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26 確認作業

 龍王の痕跡を探しつつ我々がおこなったのは妖精の王子から賜った加護の確認だ。

 アイリスは結界魔術、私は結界破壊魔術、ということでわりと名前通り単純明快な能力と判断した。試してみると、アイリスの結界は一度展開するとどんな強力な攻撃も通さない。私の結界破壊魔術を除いて。


「防御魔法も一発ね」


 結界魔術の下位互換である防御魔術はもはや楽々()()できた。


(つまり万が一私が封印されても打開策があるってことなんだけど……)


 この件についてはどちらも触れない。あと一年足らずでやってくるかもしれない未来。アイリスは簡単に触れてはいけないと感じているのだろう。実際あまり考えたくない事柄なのでちょっと安心している。

 魔術の難易度的には防御魔術、封印魔術、結界魔術……といった順ではあるが、私の加護は難易度に関係なく淡々とその全ての魔術を無効化した。


(まさか妖精の王子様、こっちの未来(予知夢)を知ってたり……?)


 助けたお礼に、ということなのでもしかして私のためなんじゃあ……とついつい都合のいい考えが浮かぶ。


「結界楽しい~~~! 結界内外の()()()()がこんなに簡単だなんて〜〜〜!」


 悶々と考える私とは裏腹に、聖女の末裔であるアイリスすらこれまで簡単には使えなかった結界魔術が乱発し放題なことに本人はキャイキャイと興奮気味になっている。


「普通の結界魔術とはやっぱり違う?」

「広範囲で細かい条件付けは無理!」


 ハッキリと言い切った。複雑な条件付け、というのが加護と魔術との大きな違いとなる。


「叔母様がいる教会とアイリスの村の結界ってそんな感じでできてるもんね」

「そうそう。村の存在隠す結界なんてどんな練度だよって思ってたんだけど、妖精の加護を使った結界なのかも~……つーか結界魔術は結界の加護を元に人間が作り上げた魔術なのかも!」

「ありえる~~~!」


 私とアイリスはテンション高めに二人で盛り上がった。原作ファンとして裏設定が判明するためにこうやってキャッキャと楽しんでいる。こればっかりはルカとも共有できない感覚なので、学院に入学して以来の新たな楽しみでもあった。


 一方で男性陣は健康長寿という、なんとも具体性に欠けるネーミングの加護。もちろんジェフリーが調べているが、そういったネーミングの加護は見つかっていなかった。なので私とアイリスは、


「風邪ひかないとか?」

「お腹下さないとかじゃない?」

「単純に治癒師いらずってことかな~」


 曖昧な想像をしていた。本人達も最初はこれといった変化を感じていないらしく、何事もなければ長生きできそうだな、くらいの感覚でいたのだが、


「我々を毒殺することは不可能です!」


 ある日の朝、ジェフリーが血走った眼で報告してきたのだ。非常に珍しい。後先考えない発言だ。


「ちょっと……それ、確認したってこと?」

「もちろんですっ!!! ……あっ」


 嘘でしょ勘弁してよと、私がとんでもないものを見る目をしていたせいかすぐに気が付いたのだ。自分の発言がどういうことになるか。

 彼はよっぽど嬉しかったのだろう。なんせあの王城での毒撒き事件からずっと心配していた。レオハルトが毒殺されてしまうことを。その心配が綺麗サッパリなくなったのだ。


「ジェフリー……」


 このレオハルトの悲しそうな顔を見てジェフリーは反省するしかない。彼は従者が自分のために危険を冒したのを理解している。


「勝手なことをしてしまい申し訳ありません! しかし即効性のある治療薬も用意しておりましたし可能な限り安全な方法で……」

「治癒師のいないところでやったのか!!?」


 さらに悲壮感に溢れたレオハルトを見てジェフリーはハワハワと慌てている。本来ならこんな軽率なミスをすることはない。バレないようにうまくやっただろう。


(とはいっても、ジェフリーって原作じゃ喧嘩っ早いキャラだったもんな……)


 理性的であり直情的な二面性のあるキャラだった。原作の私と睨み合ってるシーンが何度もあったし。今でもたまにそういった面が見える。


「いや……俺が不甲斐ないせいだな。心配かけて悪かった。教えてくれて助かるよ」


 レオハルトも本来のジェフリーを知っているだけに、彼がポカをするほどこの加護の効果を喜んでいるとわかったのだ。素直に感謝の気持ちを伝えると、やっとホッとしたような顔つきになっていた。隣にいるフィンリー様とルカがやれやれとお互いの顔を見合わせている。


(ん……?)


 なんだ今の感じ。


「まさか……まさかフィンリー様……」


 ギクリと体が震えたのを見た。

 

「……いや、ほら……実験する人数は多いほどいいだろう? 毒耐性が加護なのか本人の体質かわからないし……」

「待って……まさかルカも……!!?」

「僕は一応止めたんだよ~~~そしたら二人だけでやるっていうからさ~~~僕が意気地なしみたいになるのも嫌だしさ~~~」


 この後は容赦なく叱り飛ばす。せめて私かアイリスが側にいる時にすべきだし、それをしなかったのは私達が止めるとわかっていたからだろうと。無事だったのは結果論。二度と勝手なことをしてはいけませんとギチギチに詰め寄った。 


「助かったよ。リディがあれだけ怒れば今後は心配ない」


 ゴメンナサイ……としょんぼりした三人の言葉を聞いたあと、レオハルトは気の毒そうに、だが少し笑っていた。


「矛先が自分じゃないと安心してリディの怒りを見ていられるな~」


 という感想付きで。


 その数日後ジェフリーが(今回は)控え目に、


「初代アーチボルト王は我々と同じ加護を授かっていたのではないかと思われます」


 という報告をしてきた。控え目ではあるが明らかに嬉しそうだ。いやわかるよ、有名人とか人気者と同じもの持ってると嬉しいよね。それも意図的にではなく偶然だったら運命感じちゃうよね!


「確かに病気には無縁だったときう記録があるな」


 亡くなる前日まで初代国王はシャキシャキと歩き回っていた、というのは私も聞いたことがある。


「怪我をしても翌日には戦場に出ていたって話、まさか誇張ではなくその通りだったとは……」


 レオハルトもフィンリー様もルカも同じようにちょっぴり誇らしそうな表情になっていた。伝説級の人物を身近に感じて加護のすごさを改めて実感もしているようだ。


「やったことは極端だったけどビクビクして暮らす必要がなくなったのはやっぱデカいよね~。不意打ちの心配ほぼいらないってことっしょ?」


 話を聞きながらヨカッタヨカッタと笑顔のアイリスだが、ルカとジェフリーが『どうか例の実験について掘り返さないで……!』と懇願するような視線を送ったのを見て思わず吹き出して笑ってしまう。


(それにしても……やっぱり妖精の王子様、気を利かせてくれたのかな)


 妖精は気まぐれということだが、結果的に私達にとって必要な加護を与えてくれた。それぞれに心の安定をもたらしてくれるような加護だ。

 

「……全部うまくいったら、レイフリアン様になにかお礼したいですね」

「そうだな」


 レオハルトも穏やかな笑みでそう答えた。

 

「うまくいくことは決まってるから何か考えとかなきゃね」

「調べておきます」

「アイリスは何か知ってる?」

「え~妖精は人と同じで個人差あるけど~だいたいは見た目綺麗な物が好きっぽい! キラキラしてるの!」

「そうなの!?」


 ワイワイと贈り物を考える。久しぶりに心からの笑い声が漏れた日だった。

  

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