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孤独②

「悪かったよ、仲間の悪口言われたら気分良くないよな、ごめん」


 結局、行く当てもなくふらふらと家に帰って来たら、夫は珍しく寝ないで待っていた。


「ほら、風呂も入れといたからさ」


 気味の悪い笑顔を貼り付けて媚を売る夫を見ても何も感じなかった。もう……どうでも良い。


 頭からシャワーを浴びながら「ふっ」と小さく鼻を鳴らした。私はいったい何を期待していたのだろうか?


 誰もが羨むイケメンと再婚?


 何の取り柄もない私が?


 相手のメリットは?


 気娘みたいにはしゃいでた自分が滑稽で、恥ずかしさが一気に押し寄せてきた。


 湯船に浸かって上を向く。


 思い出せ、自分を。調子に乗るな。今離婚したら計画が台無しだ。なんの意味もない人生に目的を持て。


 あの馬鹿から財産分与をガッツリ受け取る。それが私の生きる道。


 気まぐれに訪れた僥倖(ぎょうこう)に本来の目的を忘れて横道にそれたら今までの苦労が水の泡。


 危ない危ない。


 早めに気がついたのは不幸中の幸い。軌道修正はまだ間に合うだろう。


 パンパンッ、と顔を叩いて自分を戒めてからお風呂を出た。



「ほら、ビールでも飲みなよ。グラス冷やしといたんだ」


 少なくともこの馬鹿は私と離婚したくはないらしい。「ありがとう」と満面の笑みで受け取ると夫はほっとしたように胸を撫で下ろした。


「残業、うん。いいと思うよ」


「ううん、もういいの」


「良いって……」


「私は家のことをしっかりやるのが仕事だから、それが疎かになったら本末転倒だよね」


「いや、まあ、そりゃ」


「ごめんね」


「いや、俺も悪かったよ」


 グラスを一気に煽ってから夫の手を引いて寝室に移動する。


「しよ」


「え、あ、うん」


「着替える?」


「いや、今日は、そのままで」


 

 軌道修正完了。


 いつもより大袈裟に(あえ)いで見せると夫は嬉しそうに腰を振る。


 あなただけじゃないの、私だって他の男に抱かれてる。嫉妬する? するわけないか。既婚者だって初めから知ってたもんね。


 それでも――。


 それでも、少しで良いからして欲しい。私の十分の一でいいから。お願い。



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