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イレギュラー③

 キッチンで朝食の準備をしていると、寝室から夫に呼ばれる。「優香ー! 優香ー!」


 はいはい、エプロンで手を拭きながら小走りで駆けつける。


「おい! 紺のスーツどうした?」


 お前が脱ぎっぱなしでしわくちゃだからクリーニングに出したんだよ馬鹿。


「クリーニングだけど……」


 言い終える前に夫の前蹴りが飛んできた、寝室からリビングまでふっ飛ばされる。


「痛っ」


 お腹をさする、内臓破裂はしていない。咄嗟に後ろにジャンプしてダメージを減らした。


「馬鹿かテメーは。今日は大事な商談があるんだよ。決める時はあのスーツって言っただろーがブス!」


 神に誓ってもいい。そんな事を言われたことはない。


「ご、ごめんね、シワだらけだったから」


「そもそもテメーはスーツくらいアイロン出来ねえのかよ! クリーニングもタダじゃねえんだぞ!」


 以前、スーツとシャツはクリーニングでパリッと仕上げないとダメだ! と発言したことは忘れているだろう。そして、クリーニング代は私が出している。


「ごめんね、今日はこっちのストライプの方で我慢して」


「たっくよー! 上手くいかなかったらテメーのせいだからな」


「うん、ごめん。気をつける」


 昨日の殊勝な態度はどこに消えさった? 結局3回も出しやがって。アフターピルは高いんだよクソ。


 毎週、月曜日の朝は機嫌が悪い。しかもこの日は昨夜のやり過ぎで眠いのだろう。さらに酷かった。


「あー、気分わりい」


 夫が目玉焼きにマヨネーズを掛けようとするが、もう中身がないのか全然出てこない。プスっ、プスっと間抜けな音が静かな食卓に響き渡る。私は笑いを堪えるのに必死だった。


『ガシャーン!!』


 キレた夫は右手でテーブルに乗った朝食を全て薙ぎ払った。味噌汁は飛び散り、ご飯茶碗は壁にダイレクトにぶつかり弾けた。


 その手で、箸を呆然と握る私の前髪を鷲掴みにすると、思い切り顔面をテーブルに叩きつけた。目の前に火花が散る。


「テメーは、なにニヤニヤしてやがるんだ? 死にてえのか! ああ!」


 頭上から聞こえる怒鳴り声。ああ、めんどくさい。早く死ねよコイツ。


「ドン臭え女だな! マヨネーズのストックくらい常備しておけブス」


 あるよ、冷蔵庫見ろ。


「ごめんね」


「もう行くわ、お前の顔見てるとイライラすっからよ」


 早く逝け。


 『バァン』と勢いよく閉められた扉、床に散乱した朝食。パタパタっとテーブルに落ちた鼻血を見ても全然平気。


 だって、会社に行けば恒くんに逢えるから――。

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