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混沌③

「座れ」

 

 十時過ぎに帰宅すると夫は一人、ダイニングテーブルで飲んでいた。棘のある声色に緊張が走る。まさかバレているなんて事はないだろうが。


「どうしたの?」


 平静を装いながら向かいに座った。


「どうしてだ?」


「え?」


「なんでお前は子供が出来ないんだ?」


 ああそっちか。ほっとする。


「どうしてかな……」


 アフターピルを服用してるからだよ。死んでもお前との子供なんか産むか。


 ドンッ! と拳でテーブルを叩かれると肩がビクッとした。


「おかしいだろうが! これだけ中出ししてるのによぉ!」


「そんな事、言われても……」


「テメーに原因があるんじゃねえのか?」


 まあ、間違ってはいない。


「ごめん」


「お前、俺に原因があるって言いてえのか?」


 面倒くせえな、思ってねえよ。


「思ってないよ」


「残念だったな、俺はむかし女をはらませてるんだよ、堕ろしたけどな」


 最悪だこいつ。なんで自慢げなんだよ。


「つまり、妊娠しないのはテメーが原因だって事だ」


 だから、分かってるよ。何が言いてえんだこいつは。


「だが、心配するな。そんな出来損ないのお前に朗報だ」


「え?」


 夫はニヤリと笑い、焼酎を一口飲んだ。気味の悪い顔をしている。


「3Pだよ」


「は?」


 そう言えば先日もそんなとち狂った事を言っていた。スッと冷めた視線を送る。


「興奮だよ、俺たちは良くも悪くもマンネリ化してきた。妊娠と興奮には大きな関係があるらしい」


「はぁ……」


「つまりは興奮するほどに妊娠する確率は上がるって訳だ」


「それがなんで3Pに?」


「ばっか、お前。興奮するだろーが3Pは」


 それはお前の性癖だろーが。


「でも、それだと知らない人の子供を妊娠しちゃうかもよ」


「馬鹿だな、もう一人は挿入しねえよ。見られてるのが良いだろ? な」


 な、じゃねーよ。頭痛くなってきた。


「ごめん、疲れてるから……」


 軽くため息を吐いて椅子から立ち上がり風呂場に向かう、これ以上バカの話に付き合っていられない。


 すると『バチチッー』という激しい効果音と共に背中に激痛が走った、背筋がピーンと伸びた後にその場に崩れ落ちる。


「まだ話の途中だろうが」


 背中に手を当てながら振り返る、夫がスタンガン片手に仁王立ちしていた。


「ごめんなさい」


 『バチチッ』『バチチチッ』と電源を入れたり切ったりする度に青い閃光が目の前で走る。


「スタンガンプレイでも良いんだぞ、テメーをビリビリさせながら挿入したら興奮するか? ああ?」


「すみません、それは許してください」


「じゃあ決定な」


「はい……」


 殺そう一一。もう殺そう。この男は生きていたらダメだ。そんな気がする。ソファに座り楽しそうにテレビを見る夫を見て私は決意した。


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