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不安①

 ジャージの上下に黒いキャップ、マスクをした私は背中に背負った四角いバックがなければ通報されてしまうほど怪しかった。


 夏の日差しの中での配達は、春先のそれとは比べものにならないくらい過酷で体力を削る。


 今日は土曜日だけど夫が出かけたので朝からバイトに勤しんでいた。新しい洋服が欲しい。そんな気持ちになったのは久しぶりだった。


 ゆうくんは朝から連絡が取れない、昨日は会社の飲み会と言っていたから二日酔いで寝ているのだろう。あとでポカリでも差し入れしよう。


 昼のピークが過ぎたので家に帰ることにした、汗だくだが化粧はしていないから落ちる心配もない。


 駐輪場に自転車をとめてマンションの敷地内に入ろうとした時に若い女性とすれ違った。心臓が跳ね上がる。


 働けよブス一一。


 バーベキューの時にいた女子社員。絶対にそうだ。そっと振り返ると向こうもコチラを振り返り目が合った。慌てて目を逸らしてエレベーターに向かう。


 女が「ふっ」と鼻を鳴らして歩き出したのがヒールの音で分かる。


 気が付かれた?


 なんでこんな所にいるの?


 私はエレベーターに乗り込むと六階のボタンを押した。そんなわけ無い。ゆうくんがまさか。


 私は合鍵を使って扉を開けた。間取りはうちと同じ2DK。しかし、そのどこにもいない。耳を済ますとシャワーの音が微かに聞こえた。


 奥の部屋にはベッドがある。セミダブルのそれは私が選んであげた。あの女とここで一緒に寝たのか。沸々と怒りが込み上げてくる。


 いや、まだ分からない。私はベッドサイドにある小さなゴミ箱を漁った。大量のティッシュ。でも鼻炎の彼は普段からこんな感じだから何に使用したかまでは分からない。


 ベッドの枕をチェックする。長い髪が数本落ちている。不自然なほどに。


 やられた一一。


 あの女、奪いにきた。バーベキューで私を見て簡単に強奪できると踏んだに違いない。まさか私たちに子供がいる事なんて知らずに。



「あれ、来てたのか?」


「下であったよ……」


「え?」


「女の子、泊めたの?」


「ああ、愛美だけじゃないよ。他に男も二人いてうちで飲んでたんだよ。いやー飲み過ぎた」



 マナミ一一。呼び捨て。


「使ったの?」


 私は泣き出しそうになるのを堪えてベッドを指差した。

 

「女の子を床に寝かすわけにはいかないだろ」


 ジャージにすっぴん、いや、入念に化粧を施したとしても、あの女の人には敵わない。レベルが違う。ちゃんとした仕事もある。未来がある。


 ど底辺がやる仕事一一。


 夫のセリフが蘇る。私は布団を剥いでシーツを思い切り引っ張った。そのまま洗濯機に突っ込んでボタンを押した。

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