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ずるい男⑤

 目を覚ました。けど自分がどこにいるのか見当もつかない。少なくとも我が家ではない。それは天井を見れば分かる。


 ズキズキと痛む頭を回転させて記憶を遡る。立ち飲み屋、もんじゃ、カラオケ。そこから先が思い出せない。


 いや、もんじゃあたりから記憶が断片的で曖昧だった。


 まさかココは……。


 おそるおそる先ほどから、寝息の聞こえる方を振り向く。いる、部長だ。ですよね。


 布団をゆっくりと上げて自分の体を確認する。生まれたままの姿だ。ですよね。


 恐ろしい、部長と不倫をした事が……じゃない。夫になんの連絡もなく外泊した事が。


 焼酎の味が濃いだけで、スタンガンを充てるような男だ、無断外泊なんてしたら殺されてしまうんじゃ。


 枕元にあるスマートフォンに触れたが電源は入っていない。充電が切れたか、自ら切ったか。確認するのも躊躇われた。


「おはよう優香」


「あ、おはようございます!」


 彼が目を覚ました、寝起きまで俳優みたいだが寝癖はしっかりとついている。


「あのっ、あたし、すみません。帰ります。」


 とりあえず帰らなければ、本能が危険だと警鐘を鳴らしてる。


「え、でも。今帰ったらバレちゃうよ」


「え?」


「ほら、突然の出張になったって旦那さんに」


「出張?」


「うん、無断外泊はまずいからって」


「あの人はそれ信じたんですか?」


「疑う様子はなかったよ、話した感じ」


「話したんですか? 部長が?」


「うん、その方が信憑性があると思って」


 やばい、やばい、やばい。派遣社員が急な出張なんてあるわけが無い。絶対にバレてる。


「どうしたの?」


「いえ、あの会社は……」


「今日は土曜日だけど」


 そうだ、だんだん思い出してきた。調子に乗って飲み続けて帰りたくなくなった。幸い明日も休み。部長に相談したら「出張って事にしちゃいなよ」と言われ何も考えずに従った。


「大丈夫?」


「あ、はい」


 スマートフォンの電源を入れた、鬼電に恐ろしい数の未読ラインを予想していたが意外にも電話はなし。夫からラインが一通。


『お疲れ様、大変だな。俺も明日はゴルフだからさ。せっかく博多にいくならお土産よろしく』


 あれ? 機嫌いい。なんで。って博多?


「私たち博多にいるんですか?」


「うん、咄嗟に出てきたのが博多だったから」


 なんでよりによってそんな遠い場所に、お土産、お土産。明太子? 東京駅にあるか。


「お土産、どうしよう……」


 スマートフォンの画面を彼に見せた。


「行くしかないね」


「どこに?」


「博多」


 豚骨ラーメン、屋台、モツ鍋、水炊き。久しぶりの旅行。しかもいい男と。その後の事なんてあまり考えないで「はい」と私は返事した。


 満面の笑みを添えて。

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