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「僕は今回の場合、呪いというより何かに取り憑かれている、という表現の方が近いと思っています」


 確かに、あの時の表情は別人のように感じた。それにとんでもなく嫌な感じも。


「剣を持つことが出現条件(トリガー)と見ていいでしょう。より強く、長く呪いが……取り憑いている者が姿を現すために剣を欲するようになっています」


 うんうんなるほど、と総長と二人で頷いた。


「では、簡単に今後の流れを説明しますね」


 伯父は少し得意気だ。今日は生徒が二人いるような気分なのかもしれない。


「まず、呪いの根源を炙り出します。その後は出てきたモノ次第ですが、在るべき場所へお帰りいただくか、倒すか、封印するかになりますね」


 一番いいのが話し合い、次が実力行使、最後がどうしようもない場合の最終手段といったところか。


「炙り出す……って、どうやってですか?」

「それは僕がやるよ。一度やったことがあるからね!」


 いつどこでどうやって!? また別の特殊魔法だろうか。


「実体がないものを封印することはできないはずですが」


 さすが防御魔法をお家芸にする家の当主。イレギュラーな内容までよく知っている。


「昔の知り合いに連絡を取っていますので、呪い用の封印石はもう少ししたら届くと思います」


 いつの間にそんな準備を進めていたんだろう。元々可能性は考えていたということか。


「手立てがあるものでよかった。国によっては呪いを家業にする人達がいましてね。その場合僕じゃあ太刀打ちできない可能性があったので」

「そのような一族が……」

「世界は広いですよね!」 


 総長はそんな恐ろしいことする一家がいるの!? といった顔をしていたが、それを感心して驚いたと勘違いしたのだろう。伯父は楽しそうにしている。


「炙り出す際には例の宝剣をお借りします」

「なんでも使ってください」

「ご子息もお借りします」

「もちろんです」

「呪いの件は極秘では?」

「今更隠すことなどありません。妹の現状をみれば薄々勘づいているでしょう」


 大人二人、ぽんぽんとやることが決まっていく。決定権がある人間がいると話が早い。


「あの……実はこの件どうも殿下にバレてしまったようなのです。大変申し訳ございません」

  

 レオハルト達のおかげで助かったけど、総長との約束を破ってしまった。


「とんでもありません! どうぞお顔をあげてください。この期に及んで家名を守ろうとしたのが間違いだったのです。そうでなければもっと早くわかったことも多かったでしょう」

「守ってらしたのはルイーゼ様のことではないですか」


 家名ではなく。そのくらい私にだってわかる。


◇◇◇


 作戦を実行したのはそれから二週間後。ルイーゼはその頃には自分の運命を受け入れたのか、諦めたのか、落ち着いた顔つきになっていた。伊達に騎士の娘ではない。顔色は酷かったが。


 場所はオルデン邸屋内訓練場、参加メンバーはオルデン家当主他ルイーゼの兄達、それに今日は母親と姉もいた。家族総出だ。こちらからは伯父ルークに私、そして父とルカとアリバラまでいる。それからなぜかジェフリーも。


「殿下も気にされていたようですが、王からお許しが出なかったので代わりに」


 だから昨日どこか落ち着かなかったのか。確かに今日は何が起こるかわからない。どんな危険があるか見当もつかない所になど、王子を行かせるわけにはいかないだろう。

 伯父もこれまでのことを知った母から烈火の如く怒られていたが、父がとりなしてくれてどうにかなった。その際条件としてアリバラが派遣されたのだ。知らぬ間に母からかなり信用された人物になっていた。

 我が家は知っての通り公爵家にあるまじき放任主義な家庭だが、それは父も母も若い頃やりたい放題していたせいで強く言えないからである。今はそれに加えて伯父もいる。保護者が揃いも揃ってこうなので、私としては助かっている。


「ルイーゼ嬢、とても不安だろうが一緒に頑張ろうね」

「はい……あの、本当に……ありがとうございます!」


 本人に今日のことを知らせたのはつい先ほど。それも概要だけ。伯父曰く、


「憑いているモノに知られないように」


 とのことだ。どうやら呪いについて本場の人から情報収集をしていたらしい。


 ルイーゼがぶるぶると酷く震えているのが気になる。寒いということはない。もうすぐ夏が来る。恐怖での震えにしては希望を得た人間の表情と矛盾していてなんだか奇妙だ。


「お父様、お母様、お兄様、お姉様、お願いがございます」


 ルイーゼがはっきりとした言葉で伝えているのが聞こえてきた。


「聞こう」


 父親である総長もしっかりと娘と目を合わせている。


「私のことをお考えなら、決して手加減はしないでくださいませ。私もオルデン家の人間でございます。どのような目にあっても絶対に耐えてみせます」


 この時点で私がすでに泣きそうだ。この家族は全員覚悟を決めている。何があっても絶対にやり遂げるつもりだ。もちろんルイーゼも。私や私の家族ももそれに一役買えるように気合を入れ直す。


「参加人数が増えたので役割を少し変えます!」


 伯父はいつも通りのテンションだ。これからきっととんでもないことが起こるのにあれはすごい。


「ルイーゼ嬢が暴走した時の拘束はご兄弟に」


 暴走は間違いなくするだろうからこれは必須。


「炙り出した後の交渉は僕と総長が」


 オルデン当主がこくりと頷く。


「交渉決裂した場合、ロイとアリバラを主体に全員で」


 父も戦力になるのか……元冒険者らしいがいつものほほんとしているから少し心配ではある。


「それでもダメな場合の封印を奥方とダリア嬢に」


 ダリアはオルデン家の長子で騎士団の魔術部隊に所属している。封印はてっきり総長が行うと思っていたが違った。二人とも防御魔法を極めているとは……原作では知り得なかったオルデン家の凄さを垣間見た。


「リディは救護係、ルカとジェフリーはリディの護衛、しっかり頼むよ!」


 伯父は私達にちゃんと役目を与えてくれた。


「それじゃあ始めようか!」


 ルイーゼからは少し離れた所で、ジェフリーの防御魔法が私達三人をぐるりと包む。

 総長が少し重そうな木箱から妖精の宝剣と呼ばれる剣を取り出した。宝剣という名に相応しく、様々な色の宝石がブレードの部分にまで散りばめられているのが見える。


(あれって斬りにくくない?)


 こっそりジェフリーに質問しようとしたその時、ルイーゼが動いた。剣を奪おうと総長に襲いかかる。


(まだ剣を握ってもいないのに!?)


 私が危ないと叫ぶよりも前に、ルイーゼの兄ヴィルヘルムが防御魔法を使って総長との間に壁を作った。ルイーゼが怯まずそれにぶつかった瞬間、彼女の腕と足が小さな防御魔法で固定される。第五騎士団長のヘルガの魔法のようだ。


「あんな使い方があるんだね」

「私も初めてみました」

「防御魔法といえばオルデン家のお家芸だって聞いたことがあるけど」

「ええ、本当にすごい。参考になります」


 ルカとジェフリーは感心している。それにしても宝剣を出しただけであの暴れようだと、渡しても大丈夫なのか不安が増す。すでに人相は変わってしまっているし。


「焦らずとも持たせてやる」


 そう言って総長はルイーゼの手に剣を握らせた。禍々しいオーラがルイーゼからほとばしる。以前と同じ嫌な感じが全身に張り付いて冷や汗が溢れてきた。


「許サヌ! 許サヌ! 許サヌ! 許サヌ! 許サヌ!」


 ルイーゼの声で、喉が張り裂けんばかりに叫んでいる。


「妾カラの恩モ忘れテ! 騙シタな! よクも! ヨくモォ!」


 怒り狂っていて聞き取りづらい。炙り出す前に自分から出てきてしまっているじゃないか。しかしルイーゼの体にいるうちは攻撃などできない。


「そのように言われても困りますね。まずはお名前から伺っても?」


 伯父は全く動じてなどいないようだ。飲み屋で荒れてるお客さんに話しかけるように相手の詳細を聞き出そうとしている。


「ダダダ誰じャア! ヴォルフヲ出サヌかァァァ! 出せトいッテイル!!!」

「私はルーク・フローレスと申します。ヴォルフ様はここにはいらっしゃいません」

「妾ニ嘘をつクのかァ! ソこの燃エルよウな赤髪ハ妾ノ加護を受ケた証ジゃア!」


 そう言って伯父の後方にいる総長を睨みつけていた。ヴォルフとは、初代オルデン家当主のことだ。


(あの天賦の才を与えた本人が呪いを追加したってこと!?)


 なんで!?


「あちらはヴォルフ様の子孫にあたる方ですよ」

「隠スなァァァ! ヴォルフを隠すナぁぁぁ! ダせエエエ!」


 そしてまた怒りの言葉を喚き始めた。埒が開かない。やはり話し合いなど無理だったのか。


「貴方は妖精王の娘、ルーフェンヤ様ですね」


 突然の声に振り向くと、レオハルトが立っていた。

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