85.暴走4
朔夜と遙が東京駅ダンジョンに突入すると、そこは激戦区であった。まず、混戦状態である。
「朔夜、不味いっす!」
「この状況は、確かに頂けません。ならやることは1つです。遙は、最前線でモンスターの掃討。す私は、体勢を建て直すために混戦状態を解消します。」
「了解っす!」
そう言うと、遙は、小さくしていたトライデントを普通の大きさに戻し、最前線に突進していく。相手はゴブリンである。トライデントをもってすれば倒した感触すら殆んど感じない。自衛隊員や、それを見ていた探索者は、驚愕するのである。そして、最前線に到着した遙は、
「さぁ~、ここから先は通さないっすよ!」
っと言い、ゴブリンの群れに突撃していく。「先を通さないじゃない。」「もう、後ろにモンスターがいるぞ!」等の言葉が聞こえるが、遙は、無視である。何故なら、相棒である朔夜を信頼しているからである。
そして、朔夜は、最後方から矢を射る。朔夜も、弓の腕を上げているため人に当てること無くモンスターのみを射ることが出来ている。そして、モンスターにダメージを与えたら自衛隊員や探索者が優位になり、戦線を建て直すことに成功する。それを見ていた、ダンジョン支部長の二階堂は、少しだけ光明を見た。遙に話しかけるのは無理なため、先に朔夜に接触する。
「あなた達は一体何者なの?」
「そんなことより、あなたはどちら様ですか?」
「そんなことって、……まぁいいわ。私は、ここのダンジョン支部長の二階堂よ!」
「ならちょうど良かったです。まず、私と前線で戦っている彼女は、探索者です。なので、クエストと言うものを受けます。」
「ええっ、分かったわ!」
「それと、この支部にある回復系ポーションをありったけ出してもらえます?」
「???ええっ、最初からそのつもりだけど?どう使うの?」
「まず、私は、矢が要らない代わりにMPを消費するので、私にはMPポーションを、そして、前線で戦っている彼女にはポーションとMPポーションを8対2の割合でお願いします。」
「えっ?でも、あなた達ばかり優先には出来ないわ!」
「現状を把握してください。現状、戦況が変わったのは私と遙が参戦してからです。もし、私達が戦えなくなれば困るのはここにいる全員、そして、外にいる人たちなんですよ。別に全てを寄越せと言っている訳じゃありません。数時間持つ程度で良いんです。」
「わっ、分かりました。」
朔夜は、多少強引ではあるが、回復手段を入手したのであった。
対して、遙は、意気揚々だった。こんなに沢山のモンスターと戦うのは初めてだけど、不思議とトライデントを握っていると負ける気がしない。そして、今までやって来なかったあることをやりたいと思っている。それは、トライデントの能力と自分の魔法がマッチしているため、対多数で使用してみたかったのである。トライデントに水がです様に意識を集中させると槍の周囲に水を生成することが出来た。そして、その形を様々な形に変えたり出来てとても楽しそうである。
「やっぱりこれっすかね!」
遙は、ゴブリンの頭部を覆うように水を生成する。言わずと分かるように窒息させるつもりである。だが、ゴブリンが力尽きるまで相応の時間がかかる。
「良い案だと思ったんすけどね。じゃあ、お次はこれなんてどうっすか?」
遙は、槍の周囲に水玉をいくつも生成する。そして、それらの形を鋭利な刃物に変えていく。勿論、水を圧縮してあるから質量としては大きい。そしくて、その刃物をゴブリンに向けて放つ。そのか水で出来た鋭利な刃物達は結果として簡単に貫いてしまい、しかも、一本の刃物で複数の敵を貫いてしまうと言う嬉しい誤算である。
「いいっすね。でも、朔夜に申し訳ないっすね。」
遙前衛で朔夜後衛と言う感じで2人は組んでいる。槍と弓と言う時点でこれは仕方のないことだと思う。だが、今回の攻撃方法は朔夜の十八番を奪いかねない。なので、違う攻撃方法を思い付く。それは、トライデントの水を纏わせてトライデントを巨大化させる。そうすることにより1度に多くのモンスターを屠ることが出来る。勿論、水事態は遙がトライデントの能力で操っているので重さは一切感じていない。これで、新たな攻撃手段を得た遙である。
そして、戦線は、朔夜と遙のお陰で立て直すことが出来ていた。ただ、遠距離からの銃はそれほど威力を発揮出来ていない。良いところ足止め程度である。だが、その足止めをしている最中に他の隊員が近づき撃破している。そんな戦線だったが、徐々に拮抗状態に戻りつつある。その理由としてはゴブリンの上位種が現れたからである。上位種といえば、ゴブリンよりも強い。遙にとっては武器も相まってそれ程と言うか全くの驚異を感じない。遙は苦戦を強いられてないが周りが苦戦を強いられている。だが、何とか戦線を維持することは出来ている。そこに朔夜もやって来て弓での攻撃を行う。朔夜は、ゴブリンに対して相性が良く1本の矢が2、3匹を貫いている。到着当初は、ゴブリンの体を貫通しないように配慮していたが、今はその必要が無いので遠慮なくやれると言うものである。こうして再び、優位になったが、やはり気になるのは、特に朔夜のMPである。矢を使わない代わりに自分のMPを消費するので、そして、すでに何本ものMPポーションを飲んでいるのでいい加減あっちの方がヤバイ。それは、トイレである。MPが回復するとは言え、飲んでいるのは水分である。これは、人間としたら当然の反応である。朔夜は、何とか耐えながら戦闘を行う。そして、1時間位戦闘が続き漸くモンスターの勢いがなくなってきた。それから、10分もするとモンスターは全て掃討することが出来た。
「遙、私は御手洗いに行ってきます。」
っと、すっ飛んで行ってしまう。
「やれやれっすね!」
そう言いながら朔夜を見送る。それと、入れ違いに1人の自衛官が遙の元にやってくる。
「今回、我々は死を覚悟したが、君達2人のお陰で乗り切る事が出来た感謝する。」
っと、頭を下げてきたのである。
「えっ?いやっ、あの、そのっ!」
流石の遙も現役軍人に頭を下げられるのは初めての経験である。なので、同様を隠せない。そんなこととは露知らず、朔夜が戻ってくる。
「えっーと、どういう状況なのでしょう?」
「自衛隊員に急に頭を下げられてるところっす!」
すると、その自衛官は朔夜を見ると遙と同じように頭を下げる。
「よして下さい。それよりも、今ので最後だと思いますか?」
「希望的観測から言うと、正直あれで終わってほしいと思うが、私はまだ、次があると思っている。」
「奇遇ですね。私も同意見です。モンスターを全て討伐するにしても最後には少し強い個体が出るか、ボス的なモンスターが、出現するのではないかと思ってます。」
「はっ、はぁ~?……何故そんなに詳しいんだ?」
「朔夜は、ダンジョンがある世界の話とか異世界転生物の小説が大好きなんす。そこからの知恵でっすね。」
「ん?では、ただの妄想だと?」
ここで、鳳は首を捻る。
「そうとも言いきれないっす。現に今、世界にダンジョンが溢れてる時代っすからね。」
「そっ、それもそうか。だが、その話が、現実に起きるとして、わたしたちでは君達で討伐は可能なのか?」
「う~ん、多分っすけど、無理っすね!」
「そうですね。少し強い個体ならどうにかなりそうな気もしますけど、ボス級のモンスターが出てきたら私達では厳しいでしょうね。」
「…………そっ、そうか。」
遙と朔夜の話を聞き、先程無類の強さを見せてくれたこの2人でも敵わない敵が出てけるかもしれないと思うと死を覚悟せざるを得ない。そんな顔をしていると、
「なーに、死を覚悟したような神妙な顔になってるっすか?私達には無理ってだけで、倒せないとは言ってないっす!」
「この場で、一番強い君達が勝てない相手に一体誰が勝てると言うんだ?」
「うちの師匠っすね!」
「そうですね。」
「その師匠とやらは強いのか?」
「滅茶苦茶っすよ!」
「そうですね。師匠で勝てなかったら終わりですね。でも、大丈夫だと思いますよ。あの強さを目にしたらね。」
「そっ、そうなのか?」
っと、鳳はとても不安そうである。人間は、いくら人から伝え聞いてもなかなか実感を持てないものである。所謂、百文は一見に如かずって事。
「その話は本当なのですか?」
ここで、支部長の二階堂がやってくる。
「本当っすよ!」
遙が肯定する。
「では、貴女達の師匠が来るまでは、お2人が中心となって乗りきってもらう方針でいいですか?」
「いいですが、遙には自由に動いてもらいます。その上で、自衛隊の方々に援護をお願いしたいです。そして、探索者の方々には、武器または装備品でモンスターの攻撃を受け止めてもらいます。その止まっている間に私が弓で倒します。これで、いかがでしょう?」
「ちょっと待て、俺達に壁になれと言うのか?」
1人の探索者がそう言う。
「そうです。もし、怪我をしたとしても無料でポーションを使って回復することが出来ます。……では、あなた方が全てのモンスターを倒してくださるのですか?」
「うっ、それは……。」
「嫌なら早くこの場を去ってください。」
「朔夜、それは言いすぎっすよ!」
「そんなことはないです。覚悟がなければここから先は命がいくつあっても足りません。」
「それもそうっすね。覚悟がないやつは去るすっす!」
そう言うと何人かの探索者はこの場を離れていく。
そうこうしていると、ダンジョンから1匹のモンスターが出てきた。新たなモンスターである。そのモンスターは、普通のゴブリンである。ただし、色は全身真っ黒である。そして、その黒いゴブリンが、
「ぐぎゃぎゃぎやー!」
雄叫びを上げるとダンジョンから続々と現れてくる。そして、こちらに向かったゆっくりと歩きただす。
「黒いゴブリンっすか!ってことは、名前はブラックゴブリンってとこっすね!」
「遙、そんな呑気なこと言ってないの!気を引き締めますよ!」
「了解っす!」
そして、鳳が、
「撃て!」
っと、号令をかけ、自衛隊員が一斉に銃を撃つが、大したダメージを与えることが出来ない。強いて言えば足止めが精一杯である。対して、探索者はと言うと、数人で本当にギリギリではあるが何とか攻撃を仕掛けるといったものである。しかも、相手が回避するのではなく、受け止めると言う条件下においてである。それ以外は、傷を負ったりしているが、すぐにポーションで戦線に復帰している。
この戦いにおいて遙は、自由に敵陣に突っ込んでいきトライデントで楽々と倒せている。苦戦しているのは朔夜の方である。理由としては簡単。探索者達を気遣っているからである。すると、1人の探索者が、
「嬢ちゃん!俺達に気を遣う必要はねぇ!思いっきりやんな!例え、怪我しても今回はポーションが無料で手に入る。それに、嬢ちゃん達じゃなきゃアイツ等は倒せないと来ている。だから、俺らの事は気にせず思いっきりやれ!」
その言葉に周囲にいた探索者達も覚悟を決めたのか朔夜を見て気合いを入れモンスターに向かって行くのである。そして、この気合いから徐々に朔夜も苦戦から解放されていくのである。