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8 龍の血脈

 約三か月間の秘密調査を終え、ジェフリーが王立学院に戻って来た。もちろん大きな成果と共に。


「ちょっと痩せたね」

「動きっぱなしだったので。もう夢中で……刺激的で……冒険者に憧れる人達の気持ちがよくわかりました!」


 園庭にある東屋で満面の笑みでそう答えたジェフリーを見て、内心その場にいたいつものメンバー(フィンリー様を除く)はドキリとしたが、


「ですがやはりレオハルト様の側に戻ってこられてホッとしています」


 というレオハルトに向けた言葉を出すあたり、流石ジェフリーと全員が思ったのだった。

 結局彼はセフィラ王国まで調べに行っていた。


「お伽噺は真実の可能性が高い、と言えます」

「つまりセフィラの王家は龍王の血を引いているということか?」

「はい」

 

 ジェフリーは龍王の足跡をたどって行った。うちの国との戦いに敗れ、セフィラ王国へ流れ着くまでを。


「少なくとも龍王がセフィラ王国へ辿り着いたのは間違いありません」


 大昔の話だというのに調べれば出てくるもので、各地の歴史書、地図、お伽噺に民間伝承、


「各地に龍王について記された遺跡や石碑もありました。どうも我が国から逃げながらも暴れ続けていたようで」


 真夏に地中から冷気が吹き出し大地が凍え飢饉が起こったかと思えば、毎日のように雷が落ち続け森が焼け灰と化してしまったり、魔獣の骨が積み重なった小山が今でも残っていたり……。


「全て『龍王』『大龍』『黒嵐』『孤竜』『厄災の影』なんて呼び名はバラバラでしたが……」


 さらにセフィラの近隣国には龍王の指も残っていた。


「例の()()はセフィラ王国へ入る前にはおこなっていたようです」

「では龍王を助けたというセフィラの王族もそれとは知らず……という可能性もあるということか」


 フィンリー様の言葉にジェフリーは黙ってうなずいた。

 その痕跡の先に辿り行きついた先がセフィラ王国。


「ちょうど龍王がセフィラ王国に辿り着いた時期、【龍眼の女王】と呼ばれる女王が即位しています。しかも公的な記録に王配の記録がありません。王子と王女を運だという記述は残っているのに」


 ちょっとずつ繋がっていく。

 セフィラ王国の資料は正妃様を迎えたということもあって、それなりに数があった。もちろん歴代の王の名が記されたものも。


「あと一つ。別のお伽噺もありました。【龍眼の女王】の娘が、国難に際し龍へと姿を変え国を救ったと言った類のものです」

「龍の血を受け継ぐものは龍へと変身できるということか……」


 ジェフリーは旅の途中で知り合った他国の冒険者達からもうまく聞き取り調査をし、セフィラよりさらに先の国になると途端に龍王の伝承がなくなることもわかったそうだ。


「フィンリー様が調べてくれた内容と一致するわね」


 フィンリー様の実家ライアス家は飛龍を品種改良し、危険な龍が人と共に暮らしている。

 アリバラ先生の予知夢には飛龍も多くいたので、その出所の調査に加え最近は『全ての龍』について調査してくれていた。そうするとやはり、セフィラ王国周辺出身の冒険者から例のお伽噺を聞かされたのだ。


(傷ついた龍が人の優しさに触れて、王女と結婚……)


 まさかこのお伽噺に信憑性があるとは。ファンタジーの世界でもちょっと……という内容だというのに。


「やはりこれから現れる龍王はセフィラの王族の誰か……」


 正妃シャーロットの死が許せない誰か復讐のために我が国を滅ぼそうとするのだろうか、という考えが一同の頭の中に浮かぶ。


「どちらにしてもこの情報は慎重に扱わなくては……」


 レオハルトの声も緊張気味だ。全員がただ黙ってうなずく。王宮の中は正妃様の話題に敏感だ。それにセフィラ王国と我が国の関係はギリギリ。王の耳にでも入って不興を買い、せっかくレオハルトが次期王としての足固めしているところに不安材料を投入したくはない。


「叔母様が……現聖女様が正妃様と仲が良かったと言っていたわ」

「そういえば」


 アイリスも覚えていたようだ。私が王から下賜された髪飾りを見て寂しそうな目をしていた。


「正妃様がどんな方か聞きに行ってみる。ちょうど週末だし」

「……大丈夫か?」

「下手なことは言いやしませんよ」


 なんせ身内だ。うちに不利になるようなことはしない。

 無事叔母にアポも取れ王都の屋敷に戻ると、玄関先で大量の資料を抱えた母と母のお付き達に出くわした。


「あら! お帰りなさい!」

「手伝います」

「ありがと。でも魔法は使えないのよ。使うと文字が消えちゃうの。面白い仕掛けよね」


 なんでも創設準備中の薬学研修所の資料室に泥棒が出たらしく、一時的に重要な資料を我が家へごっそり移動することにしたそうだ。


「魔力だけじゃないんですよ~」


 と、腕の力こぶを見せてみる。……それなりに令嬢をしていたのでたいしたものはないが。


「ふふっそうね。もし殿下が浮気でもしたら魔力じゃなくてコブシで殴るのよ。スッキリするから」

「まーたそんなこと言って……」


 母は楽しそうだ。トラブルにあっても、毎日てんてこ舞いでも、自分が長年夢見ていた未来がすぐそこまで来ている。


(どうか……母の夢が叶う未来になりますように……)


 原作とは違い母が生き残ったことで多くの命が救われた。これからもきっとそれが続きますように。


「まったく! 薬がとんでもない利益になるとわかった途端これなんだから!」


 自室に運び込んだ資料を整理しながら、口調の割に母はちょっぴり得意顔になっている。ほーら私の言った通りでしょ? と、祖父やカルヴィナ家、ルーベル家や薬の輸入を阻止しようと画策した者達に声を大にして言いたいに違いない。


「そういえば今日はどうして?」


 私は特に理由がなければ週末も寮で過ごしている。そのことは母もよく知っていた。


「ちょっと叔母様に会いに」


 明日ですが、と言いながら古くぶあつい本を丁寧に本棚に並べる。


「あら。次の聖女でも目指すの?」

「いいえ。それはアイリスが」

「あらあらあら! それは楽しみねぇ!!」


 母は今の治癒師の家系が治癒魔法を独占するような状況を嫌がっているので、アイリスが聖女になるのは大歓迎だろう。


「お母様から見て叔母様ってどんな方なんですか?」


 結局資料整理を手伝い、久しぶりに母と二人きりでお茶を飲んでいる。相変わらず綺麗な人だが、大貴族の当主らしく貫禄が付いてきたように思う。


「リリ―は……そうねぇ。正妃様がお亡くなりになってから少し変わったわ。険しい表情を見せるようになって……でも、貴方達のことは生まれる前から気にかけてくれていて……」


 遠くを見ながら当時の事を思い出したようだ。


「正妃様と仲が良かったと叔母様は仰ってました」

「ええ。あの子、誰とでも仲良く付き合えるけど誰とも仲を深めるようなことはなくって。でもシャーロット様が王宮にいらしてからなんだかとても楽しそうな表情が増えてね」


 母も初めて声を上げて笑うリリー叔母様を見たそうだ。正妃様も見知らぬ国で叔母様のような友人ができ心強かっただろう、とも。


「シャーロット様がお亡くなりに会った後、それは怖い顔をしていて……リリーはシャーロット様が暗殺されたと言ってきかなかったの」


 そんなこと簡単に言ってはいけない、とこの母が窘めたくらいというのだからよっぽどだ。


「それにね。これからこの国がとんでもないことになるって真剣な顔をして言うの。どうにかしなくちゃって。でも変えすぎてもダメだって。うわごとのようにね……教会から無理やり連れて帰って寝かせたら落ち着いたけど」


(変えすぎてもダメ?)


 なんだか引っかかる言葉だ。


「あなたが氷石病を患った時は私を励ましてくれたわ。『絶対に助かる』と言い切ってくれたのよ。あれであなたに全力の治癒魔法をかける覚悟もできたのよね」

「お陰で助かりました」

「国中の人がね。あなたが()の存在に気付かなければ今頃どうなってたか」


 二人で小さく笑った。


(記憶が戻ったきっかけってもしかして……)


 母が私に施した治療法が原作と違ったのだろうか。暴力的ともいえるレベルの強力な治癒魔法を私にかけてくれなければ、記憶は戻らず原作ルートを辿っていたかも。


(二重の意味で助かった~!)


 だがそうなると、私やアイリスが前世の記憶を取り戻したからこの世界の未来が変わった、ということじゃあないわけだ。


(最初のきっかけは叔母様!?)


 まさか……と、思いつつも一度そう思うとそうとしか思えなくなってくる。私やアイリスのようなことが、他の誰かに起こる可能性だってあるわけだ。


「そういえば……あなたが氷石病の解決方法をリリーに告げた日、『始まったわ』って……あれ、なんだったのかしら」


 その時の叔母の表情の険しさが強く記憶に残っていると母はあの日のことを思い出しながら語っていた。


(やっぱり……叔母様は何かしってるんだわ)


 下手なことは言わない、とレオハルトに自信満々に宣言したが、これはかなり深いところまで話を聞かなければ。


 その日は、ありとあらゆる可能性が頭を巡りよく眠れなかった。


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