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24 お茶会-1

 ついに当日がやってきた。お茶会は昼からだが、屋敷内は朝からバタバタと忙しい。結局招待した人のうち王都に今いるメンバーは全員参加の返事が届いた。もはや大規模お茶会パーティと言っても過言ではない人数だ。


『それだけ皆様がお嬢様の未来に期待している証拠でございます』


 おそらくお茶会に参加する令嬢本人の希望というより、その両親の意向が強いだろうことも感じ取れた。


『未来ねぇ……』


 エリザはそう言うが、封印される未来が待っている身としては申し訳ない方向の期待である。


「気が重いわ……」


 やりたくないことに気合いを入れるのは本当に疲れる。


「あっはっは! リディも大変だなあ!」

「伯父様……人事(ひとごと)だと余裕ですね……」


 私は知っている。この間あったパーティへ行きたくないとゴネて母から雷を落とされていた伯父様を。


「今日来る子達は君とそんなに変わらない年頃だろ? 気軽にやればいいさ」

「……何かやらかしちゃいそうで怖いんです」


 前回のよりも自制心は格段にアップしているが、また暴れることになったらどうしよう……。しかも今日はルカの助けも借りられない。なぜなら女の子だけのお茶会だから! 


「いいよいいよ! 僕も散々色々やったけど大丈夫だったし。サーシャが何とかしてくれるから!」


 伯父様はやらかして勘当されてませんでしたっけ……とは言えない。


 私がやらかすとそれはレオハルトの評価へと繋がり、穏便な婚約破棄を遠のけることになるのだ。やらかした後で後悔することが目に見えている。


「むしろ皆リディが何かやらかしてくれること期待してるところあるから大丈夫!」

「ルカ!」


 急に現れたルカはすでにお菓子を頬張っていた。

 やらかしを期待されているとは、名の知れた令嬢の定めだろうか。確かに評価を上げたのは新年のパーティの時くらいで、その時のことを知らない人からすれば、私はいまだに我儘公爵令嬢だろう。


「何ビビってんの。らしくないよ! 相手は十歳、だろ?」

「……その通りね」


 フィンリー様が領地にお帰りになってからどうやら腑抜けていたようだ。会えなくなるだけで生きるためのエネルギーがこんなに不足するとは……これまでが贅沢すぎた。


(生きてるだけで感謝だろ!)


 まったく私はすぐに調子に乗るんだから。自戒しなければ。


◇◇◇


 我が家の自慢の薔薇の庭に円卓が何席も設けられている。カラフルなリボンで装飾されたケーキスタンドに沢山のお菓子が乗っていた。

 会場に到着したご令嬢たちは皆一様にその美しい彩を見て感嘆の声を上げたのだった。


(よしよし、つかみはバッチリね)


 本日のテーマは『映え』である。視覚でテンションを上げてもらうのだ。もちろん味も問題ない。


 イチゴやオレンジやブルーベリーのフルーツサンド、淡い色合いのクリームで作られたフラワーケーキ、動物型のクッキーにチョコレートやドライフルーツで飾り付けをしたもの、宝石のような飴細工、シュークリームタワー、王道のスコーンに各種フルーツジャム、加えてバラのジャムも、それからカリカリチーズ……等々。

 もちろん伝統的な焼き菓子も出しているが、目新しいものに興味を惹かれるのは仕方がないことだろう。


 一部は(かね)で解決をした。いやあ、予算が潤沢だと仕事がこんなに楽だとは。技術の部分は我が家の料理人らが頑張ってくれた。たくさん出来た試作品は主に使用人たち、それからルカとロディのお腹の中へ入っていった。

 他にも色々考えてはみたが、道具を作るところから考えると時間が足りなかったので次回のネタとしてとっておくことにする。


 そしてそして、今回のとっておきの登場である。


「まあ! これは……(きん)?」


 紅茶の中をみてざわめきが起こった。今回は紅茶の中に金箔を浮かばせたのだ。


「父の国から取り寄せましたの。飲んでも体に害はありません。是非どうぞ」


 あってもこの屋敷の中でなら怖いものもないでしょうよ、とは口に出さない。


 インパクトがあって尚且つ華やかに仕上がった。父のお土産にこれが入っていてよかった。貴族の子女とは言っても金を食べたことがある子はいないだろう。私ですらこの国で初めてみたし。


「金を食べるなんて……そんなさもしい行為をする国があるとは」

「フッ……本当にその通りですわ」


 はいでました。今のはライザとクレアだ。二人は私と同じ卓に座ってもらってる。他所でまた余計な噂や悪口を振り撒かれたらたまらない。悪いが私の監視下にいてもらう。

 二人ともまさかこの席に案内されるとは思ってなかったようで、初めて笑顔が引き攣っていたが、腹を括ったようにさっそく難付けを始めている。

 どうやら噂を周囲に振り撒くのは諦めたようだ。どのテーブルも盛り上がっていてライザの声は届かない。と言うことは少々厳しい言葉を放っても他の子達に聞かれることもない。ライザ達の声も、私の声も。


「それは失礼いたしました。お二人に違うものをお出しして」


 すぐに給仕に指示をする。私がすぐに引き下がったのが予想外だったようだ。引き下げられたカップを見ながら少し惜しそうにしている。この辺はまだ十歳だな。今日も大人気なくいかせてもらいます!


「それにしても残念ですわ。レオハルト様も喜んでくださいましたのに」


 異国の文化は面白いって言ってね。


「それって本当ですか? 殿下はこのような華美なもの趣味ではありませんでしょう」


 おお、レオハルトのことわかっている。初恋相手の好みは知っておきたいよね。でも彼の母親知ってる? ジャラジャラ宝石を身に付けてるよ。

 今日のライザはストレートに私に悪意を伝えることにしたようだ。わかりやすくていい。


「そうなんですか? リオーネ様のご生家はあのオースティン商会でしょう。下手な貴族よりよほどいい暮らしをされていたと聞きましたわ。殿下もいいものに囲まれてお暮らしでしょうに」


 おお! こっちもよく知っている。彼女は騎士団総長の末娘のルイーゼ。彼女の姉兄は皆燃えるような赤髪を持っているから身元がわかりやすい。ちなみに彼女の初恋もレオハルトだ。私の婚約者はこの世界の初恋泥棒である。

 レオハルト自身は華美な格好を好むわけではないが、宝石などで飾られた派手な華やかさを決して否定しない。なんだかんだ彼は、お金持ちのお坊ちゃんなのだ。原作ではアイリスにもあれこれ贈り物をしていたので、これからも変わらないだろう。


「殿下の婚約者であられるリディアナ様がおっしゃっているのです。そのような確認、必要ありますか?」


 最後はレオハルトの有力な婚約者候補だったアリアだ。母親が裕福な平民の出身で、レオハルトと生い立ちが似ている。薄いブラウンの髪色をした、か細く透明感のある姿とは裏腹に大変気の強い少女だ。てっきりレオハルトの婚約者に選ばれた私を嫌っているかと思ったが、そうでもなさそうでちょっぴり嬉しい。


 席を決める時、ライザ、ルイーゼ、アリアの三つ巴でやりあってくれたらラッキーだな。なんて思っていたのだが、結局二対一の構図になっている。最悪、全員対私の可能性もあったわけだが、どうやら私にとって最もいい状態になったようだ。


 クレア? クレアは、


「あらあらクレア様。今日は寒くはありませんか?」


 と言ったら黙った。

 以前、彼女の家で開かれたお茶会で、彼女は父の出身について思いっきり悪口を言ってくれたのだ。周りから唆されたのを彼女が代表して口にしたことはわかっていたのだが、その愚かさに私はもちろん静かに怒り狂った。


(いや〜あれは悪役令嬢ムーブだったね!)


 カップに入っていたお茶を思いっきりぶっかけた……ならまだ可愛いものだったのだが、側にいた給仕が持っていたティーポットまで奪い取り、それを思いっきりぶん投げたのだ。

 思い出してみると自分にドン引きである。もちろん他のご令嬢もドン引きである! そりゃお付き合いしたくはないわよね。なのに今日来てくれてありがとう! という言葉も頭に浮かぶ。


(ティーポットの方は脅し目的だったけど……いや〜当たらなくてよかった〜)


 今の私だったらもっと上手くやれるが、精神年齢十歳じゃあまだ怒りのコントロールがきかなかった。


 今日はどうやらライザという強い味方がいると思ったのか、クレアはちょっぴり調子こいていたので自分の立場を思い出していただく。原作にも出ないモブはスッこんでろ!


 さて、作中に名前も出ている三名様は主催者の前でバチバチと睨み合っている。


「さあさあ! どうぞお菓子も召し上がってください。自信作ですの」


 素知らぬ顔で勧める。そしてそのまま他のテーブルのお客様へ挨拶周りをするため席を立った。あとは頼んだぞ! 存分にやり合ってくれ!


 しばらくして席に戻っても、期待通りそれは続けられていた。


「このように美しいお菓子は初めてみました!」

「このクリームはどのように作っているのかしら? うちでも食べたいわ」

「本当、胸焼けしそうなくらい甘いものばかりですわね」

「ライザ様、オレンジジャムってご存知? そちらのお家では出ないのかしら? 酸味がちょうどよいですわよ」

「ふふ、そのようにお花のケーキばかりお食べになるから」

「だいたいお茶会で飴など……どんな素人が考えたのかしら」

「あらご存知ないのですか? 王宮では紅茶へ砂糖の代わりに飴を入れるのが流行ってますのよ」

「まあ、ふふ……ライザ様とあろうお方がご存知ないなんて……ふふ!」


(おーおーおーおー……これが十歳のやりとりか……)


 記憶が戻る前の私も、ルイーゼとアリアくらい余裕があれば世間の印象マイナススタートは避けられたかもしれない。十歳児に完敗である。


 ちなみに王宮で流行ってるという紅茶に飴を入れる話は、あらかじめリオーネ様周辺と騎士団にお願い、というか差し入れをして使ってもらうようにしてもらっていたのだ。父と兄達が騎士団に所属するルイーゼがすでに知っていたのは嬉しい誤算だ。


 それにしてもライザ、お前本当に鬱陶しいな! こちとら穏便に婚約破棄するために駆けずり回ってるっていうのに、足引っ張りやがって……。


 そろそろ仕上げに入ろう。今回は大暴れせずに済みそうだ。ルイーゼとアリアに感謝しないと。


(原作ファンの知識で無双じゃ〜〜〜い!)

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