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孤独④

「違うんだよ、あれは……元カノなんだ」


 恒くんの家でハンバーグを焼きながら「昨日の髪の長い女の子に焼いて貰えば良いのに」と嫌味を言った後のセリフがそれだった。


 言い訳にすらなっていない。


「あいつ、合鍵で勝手に入ってきて迷惑してたんだよ。でも、もう返してもらったからさ」


「へー」


「いや本当だってば」


「エッチしたでしょ?」


 ハンバーグをひっくり返しながら何でもないことのように軽く聞いた。明日の天気を聞くように自然に。


「いや、それは。流れで仕方なく……」


 そこは嘘をつかないのか。まあ私も夫としてたけど。夫には『やっぱ残業頼まれたから火曜日だけ』と連絡した。代替えのスマートフォンで。


「でも、ぜんっぜんだから。優香に比べたらまるでダメ、立たなかったもん。いやまじで」


「ぷっ」


 なんだそりゃ。そんなんで女が喜ぶとでも……。喜ぶとでも?


「でもやったんでしょ?」


「いや、それは流れで……」


「でもイってないから、これはほんと!」


 本気で言ってるのか表情は至って真剣だった。


 ああ、そうか。


 この人は子供のまま大人になっちゃったんだ。おそらく元カノも、合鍵の話も本当なのだろう。それでも正直に話せば許してくれるはず。そう信じて疑わない純粋さがある。


「ふーん」


 ハンバーグに菜箸を刺すと透明な肉汁が溢れた、もう焼けたみたい。夫にはいつも半生を食わせるけど、今日はしっかり火を通す。


 肉汁が残ったフライパンにバターを入れた、溶ける前にウスターソースとケチャップを投入してソースを作る。


 あらかじめ焼いておいた目玉焼きをハンバーグに乗せてからソースをたっぷりとかける。付け合わせはブロッコリーとミニトマト。


 小学生が喜びそうなハンバーグを目の前に目を輝かせる三十六歳。


「いただきまーす」


「めしあがれ」


 居心地いいなぁ、この人は。


 馬鹿との生活でささくれた心がまぁるく滑らかになる感覚。穏やかな気持ちになれる時間。

離婚までまだ七年もある。こんな場所も必要かも知れない。


 自分に言い聞かせるように心の中で呟く。孤独を癒す子供のような大人を眺めながら。

 

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