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イレギュラー②

 鼻歌まじりで洗濯物を干しながら大変なことに気がついた。


 もし、あの二人が本気で付き合い出して私が邪魔になったら即離婚。


 まずい、いま離婚を切り出されても。


 すばやく計算する、年間600万×3年で1,800万に不倫の慰謝料で300万円。


 うーん。目標にはほど遠い。残りの人生を考えてもやはり6000万は欲しいところだ。


 仕方ない――。


 この技はなるべく避けたかったが、いや、そんな事を言ってる場合じゃないか。


 決意するや否や私はクローゼットを漁り、某アイドルの衣装を引っ張り出した。ドンキで売ってたやつ。


 素早く着替えて洗面台に向かうと髪をとかして高めのツインテールを作り、夫が結婚前にどハマりしていたアイドルの一人に寄せた。全然よらないけど……。


 雰囲気はある、こんな時だけは凹凸のない平べったい体は様になる。幼児体型。化粧もそれに合わせてナチュラルにした。


「よし」


 一つ気合を入れると玄関の扉が開く音がする。猫撫で声で迎えた。


「おかえりぃー。二日も会えなくて寂しかったにゃん」


 グーを二つ作って上目遣いで夫を見つめた。夫は一瞬驚いた表情を作った後に、同じようにぐーを作り私のそれにコツンと合わせた。違う、グータッチじゃない。それは原監督。


「どーした。変なもんでも博多で食わされたか?」


 くっ。まるで冷めた対応。そんなにえりこの体が良かったのか。


「好きでしょ、こーいう格好」


「昔はな、それより部屋散らかってた――」


 喋りながらリビングに入る夫、辺りを見渡して目を見開いた。


「すげー、いつの間に」


「あっ、うん。お寿司とか残ってたけど捨てちゃったよ」


「いや、ぜんぜん。やっぱ女は家事が出来ないとなぁ。優香はすごいよ」


 三年の結婚生活で初めて家事を労われた。クソ野郎に褒められてもね……とは不思議と思わなくて素直に嬉しかった。


「いつもありがとうな」


 そう言って抱きしめてきた夫からは香水の匂いが微かにした、シャネルのチャンス。


 むかし、出会った頃に私がつけていた香水。夫が大好きだと言った私の香り。


 今は別の女の匂い――。

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