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3 二度目の歓迎パーティ

 さて、今年もやってきました新入生歓迎パーティ。思い出す度に後悔と恥ずかしさで悶えてしまうあれだ。私がやらかしたあれだ。黒歴史だ。


(今年は絶対に呑まない……)


 今年のドレスは繊細なレースがあしらわれたシンプルなもの。素材はライアス領から取り寄せられている。つまりはアレである。魔物である。


「わぁ! リディそれって……!」


 フィンリー様がパァっと顔を輝かせている。


「ええ! 以前夫人とダリア様からご相談いただいていたのがいい感じに仕上がりました!」


 ただの世間話ではあったのだが、魔物から採れる丈夫な美しい銀色の糸の使用法を広げたい、ということだったので試してみたら美しい刺繍が出来上がった。宝石ではないがキラリと優しい光を反射する。


「俺が贈ったものだけどな!」

「……レオハルト様が手配してくださった職人様様なのは認めます」

「そうだろう!」


 レオハルトも得意気だ。派手な物が大好きな第三側妃リオーネ様の人脈に感謝である。


「今年の流行りは決まりましたね」


 ジェフリーが納得顔の理由が一瞬わからなかったが、


「リディアナ様が流行りを作り出されるということです」


 すぐに補足してくれた。


「インフルエンサーってやつね!」

「いんふるえんさあ?」


 アイリスの言葉に今度はジェフリーが知らない言葉だと興味を示す。


「影響力抜群ってこと!」

「悪いことはできないわねぇ」


 粗相すればあっという間に炎上間違いなし。


「余程のことでもなければ心配いらないでしょ」

「そうだよ! 僕達の権力でどうとでもなるって!」


 ルイーゼとルカがとんでもない発言をしているが、この二人は特に国内で替えがきかない能力を持っているので強気でいられる。

 特にルカは最近ちょっぴりピリッとしていた。双子の姉が恩師をも殺すかもしれない期限まであと二年なのだと嫌な実感が湧いているようだ。自分達の邪魔するんだったら実力行使やむなしくらいには考えている。


(姉じゃなくて弟が闇落ちなんてやめてよ!?)


 そんな心配も出てくる。

 ルイーゼの方は自分の『呪い』が発現した理由を今でも考えているようだ。その結果、


『原因はリディアナじゃなくて他だと思う』


 そう言ってくれた。


『どう考えてもここからリディアナが悪の道に落ちて生徒を虐殺して龍王を引き連れてくるなんて考えられない。なにより時間的に難しいでしょう? どう? あと二年で世の中呪って、この国を潰す計画立てて実行もできそう?』


 わりと納得いく理由も用意して。


(そう……それなんだよね……)


 原作では(リディアナ)が原因と描かれていたから疑いもしなかったが、実は裏話があったかもしれないし、未来を変えたことにより違う理由が発生している可能性もある。


(原作から外れすぎるとやっぱり予想が難しくなるわ)


 かといって放置できない問題はどうしようもない。わかっていて見ないふりなんて今更できないし。


◇◇◇


 今年のパーティも生徒達は楽しそうだ。同世代だけのこの規模のパーティは学院ならではというのもある。親の目もなく開放感のせいか、生き生きとしている学生も多い。

 恒例のレオハルトとのダンスも終わり、とりあえず休憩を取ろうとしたところだった。


「レオハルトさまぁ~~~私と踊ってください!!」


 甘く甲高い声が聞こえてきた。その瞬間、私の周辺がピリッとした空気に変わってしまう。

 なんせ通常のパーティでは男性が女性をダンスに誘うことがあれど、その逆はない。もう少しお祭り感覚が近いパーティだとそれもアリなのだが……。


(学生のパーティだし、微妙なラインではあるけど~~~)


 ここにいるは大多数が貴族社会で生きてきた新成人達。その共通認識で言うと、それはなし、という感覚で統一している。しかも相手はその辺の貴族ではない。この国の第一王子。しかもつい最近は王の代理まで務めた男。なのに、今回はその感覚が通じない相手なのだ。


「君は……今年の特待生の……」


 今年の特待生、ヨハンナ・ノッチェ。原作未登場人物なのでもちろん詳細は知らない。

 ギリギリの営業スマイルを振りまいているレオハルトだが、完全に困っている。一瞬でヨハンナを牽制しようと飛び出しそうになっているジェフリーを手で合図して抑えてはいるが……流石に王子様に突撃してくる平民がいるのは想定外だった。

 平民に手を出す貴族はいるが、その逆はレアであることは確かだろう。


 私も彼女が貴族派であればにこやかに嫌味の一つや二つ言うところだが、そもそも貴族派はこんなことはしない。相手が平民というのがネックとなって私周辺は全員がフリーズしていた。


(何を言っても弱い者(平民)いじめになっちゃいそう……)


 好感度の高さが仇になった。こういう時にアリアがいてくれると心強いのだが、まさかのルイーゼとお手洗い……むしろこのタイミングを狙われた気がする。

 相手は頬を赤らめうっとりとレオハルトに上目遣いだ。


「ああ! やっぱり私のこと覚えてくださっていたのですね! 入学式で私のこと、見つめてくださっていましたし……」


 そうしてチラッと私の方に勝ち誇ったような視線を送ってくる。

 ハァ? とイラついた声もあちこちから聞こえ始めた。


(こらこらこらこらこら!!!)


 こっちがヒヤヒヤするわ! この凍えきった空気どうすんの!? オロオロとした平民達の視線も届いた。え!? 私がどうにかしなきゃだめなやつ!? 婚約者の私がビシっと言えって!?


(厄災の令嬢相手に命知らずか!? 仮にも特待生でしょう!?)


 私もレオハルトも、対外的(平民相手)にはわりと『いい子ちゃん』をやってきたので、こういう対処には不慣れなのだ。とはいえ大変気が乗らないが、やはりここは婚約者という肩書を持つ私がどうにかするしかないだろう。そう覚悟してスッと息を吸い込んだ瞬間。


「この!!! 恥知らずが!!! 自分の立場もわきまえない大馬鹿者め!!!」


 ライザの怒号だ。わなわなと怒りで体が震えている。私もレオハルトも情けないことにビク! と体が震えた。


(ブチ切れじゃん!)


 なんたってレオハルトラブだもんな、ライザは。最近ちょっと大人しくなったけどフラストレーションため込んでたのかな。


「どうしてですか!? だって学院では皆平等なんですよ!!!」


 噓でしょ!? あのライザに反抗するの!? という目がいっせいにヨハンナの方へと向く。


「平民は本音と建前もわからないというの! 殿下にたいして無礼にもほどがあるといっているのよ!!!」

「平等の意味をご存知ですか!? 平等の前には本音も建て前もありません! あると言うなら学院の理念を見直すべきです!」


 そうしてヨハンナは興奮気味にライザに負けない声量になっていく。


「殿下だって私達平民と同じように平等に! 自由に踊る相手を選ばれるべきでです!」


 周囲の顔色は赤くなったり青くなったり……どんどん空気が重くなっていく。

 ああ、このパーティ、完全に終わったなという空気が流れ始めた。こんな思い出は新入生が可哀想だ。


(それにこのままじゃ平民出身の生徒に対して貴族派がどんな行動をとり始めるか……)


 ()()()するのにちょうどいい理由を与えてもいけない。えーっとえーっとどうしよう……。

 周囲を見渡すと、アランとピッタリくっついて、あーあ、という顔をしているアイリスや、ウゲェっとあからさまに軽蔑の目を向けているレヴィリオ、見世物鑑賞しているヴィンザー帝国の次期皇帝ジュードに、会場に戻ったらとんでもないことになっていたルイーゼとアリア、困ったなという顔も可愛いフィンリー様……。


(ええ~い! もう一か八かよ!)


 大きく息を吸い、


「ええ! そうだわ! そうよ!!」


 滅多に出さない甲高い声を張り上げた。隣にいたレオハルトまたしてもがビクッ! となっている。


「せっかくの学院のパーティですもの! 平等に皆で楽しまなくては! そうですわよねレオハルト様!」


 そうだな! って言え!! と眼力を送る。


「そ、そうだな!」

「レオハルト様!?」


 ライザが絶望するような声色になった。どうしてもヨハンナとレオハルトを躍らせたくないのだ。そしてヨハンナの勝ち誇った顔。


「やっぱり! リディアナ様は私達のこと認めてくださるのですね!」


 こ~の困ったちゃんめ! まぁたそんなこと言って! 次は助けてあげないからな!?


「ええ! 皆様、レオハルト様とも私とも踊ってもいいはずですわ! だってこの学院では平等なんですもの!! 貴族も平民も、王も皇帝も、男も女もないということですわね!」


 フィンリー様がハハッとご機嫌そうに笑った声が聞えた。


「ルカ! 踊ろう!」

「いいよ~~~」


「しかたない! レヴィ、あたしが一緒に踊ってあげる~」

「なんだその言い草!」


「あ、ではその……アリア様……オレ、私でよければ……」

「ええよろこんで。アラン様」


「今日こそ踊っていただこうルイーゼ嬢」

「しかたない……よろこんで、と言わなければ」


「ジェフリー様! (わたくし)と是非!」

「その次は私と!」

「次の次は私と……!」

「ええ。皆様を踊れるなんて光栄です」


 それぞれが近くにいる学友達と笑いあって踊り始めた。ここぞとばかりに意中の男子生徒に声をかける女子生徒達もいてどんどん空気が明るく変わっていくのがわかる。


「え? え? ちが……私は特待生で……特別で……」


 と、呟いているヨハンナは私とだ。腰と腕を優しくだがグイっと勢いを付けて掴む。


「まあヨハンナ様! 特別なのか平等なのかどちらかにしてくださいませ?」

「っ!」


 顔を真っ赤にしているが、気にせず楽しく踊ってみせる。ダンス歴も長くなっている私に任せなさい。男役もばっちこいよ。


 レオハルトの方は、私の意図が伝わっていたようだ。


「ライザ嬢。よろしければ一曲お願いできるかな?」

「……! は……はい……」


 急にライザの声がか細くなった。

 敵対する派閥の上にいる二人だ。その二人がいがみ合うでもなくちゃんとダンスを踊っている。それを第一王子派と第二王子派の和解と捉えるほど私達も幼くはない。だが生徒達の楽しい思い出のために、それぞれの矛を収めることはできるという姿を示したのは大きいだろう。


(うん、悪くない)


 それぞれ開き直って気楽に、ただしお互いに礼儀をもって学生らしくダンスを楽しみ始めた。

 あんなことを言った私に恥をかかせないように。


 後日談のアイリス情報だが、ヨハンナは平民の先輩や同級生達にギッチギチにシメられたそうだ。


「リディアナとレオの不仲説からの側妃の噂を聞いたみたいよ」


 どうやら婚約破棄騒動の噂が年単位で平民まで知れ渡ったようで、もしかしたら次期王も側妃を娶るのでは? しかも母親が平民のレオハルトなら同じように平民にも声がかかるのでは!? と、そんな噂すらあるそうだ。


「ぐっ……六年前の私の軽率な行動がここまで尾を引くとは……!」


 どうやらいまだに結婚式の日取りも決まっていないのを理由に、噂の信憑性が増してしまっているという話……。


「てか貴族がなんにも言ってこなくてビックリなんだけど~。よっぽどあのパーティが楽しかったのかな?」


 それにしても二年連続でとんでもない歓迎パーティだった。トラウマになりそうだ。

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