87.暴走6
哮天犬が遙を助けた。
「おっ、おい!あれは何だ??」
長谷部は、震える指を指しながら問うさ
「見た感じは只の白い犬に見えますけど………………まさかっ!!」
「二階堂さんは、どうやら心当たりが有るようだな。」
「はい、鳳大佐。実は、ダンジョンであるものが宝箱から出現したらしいんです。」
「「あるもの?」」
長谷部と鳳は、今は白い犬の話をしているのに、二階堂が放った「もの」という言葉に引っ掛かりを覚えたが、取りあえずは最後まで話を聞くことにした。
「はい。それが、どうやら白い犬みたいなんです。」
「まさか?あの白い犬が100歩譲って魔物だと言うのなら話は分かるが、あれはどう見ても生きているぞ。………っと言うことは、宝箱から生きた犬が出現したと言うのか?」
「いえ、そうではないらしいです。聞いた話によると、カテゴリー的にはアイテムの部類に入るみたいです。てすが、担当した者からは、まるで生きている犬そのものだったそうですよ。恐らくですが、人工知能的な物があるのだと思いますよ。あくまでも推測ですけど。まぁ、この辺は、ダンジョンの不思議とでも思うしかないんじゃないですか。それに、どうやらあの2人は、何か知っているようですけど。」
全員の視線が近くにいた朔夜に注がれる。当の朔夜はそんな全員の視線を一身に浴びて気持ちが悪い感じがしていた。
「何ですか?」
「じゃあ、代表して私が聞きますね。」
そう言うと、二階堂さんが代表して質問する。
「どうぞ!」
「あの白い犬は何なんですか?」
「ああっ、あれね。すごいでしょ!私達の師匠の相棒ですよ。何でもダンジョンの宝箱からドロップしたみたいですよ。」
「やはりですか!」
「マジか!」
「それで、1つ私からお願いがあるんですがいいですか?」
「はい。私で聞けることなら。」
「あの白い犬に何ですが、出来れば支部を壊さずにモンスターを倒していただけたらと思うんですが………。修理費も馬鹿にならないんですよね!!」
そんな事を話している間もドカンッ、とか、ドゴンッ、とかモンスターが哮天犬の攻撃で吹き飛び、壁や天井等に吹っ飛んでいる。その度に、亀裂や壁が剥がれ落ちたりしている。
「わっ、分かりました。………遙~!」
「何すか?今は忙しいんすけど………。」
「少しの間、哮天犬さんを借ります。遙は、その間任せてもいいですか?」
「仕方ないっす。なるべく早く頼むっす!」
「了解。………哮天犬さーん。ちょっとお話があるのでこちらに来てもらってもいいですか?」
「わん?………わん!」
と、呼ばれた哮天犬は、朔夜の元に直ぐにやって来る。
「実は、ちょっとお願いしたいことがあるんですよ。」
「わん?」
哮天犬は首を傾げる。
「実は、この人は、ここの支部の一番偉い人なんですよ。それで、頼みはこの人から何ですけど………出来たらあまり建物に被害が無いように戦って欲しいみたいです。」
そう言われて皆は、周りを見る。確かにあちらこちらに破損のしている。
「クーン!」
少し、落ち込む哮天犬である。それを見た朔夜は少し慌てて
「でっ、出来たらでいいですよ!出来たらで!」
「わん!」
「もしかして、被害が無いようにやってくれるんですか?」
「わんわん!」
哮天犬は首を大きく縦に振り戦闘に戻っていく。
「天上院さん。………本当に大丈夫なんでしょうか?」
「ええ、大丈夫だと思いますよ。ああ見えて頭は良いですから………………多分!」
哮天犬は、建物に被害を出さないように戦って欲しいと朔夜の要望に答えようと頭を働かせる。もし、モンスターを吹き飛ばすと壁などに激突する可能性がある。そうなれば建物に被害が及ぶ。では、答えは簡単である。モンスターを吹き飛ばさずに倒せばいいだけの事である。ならば、魔法で一気にケリを着けてしまった方がいい。と思ったのだろう。魔法を放つ準備をする。哮天犬の周りが雷が迸る。
「あれは、多分ヤバイっす!!」
遙は、危険を感じ朔夜の所まで後退する。
「おいっ、嬢ちゃんが戻ってきたぞ!」
「本当ですね。………遙、どうしたんです?」
「あれっす!」
「あれ?」
遙が、哮天犬の方を指を指すと朔夜も納得する。それと同時に哮天犬の雷系の魔法が発動する。
「ワォーーーーン!」
すると、目の前は光で目を開けていられなくなり、それと同時にドッカーンと大きな音がする。目映かった状態から徐々に視力が戻っていくが、とりあえず、見える範囲には敵は全滅しており床なども黒くなっている。そして、哮天犬は、被害を抑えたと思い満面の笑みで
「わん!」
と、言うが
「やりすぎっす!」
「やりすぎですね!」
その答えに哮天犬は「えっ?」という顔になり、
「クーン。」
と、俯いた。そして、周りを見てみると全員ポカーンとして心ここに非ずって感じだった。そんな時、
「おっ、やっと来れたな!」
と、俺と玄羅がやっと到着した。すると、俺の声を聞いた哮天犬は顔を上げ一目散に俺に飛び付いてくる。
「クーン、クーン。」
と、俺に甘えて来るので、俺は撫でてやり、
「どうした?誰かにいじめられたのか?」
「わん!」
と、肯定し、朔夜と遙の方に視線を向ける。
「ごっ、誤解ですよ。私達は何もしてないです。」
「そうっす!ちょっと突っ込みをしただけっす!」
「突っ込み??」
俺と玄羅は顔を見合わせる。事情を聞いて俺も納得する。
「まぁ、後は支部長さんに任せるか。」
「それよりも、師匠、ずいぶん速かったっすね!」
「そうですね。私ももう少しかかると思ってました。」
「それは、じいさんの力だな。ここに来るには一番速く来れると思ってな。」
「はっはっは、いい判断だぞ!」
自信満々に玄羅が言う。確かに、このじいさんの力がなければ、俺はここまでこんなに速く来ることは出来なかっただろう。因みに、ここまでは2時間30分で来ている。
「あっ、あの天上院さん。こちらの方達は?」
フリーズから正気に戻った二階堂たちは、朔夜と遙と親しく話す俺達が気になるらしい。
「ああっ、紹介が遅れました。こちらは、私と遙の師匠で、哮天犬さんの主である神月サイガさん。そして、こちらが私の祖父の天上院玄羅です。」
「よろしく。」
「よろしくのう!」
「はっ?えっ?………あの白い犬の主って言うのは分かるけど、何故天上院グループの元トップと一緒に居るの?っというか、そもそも何故ここに、来てるの?」
と、二階堂さんは、軽いプチパニックを起こしている。
「落ち着け支部長。まずは、自己紹介だ。」
「鳳さん。あっ、はい、そうですね。私は、この東京ダンジョン支部の支部長の二階堂です。どうぞよろしく!」
「うん、それでいい。それにしても玄羅。久しいな。」
「???もしかして、鳳か?本当に久しぶりだな。」
「そうだな。かれこれ2、30年振りか!」
「お爺様。鳳大佐と、お知り合いだったんですか?」
「うむ。………儂の古い友人だ。」
「そうだな。」
「あのっ………、旧交を暖めてる場合じゃないと思うんすけど!」
「そうじゃった。それで、溢れ出したモンスターはどこに居る??」
「とりあえず、今までに出てきた奴は、哮天犬さんが一掃したっす!」
「なにっ?」
玄羅は哮天犬を睨む。すると、哮天犬は申し訳なさそうに俺の後ろに隠れる。
「大丈夫だ!誰も怒ってないから!」
「わん!」
その一言で哮天犬は、元気になった。
「それに、まだ、終わった訳じゃないみたいだしな!」
「それは、一体どう言うことですか?」
二階堂さんが慌てたように俺が言ったことに反応する。
「えっ?そのままの意味ですが?」
「まだ、モンスターは、押し寄せてくると?」
「そうですね。」
「何故、分かるんですか?」
「気配がするとだけと言っておきます。手の内を全部晒すのはあまり良くないですから!」
「そっ、そうですね。」
「それよりも、戦闘の準備をしましょうか?これだけの人数が居るんですから対処は簡単でしょ?」
俺は、グラム達を出さずに済むならその方がいいと思う。騒ぎになりたくはないからな。と、思ってきたがそうもいかないような雰囲気である。
「もしかして、倒せないとか無いですよね?」
「お前なぁー!」
「えっ?だって、本当の事だろ?」
と、長谷部に胸倉を捕まれる。が、長谷部の手を鳳が掴む。
「長谷部。少し落ち着け!」
「しかしだな。」
「いいから、とりあえず離して冷静になれ。」
「わっ、わかった!」
鳳が説得すると長谷部は、俺の胸倉から手を離す。
仕事をしていた頃は、色々と思うことかあった。看護師はチームで動くことが多いので、そんな事を言ってしまうと人間関係が悪くなってしま仕事が効率的に出来かなくなってしまうので我慢していたが、もう、そんな事を気にする必要が無くなったのでついつい思ったことが口に出てしまった。
「いや、私達は、国を、国民を守る立場の人間がモンスターの一匹も倒せないなんて恥もいいところだ。ああ言うことを言われても仕方ない。」
「いえっ、そう言うつもりで言ったんじゃないですよ。」
俺と鳳が、そんなやり取りをしていると、玄羅が、
「そのモンスターは、儂でも倒せるかの?」
「お爺様後ですか?多分、可能だと「いや、朔夜のじいさんには無理っす!」」
「えっ?遙、あなたは何を…」
遙は、朔夜の手を引っ張って自分の近くに寄せ内緒話を始める。
「いいっすか?朔夜のじいさんに、「倒せる。」何て、いったらどうなると思ってるんすか?」
「お爺様がモンスターを倒すだけでしょ?」
「はぁ~、朔夜のじいさんは、師匠も認める程の戦闘狂っすよ。ただでさえ師匠達が参戦するのにこれ以上、私達の経験値の取り分が少なくなるのに、その上、朔夜のじいさんにまで参戦されたら私達は最初は朔夜のじいさんのサポート役になるっすよ。師匠達だと強すぎてサポートしすぎないっす。しかも、皆、自分達で戦いたい人?達だから結局は私達が朔夜のじいさんをサポートするのは私達になるっす。」
「そっ、そう言われればそうですね!」
「っすよね!」
「というわけで、今回は、お爺様には無理なので見学しておいて下さい。」
「おい………、全部聞こえておるわ。朔夜達のサポートが無くても儂は1人で充分だ。」
「おい、朔夜。良いのか?あのままじゃ1人で突っ込んで行きかねないぞ!」
「師匠。良いんですよ。お爺様もそれなりの実力者ですし、もし、怪我をしても支部の方でポーションの支給をしてくれますので大丈夫だと思いますよ。」
「そうなのか?」
俺は、支部長の二階堂さんに真偽を問う。まぁ、朔夜を疑っているわけではないが確認は必要だと思う。
「はい。ポーションだけでなくマジックポーションの方も使用して頂いて構いません。また、場合によってはハイの方も使ってもらって構いませんよ。」
「太っ腹ですね。」
「状況が状況ですからね。」
「そうなんですね。」
「なので、お爺様は好きにしてください。」
「朔夜、何か儂に冷たくないか?」
「いえ、そんなことありませんよ。」
「じゃあ、朔夜と遙もじいさんと一緒に見学で良いのか?」
「いいえ!」
「違うっす!勿論、参加させてもらうっす!」
と、2人は目を輝かせながら参戦すると言い出した。
「………お前ら、何か隠してるだろ?」
「「ギクッ!」」
「今のうちに吐いとけ!」
「うっ~!仕方ないっす。実は、黒いゴブリンは美味しいんす!」
「「美味しい??」」
「あっ、違うっす!味じゃなくて経験値っす、経験値!」
「何じゃ経験値とは?」
「ステータスにレベルがあるだろ?レベルが次のレベルに必要な数字とでも言えばいいのかな!」
「ほぅ~、ということは、今から出るモンスターを倒すと強くなるのが早くならということか!」
「そう言うことだな。」
「ふふふふふ、ハハハハハ!」
「どうしたっすか?まさか、壊れたっすか?」
「そんなわけあるまい。嬉しいんじゃよ!」
「嬉しいっすか?」
「当然であろう!強くなるのに近道はないと思っておったが、そんなモンスターが居たとは嬉しい限りじゃ!」
「だから、私達はお爺様のサポートは出来ないです。」
「構わん構わん!お前達もたくさん倒して大いにレベルアップするが良い。………、だがな、1つだけ懸念がある。」
「何すか?」
「それはな、神月達に全部持っていかれないかと言うことだ!」
「それは、同意見っす!」
「私も!」
「師匠。今回は私達にもある程度、敵を回して欲しいっす!」
「まぁ、構わないぞ!」
俺が、了承すると3人はガッツポーズをとる。そして、ダンジョンの入り口からは大勢の足音が迫ってきていた。