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悪役令嬢は推しのために命もかける〜婚約者の王子様? どうぞどうぞヒロインとお幸せに!〜  作者: 桃月 とと
第三部 元悪役令嬢は原作エンドを書きかえる

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41 破壊者

 ”王”は唯一の存在だ。二人の王など許されない。世界の力が分散してしまう。龍()も二体いていい存在ではない。この世界に存在が許されるのはただの一体のみ。


「可哀想に。龍の姿にまでなったというのに……愛する男に触れることもできないなんて」


 嘲けるような笑い声が城の庭園から聞こえてくる。デルトラ・ルーベルの目の前には、先ほど息絶えたばかりの鋼色の龍が。


「そこから動くな!」


 勇敢な騎士達が、突然結界内に現れた魔力派の一団を取り囲む。第一側妃(鋼色の龍)の核が崩れ、その破片から今回の首謀者達が湧くように現れた。だが彼らは好戦的な様子も見られず、穏やかな笑みを浮かべおり、その場にそぐわない表情に兵士達はゾッとする。


「やあやあ。出迎えご苦労。陛下はまだ城の中かな? おっと!」


 デルトラの視線が破壊された城の壁の中に移った瞬間、美しい白い龍がの鋭い爪が魔術派が()()()()()地面をえぐった。


「これはこれは。王妃様にまでお出迎えいただけるとは」


 白龍の攻撃を軽くかわし、ニヤニヤと舐めまわすように相手の頭から尾まで見ている。

 何のことだ!? と、騎士達が剣を構えたまま眉をひそめた。彼らにはすでにこの白龍が味方だという伝令が届いているが、それが何者なのかはもちろん知らされていない。


「遅ればせながら、陛下の登城命令に従い参上いたしました。陛下にお目通り叶いますでしょうか?」


 白々しく胸に手を当て、頭を下げたデルトラ・ルーベルに向かって、白龍が咆哮と共に襲い掛かる。これ以上この男が何か行動を起こす前に全てを終わらせる気なのだ。


 もちろん、彼が無策でここに現れたわけがない。


「ハハハッ! では、貴女様を倒してからもう一度謁見を申し込むとしましょう!!」


 高らかな声と共にデルトラ・ルーベルは漆黒の欠片を高く掲げた。途端に、周囲にいた魔術派がバタバタと地面に倒れていく。同時に発生した衝撃波と共に、白龍は城の反対側へと跳ね飛ばされてしまった。


「なんだ!?」

「ああ! 鋼の龍が!!」


 騎士達の声がかき消されるほどの轟音と共に、第一側妃だったものが崩れながらデルトラ・ルーベルの体の中へと入っていく。そうして徐々に取り込んだ龍の質量に合わさるかのように、人間側の身体も大きくなっていった。


「新たな龍だ!!!」


 デルトラ・ルーベルは第一側妃を取り込んで龍となった。真っ黒な龍だというのに一目で彼だとわかる、にやけた顔つきをしている。


――ああ、なんて幸せなんだろうっ!


 黒い龍の声が兵士達の頭の中に響いた。


――マリー様(第一側妃)には本当に感謝しなくては。私だけでは到底龍にはなれなかった……残念ながら適正がなくって……。やはり長年龍王の欠片を所有していた一族というのが強みになったんだろうなぁ……。


 ひとり言のような言葉。喜びと感動に溢れた声だった。


――せめてもの礼に私の中で永遠の時を過ごしてもらうとしよう。ああそうだ。この勇敢な同志達ともこの喜びを共有しなければ!! 彼らの魔力失くして龍化など到底成し遂げられなかったのだからッ!


 圧倒され動けなくなっている騎士達の視線など感じないかのように、黒龍は倒れている魔術師達の方に振り返った。そうして先ほどの第一側妃と同様の現象が彼らの身体にも起こる。デルトラ・ルーベルに吸収されたのだ。

 

――さあ、始めよう! 生き残った方が”龍王”だ!


 再び迫りくる白龍を前に黒龍は高らかに宣言した。


◇◇◇


「さっきと違う龍じゃん!!」

「白龍がシャーロット様なら、あっちの黒龍はなんなの!!?」

 

 城の前でいつの間にか黒髪に戻った私と、アリバラ先生が生き残った高揚感でいっぱいのルカが、結界の手前で騒ぎ立てた。結界の外にいた門兵が、城にいるはずの私の姿(しかも騎士団の兵服を着用中)を見てギョッとしている。


「意味わかんない!! なんであたしの結界をスルーして入っちゃってるわけ!?」


 困惑と緊張でアイリスが叫んだ。今回、城に張った結界はある意味最も単純な条件を付加していた。あらゆる生き物を中からも外からも通さない、というものだ。


(王が自ら戦いに出るかもっていう不安があったのよね)


 なんせレオハルトの父親だ。さらに言うと、魔力派への底知れる怒りと恨みを私達も感じ取っていた。シャーロット様が誰よりも守りたい人物でもあったことを知っているので、彼女のために、と思ったというのもある。


「……念のためだったが、うまく機能したな」

「ええ。あの龍が市街地に出たらどんなことになるか……」


 フィンリー様と私は崩れた城を見て同じことを想像していた。絶対に街にあの龍を侵入させてはならない。


「今はとりあえず俺達も中へ!」


 レオハルトに急かされ、私がアイリスの結界に触れると、人が一人通れるだけの穴が開いた。結界破壊魔法の部分使いだ。これはなかなかコントロールが必要だった。


(万が一に備えて訓練していた甲斐があったわ)


 アイリスの結界は、彼女の見える範囲以上を囲む場合、それなりに準備が必要だった。いくつか”楔”を決めなければうまく発動できなかったのだ。その為、私が全ての結界を破壊してしまうと、再度結界を張るのに時間がかかってしまう。

 入念な下準備のおかげで今のところ、なんとかギリギリ、最終局面を切り抜けられていた。


(予知夢に感謝ね)


 全員生き残って、学院の卒業パーティを最高に楽しいものにしてやるんだから。


「絶対ハッピーエンドにしてやる!」

 

 前を走るレオハルトとフィンリー様の後に続きながら、隣にいたアイリスと目が合った。原作を詳しく知っているのだから、私が何を意気込んでいるかすぐに理解してくれたようだ。


「やっちゃおう!!」


 グッとファイティングポーズをとっていた。


「ヒロインがやる気出してくれると上手くいく気がするわ」

「えぇ~今となってはリディアナの方がヒロインっぽくな~い?」

「んんッ!?」


 こんな時にアイリスは何を言い出すんだ。どう考えても悪役令嬢の卵をしていた私に向けたセリフではない。思わず間抜けな声が出るが、前を走る二人には聞こえていない。


「だって、悲劇の運命を変えようともがいてるし、王子様に溺愛されてるし……」

「いやいやいや……何を急に……」


 あまりに唐突過ぎてこんな時なのに笑ってしまいそうになる。私には到底似合わない肩書だ。

 

「だから大丈夫だよ。ヒロインは最後までヒーローと一緒に生き残るんだから」


 心配しないで! とばかりにこんな時にも笑顔を見せるアイリス。そこでやっと私は気付いた。


(なるほど。私の運命もアリバラ先生みたいにちゃんと変わるよってことね)


 胸の真ん中がフッと軽くなる。だが、ありがとう。という私の言葉を、龍の咆哮がかき消した。


「ジェフリー!!」


 レオハルトの声と同時に崩れた城の瓦礫から我々を守ったのは、ジェフリーの防御魔法。これからはいかに魔力をセーブしながらあの黒龍を倒すか考えなければならない。先ほどの飛龍戦ですでに私達はかなり消耗しているので、役割分担を決めていたのだ。デルトラ・ルーベル率いる魔力派と戦うために。

 ジェフリーは守り重視。アイリスは治療のみ。ルカは隠れて、ここぞというタイミングで敵に一撃いれる。そして敵への攻撃は私、レオハルト、そしてフィンリー様。だが、


「やっぱり想定通りとはいかないか」


 険しい表情のフィンリー様が剣を抜く。目の前で二体の龍が牙をむきあっていた。


「こんなの想定できないよ~。僕、もう隠れなくていいよね?」


 ルカがそう言ったのは騎士達がすぐに報告してくれたからだ。


『あの黒龍はデルトラ・ルーベルです! 第一側妃と魔力派の魔術師達をその体に取り込んでいます!』


 と。


「レオハルト様。陛下に執務室に”龍を人間に戻す薬”があったかと思います」


 以前、廃教会でシャーロット様に使った薬だ。もしもの時に備えていくつか城に置いてあった。人間が龍化したという点は同じなので、デルトラ・ルーベルにも使えるはずと、ジェフリーはすぐにそれを思い出したのだ。


「僕が行くよ。どの道、僕の出番はほとんどなさそうだし」


 まるで前世の怪獣映画を見ているような、迫力満点な戦いが目の前で繰り広げられている。


「的は大きいが、簡単に傷はつかないだろうな」


 以前持ち帰った龍王の鱗にもなかなか簡単に傷をつけることはできなかった。


「レオハルト様、あまり近づきすぎてはダメですよ」

「……わかってる」


 悔しそうな表情だが、原作のようにただ自分の力を過信し、戦いに身を投じるようなレオハルトではない。


(次期王様の自覚、最近はちゃんと持ってるのよね)


 最近はことあるごとに伝えてもいた。妙な言い方に聞こえるかもしれないが、


『もう貴方一人の身体ではありませんよ!』


 というやつだ。彼だけは変わりがきかない。レオハルト以外に次の王はいないのだ。彼ほどの適任は。最近は心底そう思っている。信用している。


「額の核を狙いましょう。あれが急所のはずです」

「そうだな。攻撃を向けるだけでも相手は嫌なはずだ」


 シャーロット様(白龍)の方は、防戦一方。どうやら城内に残る王のことを心配しているようだった。デルトラ(黒龍)はそれを嘲笑うかのように、わざとらしく城を破壊している。


「アイリス! シャーロ……白龍に結界を張れるか? 内部からの攻撃は外に通すような……」


 フィンリー様が尋ねたのは以前、廃教会でアイリスが自分に使っていた結界だ。


「ダメ! やってみたけど結界が発動しないの! やっぱり”龍”とは相性が悪いのかな……なんだか妙な気配に弾かれちゃって……! なんだろう……昔、村で感じたことあるような……」

「妙な気配?」


 難しい顔をしたアイリスが自分の手のひらを見ていた。

 黒龍の方は龍の激しい意思により結界を使って閉じ込めることができず、白龍の方は彼女の意思とは別の何かが結界を阻んでいると苦い顔だ。


 我々が手をこまねいている間も、龍達は激しく争い続けていた。アイリスの結界のお陰で城が崩れることはなくなったが、ならばこちらを試してみようとばかりに、デルトラ・ルーベルは攻撃対象を結界へと切り替えた。


シャーロット様(白龍)が結界に攻撃を当てないようにしてるってことは、やっぱり結界を破る力が龍王にはあるんだ……)


 そうなる前になんとか黒龍を止めようと、集中的に額の核へ向けて攻撃を当てていく。やはり核へのダメージは歓迎できないから、黒龍は四方に散った私達へそれぞれ黒炎弾を吹き出した。もちろん、全員それをかわしたのだが、


「絶対に当たるな!」


 その黒炎弾が触れた城の瓦礫が一瞬にして炭になってしまっていた。ほんの少しかすっただけでも無事ではいられない。


(とはいえ、攻撃を辞めるわけにはいかないわ! 相手が嫌がってるってことは効いてるってことだしね!)


 私達はこんな状況でも実にテンポよく黒龍への攻撃を続けていた。長年アリバラ先生の元で一緒に鍛えただけあり、白龍をサポートし、黒龍を翻弄しながら着実にダメージを与え続けている。じわりじわりとではあるが、核にヒビが入り始めていた。


「いける!」


 これがきっかけだったのか、それともただ時間の問題だったのか……黒龍は人としての自我を忘れ始めた。


(いや、龍の力に飲まれてる?)


 これまでは遊び半分で城を破壊し、シャーロット様を殺すではなく弄り、たまに驚かすように人間へ向かって火を吹き出していたが、その最中の瞳は確かにデルトラ・ルーベルのものだった。だがいつの間にか、瞳孔が細くなり、そんな遊び心などなくなって、ただ目の前の全てを破壊したい衝動に駆られているように見える。


「まずいぞ……」


 黒龍の動きがより凶暴になっていく。白龍は叩きつけられ、鋭い爪で抉られた傷跡からは止めどなく血が流れ続けていた。


「なんで治癒魔法が効かないのよっ」


 涙声のアイリスの悔しそうな声に、何とか立ち上がろうとしている白龍の身体に触れていた。その間、私もレオハルトもフィンリー様もジェフリーも、白龍から気をそらせようと黒龍へ向けて攻撃を続けるが、すでに相手は白龍以外、目に入らないようだった。


「生き残った方が龍王……」


 騎士の一人が思い出したように呟く。


「ルカはまだか!?」


 城が破壊されているせいで、通常のルートが通れず、ルカはまだ戻ってきていない。

 

(こうなったら黒龍に登って直接核を壊しに……結界にもひびが入ってしまっているし……)


 そもそも黒龍に近付けるかが問題だが、一度体に登れば自分の身体には攻撃できない……はずだ。そう考えているのはもちろん私だけではないようで、全員が鋭い目をしてその核を睨みつけていた。


「時間を稼げ!」

「動きを止めるぞ!!」

 

 その場にいた魔術師達は全員が地面に手を付いた。黒龍の足元がぬかるみ、沈んでいく。相手は怒り狂いながらまたも黒炎弾をまき散らし始めていた。


「防御魔法は任せて!!」


 もうアイリスクラスの術でなければあの攻撃を防げなくなってきていた。じり貧だ。


(まだ魔力がある私が行くしかないわね)


 そう覚悟を決めたその時、


――私の核に張られた結界を破壊して……。


「え?」


 どこからか聞こえてきた声。柔らかなこの声を私は聞いたことがある。


(シャーロット様!?)


 声が聞こえているのは私だけのようだ。確かに、白龍と目が合った。


――私に埋め込まれた古代龍王の核には結界が張られているの……それを破ればあんなまがい物には負けないわ……。


 苦しそうに言葉を絞り出しているかのようだった。アイリスが言っていた違和感はこのことのようだ。


「そんなことして……」


 大丈夫なんですか? と、問いかけるより早く、シャーロット様の腕が私を掴み、自らの額の核の方へといざなう。


――貴女達、とても頑張ってくれたわ。(わたくし)も頑張らなくてはね。


 優しい声だ。


「……一緒に頑張りましょう!」


 そっとシャーロット様の核に触れると、小さく何かが割れる音が聞えた。


「リディ!?」


 レオハルトに返事をする前にシャーロット様が動いた。私は必死にその体にしがみ付く。

 彼女の言う通り、核の結界を破壊した後は白龍が黒龍を圧倒した。彼女が放った白炎弾は黒龍の身体を貫き、こんどはあちらが体を引きずり始める。だが……、


(ヤバい! 今度はシャーロット様が力に飲まれ始めてる!)


 黒龍と同じく、相手しか見えなくなりつつあった。必死で自我を保ってはいるが、長くは持ちそうもない。


「……アイリス! アイリス来て!! 早く!!」

「うえええ!? あたし!?」


 シャーロット様の近くで、行けるかな……!? と、ワタワタしているアイリスを見下ろした。側には私の婚約者が、自我を失いかけているシャーロット様が、誤って兵士を攻撃しないようにこの場を離れるよう指示を出している。


「レオハルト様! アイリスをここまで連れてきてください!!」

「わ、わかった!!」


 力の抑え方はわかっている。デルトラ・ルーベルを倒したら、すぐさまもう一度シャーロット様の核に結界を張らなければ。


 あと少し、あと少し……!


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