表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
101/163

43 復讐(奪還④)

※残酷な描写あり

 ガラガラゴロゴロと瓦礫が崩れる音がする。反射的に身を構えた瞬間、再度爆発音と揺れが響き渡った。


「なに!?」


 襲撃されてる!? 上の階から男達の叫び声も聞こえてきた。


(まさかレヴィリオが!?)


 誰かに見つかって戦闘状態になってしまったのだろうか。


(こうなったら強行突破ね……!)


 ルカ、アイリスと目を見合わせてラヴィアの部屋へ向かおうとしたちょうどその時、血が流れた腕を押さえながら傭兵が駆け降りてきた。


「お! お嬢様が!!!」


 そうしてまた一発ドカンと大きな爆発音と今度はレヴィリオの声が聞こえてきた。


「ラヴィア! もうやめろ!!!」

「いいえ」

「いいから逃げるぞ!!!」

「いいえ!!!」


 ラヴィアと呼ばれた少女はレヴィリオから聞いた通り、顔に火傷痕があった。だが思っていたよりずっと酷い。右目の周りを残したほぼ全体が焼けただれてしまっている。あまり食べていないのだろう。全身が骨と皮だけでできているようだった。

 怒りと憎しみに満ちた目をしながらゆっくりと階段を降りてくる。そうして彼女の両親を見つけた瞬間。こちらがゾッとするような笑顔に変わった。口角だけが不自然に上がっている。


「ああ、そこにいらっしゃいましたの」

「何をしている! 早くラヴィアを部屋に戻すんだ!」

「し、しかし……!」


 伯爵も娘からあふれ出る怨念を感じ取ったようだ。もう彼女の枷となるキクリもいない。傭兵達は武器は構えるものの、ラヴィアと一定の距離を保ったまま。


「キャハハ! 彼らとは私を害してはならぬという契約を結んだでしょうに! 契約違反を犯せば腕が飛んでいきますよ!」


(どうしよう……)


 アイリスとルカが私のすぐ側に駆け寄り、ラヴィアの様子を伺いつつ、いつでも魔法を使える体勢にはいった。全員が彼女から目を離さないように瞬きすら惜しんで見つめていた。


「ラヴィア! お前があいつらを手にかける必要はねぇ!」


 レヴィリオがラヴィアの目の前に立ちふさがった。彼は妹を地下牢へ入れないために必死に画策していた。奴隷契約だけでもアウトだというのに、親殺しの罪まで増えたらもうどうしようもない。


「キャアアアア!!! 早くアイツを殺して! 殺しなさい!!! 何のために高い報酬を払っていると思っているの!」


 息子の言葉で状況がわかったのか、伯爵夫人は近くにいる傭兵を前に押しやってそのまま逃げだした。

 

「だからぁ~この人達は何もできないんですってぇ~」

「お願いだ! 何もしないでくれ!」


 悲痛な声なレヴィリオの声がこちらまで届く。


(手を出すなってことね……)


 ラヴィアを止めるような言葉だったが、階段下の状況を確認するふりをしながら我々としっかり目を合わせてきた。彼は覚悟を決めたのだ。私達にも同じことを望んでいる。


 ラヴィアは目の前の兄を見つめたが、そのまま母親が逃げて行った方に火炎弾を放った。伯爵夫人と使用人達の叫び声が聞こえてくる。そしてそのまま向きを変え、父親の方へと腕を向けた。リッグス伯爵は迎え撃とうと娘と同じように腕を構え、水流弾を放つ。が、娘の方が圧倒的に魔力が上だったようだ。若干威力が落ちはしたものの、しっかり全身に炎を浴びていた。


「グアアア!!!」


 伯爵が廊下に倒れ込みのたうち回る。その姿を満足気に見下ろしたラヴィアが次に狙ったのは傭兵達だ。そうして次は執事に使用人……叫び声を上げて逃げ惑っている。内部に潜り込んでくれていた味方や私達を綺麗に避けて、屋敷内を容赦なく破壊していった。

 

 その間私達は逃げ惑う彼らを守りはしない。ただ、外への逃げ道だけは創り出しておく。壁を壊し、崩れないように固めた。ラヴィアも私達の行動を止めることはなかった。

 破壊の音は間もなく収まった。


「フゥー……」


 呻きをあげている人々に視線を向けながら、私は、私達は留めていた息を吐きだしたかのように呼吸を整える。


「……終わりましたか?」

「いいえ、あと一つございます」


 先程までの勢いはなく、落ち着き払った少女が立っていた。炎を避けながら近くに転がっている傭兵の腰から剣を抜き取る。重さでふらついたのをレヴィリオが支えた。


「ヒィィィ!」


 傭兵はとどめを刺されると思ったのか、床を這いつくばって逃げるが、ラヴィアはそれに目もくれず父親の方へ歩いていった。


「この契約書にサインなさい」


 レヴィリオが渡した紙にラヴィアが触れると、じわじわと文字が浮かび上がってきた。


(これが契約魔法……)


「ち、父親に対して……ななななんてことを……!」

 

 リッグス伯爵は座ったままずりずりと後退しつつも、口だけは偉そうなセリフを吐いていた。歪んだ笑い顔は彼の心をそのまま表しているようだ。この期に及んでまだ娘が自分の思う通りになると考えているのだろうか。

 伯爵の言葉など聞く気もないのか、ラヴィアは無表情のまま剣を地面に向けて突き刺した。


「ウワァァァァァァ!」


 伯爵の叫び声がこだまする。右手の人差し指が切り落とされてしまったのだ。


「これだけ血があれば問題ないでしょう」

「うっ……うっ……」


 髪を振り乱しシクシクと泣く伯爵に一瞬同情しそうになるが、ラヴィアの手首に縛り付けられた痕を見つけてその気持ちもすぐに消え去った。いよいよヤバい時はレヴィリオがどうにかするだろう。

 ラヴィアはもう一度剣を持ち上げた。それを見て伯爵はまたもや情けない声を出している。


「ウワァァァ! 待って! 待ってくれ!!」


 だがラヴィアは剣を止めることはない。今度は右手の中指が切り離される。


「こ、こんな脅し……契約魔法は成立しないはずだ!」


 伯爵の言う通り、契約魔法に必要なのは血と双方の同意のはずだ。脅しによって成立させた契約魔法は決して発動しないと聞いた。


「そうですね。でもその内お父様から契約したいとおっしゃると思いますよ」


 そう言ってまた躊躇なく父親の指を切り落とす。


「レヴィリオ! 妹を止めないか……!」

「早く楽になれよ」


 息子も味方にはなりえないとやっと気が付いたようだ。右手の指が全てなくなり、左手に取り掛かろうとしたタイミングで、ついに伯爵が契約に同意した。


「契約魔法なんて曖昧なものですよ。でないと契約内容も知らずに同意した魔法がまともに発動するなんておかしいじゃないですか」


 ラヴィアは自嘲気味に呟いた。


 母親の方は父親よりあっさり終わった。伯爵夫人は足を怪我して動けなくなっており、何度も聞こえてくる夫の叫び声に恐れおののいていたようだ。すぐに契約書にサインすると言っていたが、


「お父様だけじゃ不公平ですよね」


 母親の指も同じように一本ずつ丁寧に切り落としていった。


◇◇◇


「さあ~後処理どうする?」


 屋敷はボロボロで、塀の向こうには大きな音を聞いてやってきた周辺の住人が何があったのかと覗き込もうとしている。

 予定とはだいぶ変わってしまった。多少のドンパチは覚悟していたが、屋敷崩壊までは考えていなかったし……。

 怪我人も多数だ。すぐに死にそうな人はいないが、痛みで苦しんでいる。


(あえて攻撃を少し外していた感じがしたもんな)


 恨みはあれど、両親ほどではなかったということか。


(これは……治療してもいいのよね?)


 ラヴィアは疲れたのだろう、倒れそうになる体をなんとか壁に手をついて支えていた。レヴィリオが手をかそうとするのを断る。


「皆様、この度は大変申し訳ございませんでした。せっかくの作戦を台無しにしてしまい……皆様のお心に背くような真似をしてしまって……」

「いや、気持ちはわからんでもないし……」


 アイリスが必死に頭を下げるラヴィアの背中に触れる。そっと治療魔法をかけているのがわかった。


「皆様、お疲れさまでした」

「うわぁぁぁぁ!!!」

「なに!? 誰!!?」


 心臓が口から飛び出たかと思った。急に天井から人が降ってきたのだ。小柄な男性がニコリとしながら丁寧なお辞儀をする。


(忍者!?)


 その動きがまさに前世でみた忍者のようであっけにとられていると、肩に縫い付けられてある所属を見せてくれた。次から次へと予想外の事ばかりだ。


「陛下直属の……!」

 

 それは王直属の騎士団の証。王冠を掲げる龍とその周りに剣、弓、槍、斧が配置されている。騎士団総長すら話を通すことはなく、王が自ら指示して自由に動かすことが出来る。話には聞いていたが、本当にいるんだな。


「あとはこちらで」


  そうは言っても、はいわかりましたと眠れるわけがないだろう。今夜も長い夜になりそうだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ