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36 魔物買取場ー1

 四人が城下で行きたい場所はバラバラだった。


「さっきのハンドボムのところ行こうよ!」

「それぞれ専門の武器屋が何軒もあるとか……」

「魔物の買取場に行ってみたいんだが」

「冒険者ギルドでしょ!」


 王子であるレオハルトの意見が優先! にはならないのが私達の関係である。

 ジェフリーだけはやはりレオハルトに意見を合わせることが多かったのだが、王子本人が心底嫌がったので、最近は意識的に自分の意見を出すようになっていた。


(こういうレオハルトの性格は原作と一緒って感じがするのよね)


 ジェフリーとは主従関係というより、友情に重きを置いている。

 フィンリー様は困ったなあと言いつつ嬉しそうだ。どこもオススメのスポットなのだろう。


「護衛が足りませんので、本日全て周ることは諦めてくださいませ」


 エリザにバッサリと切られてしまった。他の護衛やお付き達がよく言ってくれたという目で彼女を見ている。

 ここはこの国一番の冒険者街、世界中から腕に自信のある冒険者達が集まってきている。領兵の目も光っているので大きな犯罪は少ないが、冒険者同士の喧嘩やスリが多い。お忍びの姿をしてかなり抑えてるとはいえ、身なりの良い私達は格好の餌食だ。


「次回の為にここで服も買って帰りましょうよ」

「今の言葉、一年前のリディに聞かせたいよ」


 ルカがわざとらしく呆れた風にものを言う。いや、綺麗な衣装は今だって好きだよ!?

 好きだけど……貴族の服は重いのだ。特に女性物は動き回る前提で作られていない。漫画を見ているだけではその重さを感じ取ることはできなかった。今日着ているこのくらい装飾が少なくて軽い服が欲しい。


「冒険者ギルドに行ったら名のある冒険者に会えるかもしれないのよ!?」


 ただのミーハー宣言になってしまった。レディーファーストにならないのも私達の関係なので、一生懸命主張だけはしておく。


「それじゃあ二手に別れよう。そのくらいならいいだろ?」


 フィンリー様が護衛達に確認をとる。


「それでは少し早目に合流ということでよろしいですか? 酒場が盛り上がり始めると厄介なので」

「わかった! それでいこう」


 私とレオハルト、ルカとジェフリーという組み合わせで別れた。フィンリー様は少し立ち寄るところがあるとかで、後ほど私達のところに来てくれるらしい。


 私達がまず向かったのは魔物の買取場。その買取場を取り仕切っているのはライアス家だ。門の前には各魔物の買い取り価格が掲載されている。簡単なイラストも載っているのは、文字が読めない者や国外から来たきた者に向けたものだ。それにしても数が多い。こんなに種類がいるのか。


「ハルピーだ」


 誰かの声が聞こえたので門の方を見ると、ダチョウの二倍くらい大きな鳥を大人4人で担いでいるのが見えた。あの大きく美しい羽が貴族達に好まれるので、おそらく高値になるだろう。


「あれでまだ子供なのです」


 ライアス家の騎士が教えてくれた。


「あれ、飛びますか?」

「いいえ。鳥の姿ですが飛びません。ただ恐ろしく足が速く、くちばしも鉤爪も鋭利で、首の力も足の力も強力です……あまり出会いたくはないですね」


 親鳥はどれだけ大きいんだ。


 買取場の門をくぐるとそこは広場になっていて、種別にいくつかの部門分けがされていた。


(獣、魚類、鳥類、植物、鉱物……)


 私達が着く前にここの責任者に話が伝わっていたらしく、建物の方から速足で少し小太りの担当官がやってくるのが見えた。

 担当官がうやうやしく挨拶をしようとするのをレオハルトが制止する。


「手間をかけてすまない。今日はただの私用だから気にしないでくれ」

「そんな……! 殿下に興味を持っていただけて……」


 小声であるが動揺しているのがわかる。まさかこの国の王子が自分の前に現れるとは思ってもいなかったようだ。


「このような恰好で申し訳ございません……」


 どうしていいかわからないようで、相変わらず小声で話し続ける。彼は役人にも関わらずこの国の職人が良く着る作業着を身にまとっていた。しかも汚れている。王都では考えられない。とても王族を迎える衣装とは言えない。


「とんでもない。ここで仕事をするならその恰好が一番合理的だろう。ライアス領の家臣たちは皆誠実に職務を全うしているのがよくわかるよ」

「ありがたきお言葉……」


 本当にうれしいのだろう、頬がほころんでいる。


 このフォード担当官はどうやら魔物の専門家のようだ。自身で買い取りの鑑定や解体までしてしまうらしい。周囲も彼の能力を信用しているようで、案内中もしょっちゅう部下達が相談にきていた。


「商人達とのやり取りの方が苦手なのです。私に言わせればあの者達の方がよっぽど……も! もももも申し訳ございません!!!」


 レオハルトの出自を思い出したらしく、土下座せん勢いで謝り始めた。


「いいんだ! 気にすることはない。言いたいことはよくわかるよ」


 本当に気にしていないのだろう。フォード担当官の失言を面白そうに笑っている。レオハルトのこういう寛容さは将来の王としてとてもいい気質だと思う。


「ここで商人と取引きまでされるのですね」

「は、はい。鮮度が重要視される素材も多いので、できるだけ時間をおかずに売る方が値段もいいのです。解体もうちではなく自身の商会でやりたがるところも多いですね」


 解体場の側で身なりの良い商人達が、ここで買い取られた素材を覗き込み値定めしているのがわかる。まるで市場のようだ。先ほどのハルピーという魔獣が運ばれると、商人達がぞろぞろとついていくのが見えた。


「商人と冒険者は直接やり取りしないのですか?」

「昔はそうだったんですが、どうも冒険者より商人の方が……その……上手(うわて)でして……」


 言葉を選んでいるのがわかる。


「買い叩かれたんですね」

「ええ……その、そうなんです。それでちょっと殺生沙汰もあったりしたもんですから、先代からライアス家が間に入るようにしたのです」


 なるほど。そんな経緯があったのか。冒険者も命がけで手に入れたものを安く評価されたらたまらないだろう。


「値段をつけるのが難しそうだな」

「そうなんです! 現在の需要がどうなっているか調べるのが何より難しくってですね……流行り廃りもありますし、先読みも必要でして……」


 確かに、さっき見た買い取り価格も、どうしてそんなに高いのかわからない魔物もいた。


「優先的に買いたいものがある商人は冒険者ギルドに依頼を出していますね。割高ですが確実に手に入りますし。皆うまく使い分けていますよ」


 この街でうまく回るよう出来ているようだ。


「フォードさーん! 良かったですねー! ハルピーの肉入りましたよー!」

「保冷室に入れといてくれー!」


 解体係の男性が少し離れたところから大声でニコニコと知らせてきた。


「し、失礼しました。ハルピーの肉は私の好物でして……脂身は少ないのですが味は凝縮されていて……後ほど城へ届けさせても?」

「それは嬉しいです! でもよろしいのですか? お好きなのでしょう」

「そんな! 実は昨夜の夕食もここで買い取ったものをお持ちしておりまして……皆様が喜んでいただけたと聞いて今日も張り切っていたのです」

 

 どうやら彼は魔物の味までしっかりチェックしているようだ。今度本でも出してほしい。絶対に買う。『魔物グルメ本』か……うん、いい!

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