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悪役令嬢は推しのために命もかける〜婚約者の王子様? どうぞどうぞヒロインとお幸せに!〜  作者: 桃月 とと
第三部 元悪役令嬢は原作エンドを書きかえる

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5 お疲れ様会

 王都にあるフローレス邸に到着するとすでに皆集まっていた。最近忙しくてなかなか顔を合わせることがなかったので、理由をつけて母が食事会を、と場を設けてくれたのだ。

 皆、というのは我が愛する家族とレオハルトにジェフリー、そしてフィンリー様。ルイーゼとアリアはそれぞれ家の用事で本日は不参加。具体的に言うと、ルイーゼの兄ヴィルヘルムとアリアが婚約したこともあり、結婚後の打ち合わせ……というより結婚の段取りで最近忙しそうにしている。


『なっ! なにをそんなにニヤニヤしているのですか……!』

『いや。ニヤニヤしてるのアリアじゃん』


 結婚は約二年後というのに大袈裟……ではないところが大貴族の大変なところだろう。アリアはぼぉっと幸せそうな顔になっていたが。

 ちなみに私とレオハルトとの結婚話は進んでいない。婚約者だというのに。周囲はギャーギャーと言っているが、レオハルトが王と第三側妃を説得してくれている。時期も含め学院卒業時にどうするか決める、という約束を守ってくれているのだ。そういうところは流石レオハルト、というところだろう。


(二年後にはもうどうなるか結果が出ているわね……)


 絶対に未来を変えなければ。アリア達も結婚どころではなくなってしまう。


「お姉さま! アイリスさま! お疲れさまでございました!」

「ありがとシュリー様!」


 シュリーはアイリスに懐いている。なんといってもアイリスは小さな子と遊ぶのが抜群にうまいのだ。アイリスの人懐こさは五歳児も感じ取れるのだろう。

 アイリスもシュリーの愛らしさにニコニコ。村にいる子供達を思い出して恋しくもなるそうだ。


「ガチで癒しなんだけど~~~」


 と、一応公爵令嬢であるシュリーのプクプクぽっぺをいつもぷにぷにと触っている。


「それでどうだったの?」


 食事をとりながら、母が我々でなく伯父に尋ねる。母は今日も忙しく国外から招いた薬師と立ち上がったばかりの薬学研究所の打ち合わせをしていた。


「そりゃもう二人が断トツだよ~わかってて聞くんだから~」


 騎士団治癒部隊の隊長である伯父も見学に来ていた。


「むしろ他の子達が霞んじゃって可哀想だったね~この二人が居なきゃ十分な内容だったのに」


 我々の世代は氷石病を患いながらも生き残った者が多い。元々魔力量に優れていたので、全体的に好成績。

 それでも私とアイリスは群を抜いている。こちとらもう五年は修行と呼んでいいくらいのことはやってきてるので、


(これで大差なかったら泣いちゃうわ!)


 という心持でもある。


「そんなことはわかってるわよ~! カルヴィナ家よカルヴィナ家! あとルーベル家……どうせ見に来てたんでしょ?」

「相変わらず張り合うなぁ」


 母は以前、この国に薬学を持ち込もうとしてその二家に散々妨害されているのを忘れてはいない。


「ライザ嬢は元嫡子なだけあって優秀だね。ただ外傷は苦手みたいだ。病気の症状はスムーズに治療していたけれど」

「カルヴィナ家って感じね」


 私もアイリスもへぇ~という表情になっていた。我々はどちらも分け隔てなく学んできたので、得意不得意が存在することすら以外だった。


「ルーヴェル家はいつも通り。この二人の魔力量を見てそりゃあニンマリしてたさ」

「……二人共、気を付けなさいね。あの家ちょっと見境ないところあるから」

「そういえばサーシャも随分求婚されてたもんなぁ」


 アハハと昔を思い出して笑う伯父の言葉に、え!? となっているのは父とレオハルトだ。


「あの家は魔力量で全てを判断するから。貴族階級どころか平民でも魔力があれば正義なのよ」


 母も思い出したように顔をしかめている。アイリスの方を向いて、なにかあったら絶対に我が家に相談するのよ、と念を押していた。


「お母様の方はどうでした? 今日の薬師様は調合と実験がご専門の方だったんですよね?」

「話を聞くのは面白いけど、やっぱりただ輸入するのと一から作るのとでは違うんだって実感したわ~」


 この話でも母は難しい顔をしたが、それは最初だけ。調合の際にも実験の時にも防御魔法が使える方が有利だとか(一体どんな実験をするのやら)、倫理部門を作らなきゃとんでもない人間が現れるとか……面白おかしく語ってくれた。


「……そういえば今日あった薬師。ルーベル家のこと知ってた風だったのよねぇ。話しちゃダメだったみたいで口を滑らせたあとヤバイって顔してたもの」

「あちらも薬学部門に手を出すつもりなのかな?」


 父もヒダカ国から薬の輸入に関わっているのでその辺は興味があるのだろう。


「あのルーヴェル家が!? 薬使って治療するなんて軟弱者め! くらいいいそうじゃん」


 ルカは幼い頃、ルーヴェル家から蔑むような目を向けられていたというのに、最近ではコロっと態度を変えてきた彼らに憤っていた。よって母と同じくらいルーヴェル家を嫌っている。


「あの家は秘密ばっかりだもん! 絶対悪いこと考えてるね!」


 わかったような口を利くのは我が家の次男坊ロディ。この子も大きくなった。いい感じに生意気な少年に育っている。


「まあ! そんな言い方は失礼だわ。あまり噂に振り回されてはダメよ」


 そう弟を窘めるのは我が家の嫡子である次女シュリー。ロディはちょっと不満げにごめんなさいを口にする。


 私はこういう時、心の奥底から原作を変えてよかったと思えるのだ。皆生きている。それぞれ感情があって、笑って怒って泣いている。原作に存在しなかったものだ。


(たとえ私が封印されても……この子達は生きてる……)


 我が一族がわいのわいのと話しているのを、レオハルト達は微笑みながら見つめていた。


◇◇◇


「相変わらず仲が良くて羨ましいよ」

 

 アリバラ先生の部屋でレオハルトがなぜか心底嬉しそうにしている。確かに、貴族の中でも我が家は特殊。


「え~ルイーゼのところもフィンリーん家も仲いいじゃん」

「それでもここまではないよ」


 ルカの照れるのを誤魔化すような口ぶりに、ふんわりと笑うフィンリー様。


 だが、この空気もここまで。


――予知夢を見ました


 城へと帰るレオハルト達を見送る途中、同じく会食に参加していたアリバラ先生から、小さな風に言葉をくるん(風の魔術)で伝言を届けられた。

 そうして全員の足が先生の部屋へと向かったのだ。緊張を必死に隠しながら。


「申し訳ありません。まだ全て描き終えてはいないのですが」


 テーブルに先生が描いた予知夢の絵が広げられた。これまで見たものよりタッチが荒く、急いで書いたのだとわかる。この夢は私とアイリスが選定会に出ている間に見たものなのだ。

 だがそれだけでわかった変化が。


「あ。私、龍王ガン見してない!?」

「だね」


 ルカの声が真剣だ。おそらくこれが一番大きな変化。


「……アレン……子供を庇ってるね……」

「時間がわかったのは大きいですね」

「ええ。以前はおそらく日中でしたが、少し夕日が陰り始めていました」


 ここで役に立ったのが、昨年出来上がったばかりの時計塔だ。この絵の舞台である王城前の広場に『氷石病』を乗り越えた記念に、という名目で建設された。絵では崩れているが……。


【午後三時三十分】


 崩れた文字盤がそう示している。それがスタート時間。


「先生……アレンは……」


 アイリスが恐る恐る聞く。


「……彼はかなり善戦していました。広場にいた市民を守りながら懸命に戦って……」

「その口ぶりってことは……」

「……ええ」


 アイリスはぐっと息をのみ込み、涙を堪えれいる。


「ただ、今回、予知夢には常に一直線の割れ目がありました」

「未来は確実に変わっている。ということでしょうか」


 レオハルトが強く確認するようにハッキリと尋ねた。


「ええ。おそらくこの予知夢自体が大きく変わるからこその割れ目なのだと思います」


 いい線はいっている。未来への変化が間に合うかどうか。


「龍王について何かわかれば……」


 ジェフリーは悔しそうだ。先手を打てばまた大きく未来が返られる可能性は高い。


 『龍王』という存在自体は有名だ。はるか昔、我が国はその龍に滅ぼされかけた、という記録が残っている。その龍は初代聖女の『特殊な力』を求めて龍族を率い、力業で手に入れようとしたのだ。


(ルイーゼのご先祖様の一人が活躍したって記録もあったわね)


 この国に危機が訪れた時に必ずオルデン家の一人に強力な力を持つ者が現れる。この時も例外ではなかった記録が残っていた。


「王家の紋章である龍はその龍王を越えた象徴として使われていますが……」


 その際の記録は残っている。残っているが……。


「今回の件に繋がりそうなものはなにも……」


 ジェフリーでわからないのなら我々にはさらに厳しい。

 その時、扉のノック音もなくシェリーが入って来た。


「お姉さま! 今日はいっしょに寝てくださるとおっしゃって……」

「シェ、シェリー……! 勝手に入ってきてはダ……」


 焦る姉のことなど気にしないのが末っ子の強さだ。アワアワする我々を無視してテーブルの上の()に飛びつく。


「龍王()()だわ! このかた、王女さまとけっこんしたんでしょう?」

「……へ? なんの話?」


 シェリーは、あれ、お姉さまが隣に……? と聞こえていない様子だったので、


「シェリー。龍王様はどこの王女様とご結婚されたんだい?」


 レオハルトが優しく尋ねる。我々はもう、五歳児の知識でも頼りたい気分なのだ。


「セフィラ王国の王女さまです!」

「セフィラ……正妃様の……」


 そう言いかけたところで言葉を止めた。いつものタブーが頭をよぎった、というのもある。

 セフィラ王国は正妃シャーロット様の故郷。あの国は王女にも王位継承権がある。その王女が龍王と婚姻関係にあったなどと聞いたこともないし、龍とは言っても魔獣に括られている存在の血を引いている可能性、というとちょっとばかり外聞が悪い。


「……シェリー嬢はとてもお詳しいのですね。もう少し教えていただけますか?」


 予想もつかない情報にポカンとしたり、アワアワしたりしている我々の中で唯一、フィンリー様は膝を折りシェリーに視線を合わせた。


「ふふっ。みなさまにわたくしの本をおかししますわね!」


 シェリーも頬を染めて得意顔だ。そうしてパタパタと部屋を出て行った。……のでもちろん後を追う。もう数秒だって待てる気がしない。


「本?」


 となっているのはもちろんジェフリーだが、彼が把握していない理由はすぐにわかった。


「おとぎ話……!」

「しかもこれはセフィラ王国の周辺諸国の物のようです……」


 シェリーが手に持っていたのは、子供向けに編纂されたであろう挿絵がいっぱいの『お伽噺集(絵本)』だ。


「異国の本をたくさん扱う商人から買ったのです。だってとってもさし絵が美しくって!」


 我が国との戦いに敗れた龍王がセフィラ王国へと命からがら辿り着き、人間にメタモルフォーゼ(変身)し、身を隠していた。

 その大怪我を負った龍王を、心優しきセフィラの王女が助け龍王は改心。王女と恋に落ち二人は結ばれめでたしめでたし……。

 

「国外の民間伝承まで考えが及ばず申し訳ありませんでした」

「ジェフリーが謝ることじゃないよ!」


 思っていたよりずっとスケールが大きい。やはり私は原作に囚われすぎている。国外まで関係あるとは思っていなかった。


(しかもよりにもよってセフィラとは……)


 そう思っているのは私だけではない。


「正妃様が関わっているのだろうか」

 

 レオハルトは事の重さを受け止めたような、神妙な顔になっていた。

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