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ずるい男④

「もう一件行こう、もう一件」


「すみません、帰って食事を作らないと――」


 店を出て、断ろうとしたところでスマートフォンが震えた。ラインのメッセージ、夫から。


『今日はご飯いいや、接待でおそくなる』


「おっ! ご飯いらないってさ」


 後ろから覗き見ていた彼が、満面の笑みで話しかけてきた。時刻はまだ六時過ぎ、もう少しくらいなら良いか。


「かんぱーい!」


 二件目はなぜかもんじゃ焼き、立ち飲みだったから座れるのはありがたい。慣れた手つきでもんじゃ焼きを作っていく。やっぱり綺麗な手。


「で、いつ離婚するの?」


「え?」


 あれ、離婚するって言ったっけ? いやいや、絶対に話してない。そこまで酔ってない。


「なーんてね、離婚したら俺にもチャンスがさ、なんてね」


「部長って、酔うとキャラ変わりますね」


「こっちが本性、会社じゃ猫かぶってます。女子社員多いから」


 私も女子社員です、派遣だけど。


「こんなところ他の女子社員に見られたら刺されますよ私」


「ハッハッ、何が良いのかね? こんなオッサン」


 芸能人と言っても差し支えないルックス、将来のポストが約束された実績、噂によると次男。よく聞くと声まで素敵だ。なるほど、こりゃ争奪戦だ。


「自覚がないところ、じゃ無いですか?」


「井上さんに言われると心外だなぁ」


「私は自分のことをよーく分かってます」


「へー」


 平凡な見た目に付随した平凡な能力、何をやっても特筆することの無い普通の女。既婚、ただし期限付き。


「あ、出てますよ。お気に入りが」


 店内の壁に取り付けられた、油まみれのテレビに映るのは缶チューハイを美味しそうに飲んで笑顔がアップになる優香、かわいいけど彼よりも年上? 年上好きなのかな。知らんけど。


「え、どこ?」


「ほら、テレビです」

 指をさしたがすでに次のCMに切り替わっていた。


「好きなんですよね、優香?」


「好きだよ、優香」


「え?」


「え?」


 話がまったく噛み合わない。


「てゆーか……。あっ、またゆーかって。なんか流れで告白しちゃったよ俺」


「え?」


「ま、いっか」


 良くない、良くない。好き? 私の事が? このテレビから飛び出してきたような二枚目が? なんで?


「あー、でもスッキリした。ずっと片想いだったからさ」


 勝手にスッキリするな。なんて返していいか分からない、顔赤くなってないかな。


「俺が勝手に好きなだけだから、良いかな?」


「は、はい」


「良かった、迷惑ですとか言われたら来週から会社行けなかったよ」


 それから私は頭がぼうっとして、浴びるように酒を飲んだ気がする。彼の綺麗な手を眺めながら。ずっと――。


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