()をパンクさせるための魔力の注入口が破れていたのか。相手は嫡子のフレッドだ。治癒魔法をかける方もプレッシャーや強い気持ちがあっただろう。きっと気合いも入っていたはずだ。


「それでフレッド様、今後のことですが……」

「両親から話を聞きました。方法を見つけてくださったそうで……感謝のしようがありません!」

「それではもう少し時間がかかることも……?」


 ぬか喜びさせてしまっていないか不安になる。


「わかっています! なんだか夢のようです……本当に治る方法があるなんて」


 これはもしかして……私達の為に付き合ってくれていたのだろうか。辺境伯夫婦も、フレッド本人も、実はもう皆とっくに諦めていたのを、私達が無神経に掘り返していたのか。


 ならその責任はちゃんととらないと。

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