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22 魔道具

「もう妃教育行きたくない」

「そうですか」


 エリザは私の言葉など聞こえていなかったように身支度を進める。


「だって必要なくない? レオハルト様ともわりと仲良くしてるし」

「そうですね」


 そう言いながら髪の毛をとかしはじめた。


「勉強なら家でするからさあ」

「今日はゴネますねぇ」


 マリアは少し気にしてくれたが、エリザと同じように着々と出かける準備を進めていた。


◇◇◇


「うわあああん! フィンリー様がぁぁぁ」


 なぜ私が朝からゴネたかというと、ついにフィンリー様が領地へ帰ってしまったからだ。王城の楽しみの98%がなくなったに等しい。彼の兄フレッドがすっかり回復し、そのお祝いがあるそうなのだ。実はフレッド、死のギリギリラインで踏みとどまっていたためか、回復にはかなり時間がかかったらしい。言ってくれたら私が行ったのに! 推しの実家見たかった!


「そんなに落ち込まなくても、すぐに戻ってこられると思いますよ」

「ジェフリー……優しい! それなのにあなた達ときたら!」


 いつものお茶の時間、今日はフィンリー様を抜かした四人が揃っていた。


 ジェフリーは初めのうちこそ私のフィンリー様に対する態度に戸惑っていたが、その内慣れたのか? 諦めたのか? レオハルトが認めているからか? それとも世の中こんなもんだと勘違いしたのか、私のこの感情に一番寄り添ってくれるようになった。


「リディ、どうしようもない事をいつまでもグダグダグダグダグダグダ言うな」


 グダグダ多くない!?


「僕なんてこの一週間慰めっぱなしだよ!? もう飽きた」

「レオハルト様もルカも冷たすぎる! もっと優しさが欲しい! 優しくして!」


 記憶が戻る前に散々我儘やらかして自業自得ではあるが、世間の目が冷たいのでせめて仲間内くらいぬくぬくとしていたい!


 それに私は今猛烈に後悔していたのだ。フィンリー様がいつか領地にお帰りになる日が来るのはわかっていたのに、それに備えていなかった。


「カメラがいるわ」


 ルカの目が光ったのが見えた。本当は手っ取り早くスマホが欲しいけれど、どうやらそこまでのものは魔道具といえどもまだ厳しそうだ。

 ルカによると、カメラやそれに類似する魔道具は聞いたことがないそうだ。


(そもでもピンホールカメラくらいなら夏休みの工作で作れるレベルだし、探せば出てくるんじゃない?)


「カメラ? とはどのようなものでしょう」


 聞いたことのない単語にジェフリーが反応した。


「カメラって言うのはね!」


 私でなくルカがテンション高く答える。


「正確な絵ですか。それも一瞬でとなると、ありとあらゆる利用方法が考えられますね」

「動画でもいいんだけどね」

「動画……?」


 しまった。これじゃあ話が進まなくなる。あとでルカと思う存分話してもらう。


「似たような機能を持つ魔道具を知りませんか?」

「新年のパーティの後に話していたやつのことだろう? 僕も調べたんだがそういったものはなかったよ」


 レオハルト、調べてくれたのか。私が欲しがっていたから?


「私も聞いたことがありません。我が国は魔道具自体あまり流通していませんしね」


 ジェフリーが知らないと言うことはないのだろう。


「この国じゃ売れないから商人も取り扱わないんだって」


 ルカは屋敷に来る商人に何度かお願いしていたようだが、魔道具について記載された本はあっても、現物の取り扱いは難いようだった。


「魔道具ってどういうものがあるの?」


 そういえばルカとは前世の世界の機器ばかり話題にしていたから、こっちの魔道具についての知識は、原作の情報と教会からはめられた腕輪くらいしかない。私自身、この世界の科学技術(正確には科学ではないが)に関しては諦めていたところもある。知っているのは、弾丸の補充のいらない銃やボーガン、それから大型の大砲くらいだ。


「色々ありますが、一番は兵器ですね」

「日用使いできるものは?」

「もちろんあります。ですが圧倒的に兵器が作られているようです」


 やっぱりそうなのか……。ルカの話題は生活家電が多かったからもう少しあるのかと思ったけれど。認識を改めないといけないな。


「他国は魔術で魔物を撃退できるものが少ないと聞くから、その対応のためだろう」


 うちの国が魔道具を馬鹿にするわけだ。この身一つで魔物を倒せないとなど嘆かわしい! と言ったところか。


「魔道具もここ三十年ほどで急激に発展していますから、これからリディ様がおっしゃっていたような物がでてくるかもしれませんね」

「これからかぁ」


 出来れば次にフィンリー様に会うまでに用意しておきたいのだが、どうやら難しそうだ。……なんて諦められるか!


「王宮に魔道具に詳しい方はいらっしゃらいのですか?」

「僕の知る限り、一番詳しいのはルカだよ」

「ちょっとそれ……この国大丈夫なんですか?」

「おい!」


 軽口が過ぎるとレオハルトは苦々しく私を注意し、ジェフリーはそれを見て苦笑している。

 でも魔道具に手を出さないということは、個人の魔力量が減っていることはわかっているのに、今後の対策をとっていないということになる。それとも他に何か対策をしているのだろうか。


「まあでも武器の輸入はちょっと躊躇う話題ですね」

「我が国は個人の力に誇りを持っていますから。仕方のないことかもしれません」

「……だが騎士団が周りきれない地域にそれがあれば、魔物の討伐も楽におこなえるかもしれない」


 レオハルトもどうやら魔道具の有用性はわかっているようだ。原作では日頃から戦いなれてない者が武器を扱うのは危ないといって反対していたはずだが。それを守るのが王族の務めだとも。


「でもそれを使って平民たちが反旗を翻すかもしれませんよ」


 少し意地悪な質問をする。


「そのようにならないような政治をするのが王族の務めだろう」


 予想外の言葉にびっくりした。どこで心境が変わったのだろうか。全員がレオハルトを見つめた。


「戦う術もなく、ただ殺されるなんて悔しいはずだ」


 真っすぐな目だった。

 沈黙が流れる。王都と地方の差が激しいのは知っていたが、そこまで被害の差が出ているのか。魔力がある者のほとんどが都市部の給金の良い所へ働きに出ると言うことだから戦闘力においても手薄になるのはわかる。


「僕がカメラを作るよ!」

「え?」

「可愛い姉上へのプレゼント!」


 急にルカが声を上げた。


「一度作ってみたかったんだよね。いいきっかけだよ」

「私もお手伝いさせていただけませんか?」

「僕もだ!」


 ジェフリーとレオハルトも続く。


「じゃあよろしくね! リミットはフィンリー様が王都へ戻ってくるまでよ!」

「えー! もっと感謝と感動が欲しい!」

「本当に出来上がったら泣いて感謝するわよ」

 

◇◇◇


 寝る前のルカとのおしゃべりタイム、最近また復活してきた。魔力量アップの特訓が順調な証拠だ。


「作り方ってわかるの?」


 作り方に関しては、私は全く知識も情報を持っていない。それはルカも知っているはずだ。


「魔力のない世界からきたアイディアをこっちで魔力を使って作るの、面白そうじゃない?」


 魔道具を作ったり運用するには魔力がいる。そりゃそうか、機械じゃなくて、「魔」道具だもんな。だが、使用者の持つ魔力以上の効果を発揮することができるのが魔道具だ。


「そもそも僕たちの世界は圧倒的にそのアイディアが足りないんだ。魔力がない方がやっぱり不便だから便利にするために考えつくのかな?」

「ただまだその時期じゃあないってだけかもよ」


 魔力がないのが不便と言われ、私は少しばかり驚いていた。そんなこと、前世で考えたことなどなかった。


「まあ、期待して待っててよ」


 ルカは母によく似た、悪戯っぽい笑顔をしていた。

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