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自棄②

 週明けの月曜日、私は優菜を抱きながら父親の会社を目指した。なにか吹っ切れたように清々しい気分で。


 会社の最寄駅にあるデパートでチョコレートの詰め合わせを購入してから最上階のレストラン街でお寿司を食べながら会社の場所をググる。


 駅から徒歩で五分、ゆうくんが働く広告代理店が入るビルに到着した。目的地は三階フロア、躊躇いなくエレベーターに乗り込んで三階のボタンを押した。優菜はスヤスヤと眠っている。


 エレベーターを降りて短い廊下を進み木の扉を開けた。すぐに受付と思しき若い女が一瞬ハッとしながら笑顔で頭を下げる。先日のバーベキューでは見なかった顔だ。


「先日バーベキューでお世話になりました松本の連れです」


「え、あ、あれ? 松本ですか?」


「ええ」


 女は私と優菜を交互に見て困惑している。しかし、そこはさすがプロ、すぐに落ち着きを取り戻した表情に変わり「コチラへどうぞ」と応接室に通してくれた。


 パーテーションで区切られただけの部屋には安そうなソファと応接セットが配置されている、なぜか小さなテレビまである。


 すると先程の女が入室してきてコーヒーを置いた。「もう少々お待ちください」と言い終える前に真っ黒に日焼けした社長が現れた。


「あらあら、いらっしゃい。えっと……」


「水森です」


「そうだそうだ、水森優香さん」


「近くに寄ったので先日のお礼を」


 私はデパートで購入したチョコレートの詰め合わせが入った紙袋を社長に差し出した。


「そんなわざわざ気にしなくても良いのにー、あ、松本くんは外回りに出ていて留守なんだ」


 そう言いながら受け取るとソファに腰を下ろした、しかしその視線は私の胸でスヤスヤと眠る娘に注視している。


「ところで、その赤ちゃんは?」


「私の子です」


「ほう、可愛いねえ」


 真っ黒な社長は頭をフル回転させている事だろう。誰の子供だ? と。


「私と彼、松本結城さんの子供です」


「え?」


 赤ちゃんから視線が上がり目を見開いて私を見る。


「あれ、二人の子供って事?」


「ええ、二人の子供です。優菜って言います」


「あ、えっと結婚して……」


「いえ、それはまだ」


「ああ、そうだよね」


 さぞや混乱しているだろう、結婚はしていないが子供がいる。そんな人も中にはいるだろうが少数派なのは間違いない。


 それから十分ほど世間話をして応接室を出た、するとバーベキューでみた顔達が話しかけてくる。


「あれ、松本くんの彼女さん」


「可愛いー、赤ちゃん」


「ちょっとちょっとみんな見てー」


 あっという間に囲まれる、その輪の後方でギョッとした顔をしながらコチラを伺う女がいた。愛美だ。


「近々結婚する予定なので、その時はまたよろしくお願いいたします」


 歓声が上がる中で愛美の歯ぎしりがここまで聞こえてきたような気がした。ザマァ。


 お呼びじゃないんだよ一一。

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