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37 冒険者ギルド

 この世界の冒険者ギルドには階級(ランク)が存在しない。ただやはりギルド内での評価というものはあり、斡旋してもらえる仕事は人によって異なる。新人の冒険者はこの街にあるギルドに掲示されている魔物の素材を納品することで少しずつ信用と評価を上げていくのだ。


(うそ……マジでいた……!)


 冒険者ユリア。原作で大好きなキャラクターの一人だ。気は強いがサッパリした性格、そして情に厚い。戦闘力も作中上位であることは間違いない。

 今はまだ冒険者になりたての頃だろうか。髪の毛も長い。綺麗なブロンドを高く結い上げている。だけどあれは間違いなくユリアだ。どうやら相棒と思われる男性と次にどの依頼を受けるか相談しているようだった。原作では見たことがない。


(あとで声かけてもいいかしら……)


 ざわざわと騒がしい広いエントランスの壁にはたくさんの依頼が掲示されている。受付に何人ものギルド職員が冒険者達と依頼についてやり取りしているのが見えた。さらにその奥は冒険者専用の宿屋と食事処となっているようだ。


(ああ~! これよこれ! この雰囲気最高じゃない!)


「王都の冒険者ギルドより規模がかなり大きいな」

「そうだね。滞在してる冒険者の人数が違うから」


 すでにこの感動を体験済みの二人は王都との差を話し合っている。

 この国ではあまり見ない黒髪の団体も見かけた。東の方の国から到着したばかりだろうか。言葉がうまく伝わらないのか身振り手振りで説明している。だが受付の職員は慣れているようでサラサラと用紙に何かを記入していた。父も最初このようにしてこの国で過ごしたのだろうか。


「はあ! なによそれ!?」


 急に女性の怒鳴り声がエントランスホールにこだました。


「落ち着けよ……」


 相手の男性は面倒くさそうに対応している。

 

 揉めているのはユリアだった。まだ何かわめいていて注目を集めてしまっている。職員二人が揉め事なら外へ、と入口へ促していた。これもしばしばあるトラブルなのかもしれない。


「もういいわよ! 私達お終いね!」

「清々したぜ。前々からお前とは合わなかったんだよ」


(別れ話!?)


 そのままユリアは食堂の方へ、男性はギルドの外へと出て行った。


「あらら、パーティ解散しちゃったみたいだな」

「パートナーを探すのは大変と聞いたが……」


 原作のユリアはソロの冒険者だった。それまで色々あったんだな……。


(がんばれユリア)


 ユリアは唇をキュッと噛みしめていた。


「もしも僕達が冒険者だったら、かなり上を目指せると思わないか?」


 突然この話題を出したのは、フィンリー様でなくレオハルトだ。


「僕とレオが前衛、ルカとジェフに魔法で援護してもらって、リディの治癒魔法付きか……なんて贅沢なパーティだろう!」

「いや、ジェフは前で戦いたがるんだ。それにリディも」

「あはははは! 前衛ばかりじゃないか!」


 フィンリー様、本当に嬉しそうだ。レオハルトは知っているんだろうか。フィンリー様が将来どうしたいのか……。

 その後は三人でたくさんの依頼書を見ながら、もし自分達がこの依頼を受けたらどうなるだろうかとか、この依頼にこの金額は安すぎるだとか、この依頼にある素材で依頼人は何をするんだろうだとかなんて……もしもの話をいっぱいした。自分達の立場からすると、なかなか踏み入れることが許されない世界だ。


「世間体が許さないだけなんですよね」

「え?」


 つい心の声が漏れてしまった。


「いえその、なんでもないです」

「立場も許さないさ」


 レオハルトには伝わったようだ。フィンリー様の表情が曇ったのが見えた。


「うちの両親と伯父のこと、ご存知でしたっけ?」


 どうにか笑い話にしたくっておどけたように自慢の家族の話を持ち出す。最初にグフッと吹き出して笑ったのはレオハルトの護衛騎士マークスだった。


「も、申し訳ありません!」

「笑わせたくて言ったんだからいいのよ」


 先ほど隣国のトルーア王子を見かけたばかりだ。今持っている全てのものを諦める覚悟があれば、やれないことはないだろう。立場があればあるほど、手放さなければならないものも多いだろうが。


(原作でレオハルトは王位継承権を放棄しようとしたわ)


 アイリスと一緒にいるために。


「僕ってそんなにわかりやすいかな?」


 フィンリー様は困ったように笑っていた。でも私達はそれに返事はしなかった。今はまだこの話をするべきではないだろう。


◇◇◇


「うそ! うそうそうそ!」

「すまない! やはりリディにこれは失礼だったよね……」

「違います違います違います! 一生の宝物にします!!!」


 部屋に戻ると、テーブルの上に可愛くラッピングされた箱が置いてあった。中身は服、それも冒険者が着るような衣装だった。フィンリー様からの贈り物ってだけで気を失いそうになる程嬉しいのに、それが身につけるものなんて! 


「冒険者だけじゃなくって、傭兵も利用する店のものなんだけどね。傭兵が小さな新入りの為に購入することもあるらしくって、結構色々あるんだ」


 美しく刺繍で装飾されたミニワンピース、ベルトには小さなポーチとホルダーがついている。それに細目のズボン。中に薄手のカットソーを着込むようになっている。そして丈の短いマントだ。これにも全体に綺麗な刺繍が入れられている。さらにロングブーツまで用意されていた。街で似た服を着た子達も見かけたが、これは間違いなくハイクラスのものだろう。


「可愛い! 着てみてもいいですか?」

「もちろん!」


 (残念ながら)私だけでなく全員分用意してくれているので、昼間に話していた通り、これで冒険者パーティが組めそうだ。


「皆よく似合うよ!」


 どうやら自分の思った通りの仕上がりだったみたいで、一人一人の周りをじっくり周って確認している。とても満足そうだ。


「王都に戻ってもこの服で過ごしたいわ」

「また馬鹿なことを、と言いたいが今回ばかりは同感だ」

「この伸縮性はどうなっているんですか? 騎士の隊服よりずっと動きやすいです」

「これ素材はなに? これだけ伸ばしても全然ダメージがないんだけど」


 全員口々に褒める。この服、前世で着ていたものと着心地があまり変わらない。何より軽くて伸縮性もあるので動きやすい。私のものと違って、男子はトップスがシャツとベストになっている。靴はショートブーツだ。


「その服のほぼ全てが魔物から出た素材で作られているんだ」


 なるほど、王都で流行らないはずだ。クジャク龍みたいな見た目のものなら問題ないが、基本的には人間にとって恐ろしい姿のものばかりだ。


「うちの騎士達の服もそうなんだけど、丈夫でとっても軽いんだよ」

「これは……早急に王都の騎士達にも取り入れたいですね」


 騎士の服も私が普段着ているドレスに比べれば天と地の差の動きやすさのようだが、それでもこれには完敗のようだ。


「それに関してはフレッドが今動いているのです」


 楽し気な声に釣られてかライアス夫人がやってきた。フィンリー様が身構えている。私達も……またお客様に何を! と叱られるのではないかとドキドキだ。


「叱りはしません。まったく……皆様の寛容さに感謝するのですよ」

「いや、でも本当にこの服はすごいよ」

「ありがとうございます。ですが素材を知ると脱ぎたくなってしまうかもしれませんよ」


 いたずらっぽく笑っている。これが本来のライアス夫人の姿なのかもしれない。


「楽しんでいただけたようで安心いたしました」

「はい! とっても素晴らしいところですね!」


 異世界の本で読んだようなファンタジーの世界。


「フィンリー様! 戻りました!」


 若い騎士が駆け足でやってきた。手には手紙を持っている。どうやらフレッド達を追いかけて行った騎士らしい。


「ダミアン!」


 ライアス夫人が一括する。


「は! 大変失礼いたしました」


 だが、駆け足をやめない。若さには勢いがある。

 

 全員、その手紙に注目していた。

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