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計画変更①

「大丈夫だよ、一撃当てれば」


 週末、土曜日。ゆうくんに連れられて競艇場に来ていた。「借金とかあるの?」と聞いた私に彼はシレッと「三百万くらい」と答えた。


「よし、こい! そのまま!!」


 この日は珍しく二十万円の大勝。夜はちょっと高めの焼肉屋に連れて行ってくれた。


「なんか元気ない?」


 現実に晒されて、夫への殺意が薄れていくと罪悪感が押し寄せてくる。ゆうくんが本当に私の事を愛しているのが伝わってくるから。


「そうかな……」


「悩みがあるなら話してよ、優香の為ならなんだってするからさ」


 いつまでも隠しておく事は出来ない。だったら少しでも傷が浅いうちに……。


「その、えっと」


 でも告白したらもう会えない。


「言ったら嫌われちゃう……」


「え?」


 だめだ、言えない。今、彼を失うのはあまりにもつらい。もともと持っていなかったのに、手に入れてしまうと失うのが怖い。


「ははっ、ないない」


 ゆうくんは焼肉をひっくり返すトングを振った。


「何年も好きだったんだよ、例え優香が実は男ですって言われても嫌いになんてなれないよ」


 その方がまだマシだ。


「すごい不潔でたまにしかお風呂に入ってなかったら?」


「全然いいよ、俺も入らない」


「本当はめちゃくちゃ性格悪くて人の悪口ばっかり言ってたら?」


「優香に悪口言われる奴が悪いよ」


「実はヤリマンなんだよね、誰とでも寝るの」


「俺だけを見てくれるように頑張る」


「結婚してるの……わたし」


「え?」


 彼の手が止まる、視線が交わる。


「ごめんなさい……」


 私は(せき)を切ったようにすべてを話した。旦那のこと、貯金のこと、十年間は我慢すること。喋り出したら止まらなかった。誰かに聞いて欲しかった。



「殺すなんてダメだよ、優香がそんな奴の為に人生を犠牲にする必要はない」


 ゆうくんは私の話を最後まで聞くと真面目な顔をしてそう言った。


「うん……」


「あと七年?」


「え?」


「離婚まで」


「あ、正確には六年と五ヶ月……」


 ゆうくんはしばらく考えを巡らせるように顎に手を当てる。次に出てきた言葉は私が予想もしないものだった。


「結婚しよう」


 それはとても自然な、既婚者へのプロポーズだった。


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