表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/57

孤独③

 朝、出勤すると恒くんはもう席に着いてパソコンを眺めていた。わざと他人行儀に「おはようございます」と言って目も合わせない。


『昨日どうしたの? 寝てたよ』


 社内メールをチェックする。嘘つき。


『すみません、ちょっと用事がありまして』


『今日逢えるじゃん、その時に聞くよ。優香の作るハンバーグ楽しみ』


『すみません、今日は用事。夫の晩御飯を作らないと』


 馬鹿にしないでよね。そんな都合のいい女は他を当たってください。サヨウナラ。


『ちょっと、どうしたの? 怒ってる?」


 怒ってる? 私は怒ってるの? 何を?


『まさか、怒ってなんていませんよ』


『なんか敬語だし、とにかく仕事終わったら話そう』


『いえ、話す事はないので』


 首を曲げないように目線だけを恒くんに向けた。彼は固まったまま動かない、その瞳から涙が溢れた。パタパタっとキーボードに落ちる音が聞こえた気がして胸が苦しくなる。


 どうして?


 私は慌てて立ち上がり「ちょっと良いですか?」と言って恒くんを屋上に連れ出した。まだ、まばらな社内に怪しむ人間はいない。



「ゆうちゃん……」


「ちょっとなに泣いてるの、他の人が見たらびっくりするよ!」


 ハンカチで目元を拭う、鼻水も垂れてる。


「だってゆうちゃんが……」


 子供みたいにシクシクと泣く恒くんを「よしよし」と抱きしめる。


 何してるんだ私は。


「ほら、泣かない。もう始まるよ」


「じゃあハンバーグは?」


「……それは」


 はぐらかそうとしたらみるみる内に目に涙が溜まってくる。すかさずハンカチで拭う。


「分かったから、作るから。もう、泣かないで」


「本当に?」


「うん」


 恒くんはパッと笑顔になり私を抱きしめる、誰もいない会社の屋上で、数時間前に固めた覚悟はあっさりと崩壊して彼と唇を重ねていた。


 ずるい――。そんなのずるいよ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ