81.危機管理
今日は、4月8日。今日もいつものようにダンジョンに向かう。今日は、俺の方が少し早かったようで朔夜達を待つと直ぐにやって来る。
「お待たせしたっす!師匠。」
「おはようございます。今日もよろしくお願いします。」
「神月、今日もよろしく頼むの!」
「ああ。じゃあ行こうか。」
俺達は何時ものようにダンジョンに入る。そして、人気のない所に移動をして階層を転移する。そして、やって来たのは6階層である。俺がここに連れてきた事に目が点になっている3人である。すると、玄羅が、
「おい、神月。階層を間違ってないか?」
「いいや、間違ってない。今日はこの階層だ。」
「でも、師匠。ここは見た感じ6~9階層のはずっすけど?」
「その通りだ。よく分かってるじゃないか?じゃあ、俺がこの階層に連れてきた意味が分かるか?」
「「「…………。?」」」
「昨日の遥の件で思った事があるんだ。3人には危機管理が足りないって。」
「「「危機管理?」」」
「今までは、俺や従魔達がモンスターを見つけて3人が戦闘を行うっていうスタイルだったと思う。だけど、それじゃあいけない気がするんだよ。」
「何がっすか?」
「自分達で敵を見つけないと、もし不意打ちや挟み撃ち、敵に囲まれる事だってあるかもしれない。そんなんじゃあ命が幾つあっても足らない。俺達もいつも一緒と言うわけにはいかないしな。」
「わかりました。それで、私たちは何をしたらいいですか?」
「じゃあ、今日の課題。まず、この階層は見て分かる通りフィールド型のダンジョンになってる。たけど、ゴールつまり次の階層に行くための階段は1つしかない。」
「当たり前っす!」
「そして、この階層は、モンスターが1体ずつしか出てこない。なので、3人には別々に分かれて貰い3ヶ所から一斉にゴールを目指す。目標は夕方まで!っと、言う風にしようと思う。」
「質問があるっす!」
「遙。とうぞ!」
「私達3人は別々に分かれるって言ったっすけどどうやって別々にするんっすか?」
「簡単なことだ。爺さんにはまずここからスタートして貰って朔夜と遙はスノウに運んで貰う。それと、万が一があったらいけないからグラムの分裂体を付けておく。だけど、ギリギリまで手は出さないからなるべく自分の力で乗りきるように。」
グラムは分裂体を作り出し、全員の肩に移動する。それと、水と簡単に食べれる栄養補助食品を渡しておく。
「そうっすか。…………その間、師匠達はどうするっすか?」
「んっ、俺達か?俺達は収穫だ!」
「「「収穫??」」」
「そう。ダンジョン産の野菜って売ったら結構な値になる。それに、かなり美味しいじゃん!やっぱりここは自分達の分もストックしておかないとな。それと、ドロップしたものはそれぞれの物とするから。ああ、最後に、階層のボスは3人に相手して貰うからそのつもりで探索してな!」
「「「…………えっ?」」」
「んっ?聞こえなかったか?」
「いえ、聞こえたっすけど、マジっすか?」
「マジ!」
「そうっすか。わかったっす!」
「じゃあ、他に質問ある人?」
3人とも無言であるので質問はないんだと思う。なので、早速始めることとする。玄羅はここからスタートして貰い、スノウに適当に感覚を空けて朔夜と遙を置いてきて貰う。そして、俺と従魔達はスノウに乗り6階層を縦横無尽に動き回る。結果として相当数のトマトを回収することが出来た。
そして、夕方。予定どおりに階層のボスの所に3人とも辿り着くことが出来ていた。
「余裕っす。」
「確かにこのくらい平気でしたね。」
「楽勝じゃな。」
3人ともどうやら余裕を持ってここまで来ることが出来ていたようである。まぁ、この階層は1度に出た来るモンスターは1体である。運が悪くても2体しか相手にしないのでこの3人には少し簡単すぎたのかもしれない。
「この階層は難なく突破して貰わないと話にならないからな。じゃあ、今日の仕上げとしてボスを討伐してきて貰おうかな。」
「マジっすよね?」
「勿論!!」
すると、観念したのか3人はボス討伐に行く。6階層のボスはファイティングベアーである。まずは朔夜が先制攻撃で風魔法を付与させた弓でファイティングベアーを射る。3本射た矢は両肩と右足に命中する。
「ガァァァァァア!!」
ファイティングベアーは、奇声を上げる。その間に、玄羅と遙は、接近戦をするためファイティングベアーに接近する。
「こんな大きな熊を相手にするとは血が滾るな!」
「やっぱり、じいさんは戦闘狂っすね。」
「そう言う遙も顔が笑っているぞ!」
「そうっすか?」
確かに2人とも似た者同士なのかもしれない。結果それ程、苦労することなくファイティングベアーを倒すことが出来ていた。どうやら魔石や他のものもドロップしたらしく、俺の取り分まで言い出すものだから俺は、辞退して3人で報酬を山分けするように言う。なにせ、俺は、ファイティングベアー戦には参加していないのだから報酬を貰う権利なんかあろうはずもない。
こうして俺達は、4月9日には7階層、4月10日には8階層、4月11日、12日には9階層の探索をさせる。そうそう、なぜ9階層を2日に渡って探索させたかと言うと、まず1つ目の理由は、3人には1対多数(勿論1の方は朔夜達の方であるが)の戦闘に馴れて貰うためと、10階層には5階層ごとの所謂中ボス的なモンスターが居るためレベルアップする目的も含まれている。
取り敢えず、この日程は難なく終わった。一番機嫌がいいのは玄羅である。何せ思う存分戦うことが出来たのだから逆に疲れていたのは朔夜である。元々、弓を使っている時点で遠距離の戦闘になってしまう。今までは玄羅と遙という前衛がくれたのでモンスターが接近するということはなかった。だが、今回はソロでモンスターを倒していくという課題のため、弓を外せば近寄られて接近戦になると言うことである。最初の方はモンスターが1体だけであったのでじっくりと狙いを定めて確実にモンスターを倒すことが出来ていたが、モンスターが複数になるとじっくりと狙っている時間はない。そんな時間があるとモンスターの接近を許してしまい接近戦闘をすることになる。朔夜はまだ接近戦に慣れていない。なので、一番苦労したのは朔夜であると言える。そして、最後に遙はと言うと、どちらかと言うと楽しんでいた方である。どうやらトライデントの扱いにも慣れてきており、トライデントの能力である水を生成する力で水を作り出してから、その水を使ってる魔法を放っていた。どうやら、普通に魔法を放つよりも生成した水で放つ方がMPの減りは少ないようである。それぞれ三者三様の収穫はあったようである。勿論、俺達にも収穫はあった。今回は、本当に野菜の採取を主目的としていたので階層を縦横無尽に走り回り収穫を行っていった。この階層のモンスターは俺達にとっては只の雑魚であるから見つけ次第瞬殺していた。結果としてかなりの収穫はあったので1/3を換金して、残りの2/3を俺達用にアイテムボックスにストックしておくことにする。アイテムボックスに入れとけばまず腐ることがないからな。それと、副支部長の二階堂さんには喜ばれた。
さて、そんなこんなで今日の探索は終了となった。そして、朔夜と 遙は明日から学校に行くために東京に戻ることになっていた。本当ならもう少し早く帰る予定であったが入学式等の行事しかないので2人とも行きたくないと思ったのか学校の行事には参加せずにこっちに残って探索をすると決めたのである。だが、それも今日までである。明日から普通に授業が始まる。なので、明日からは学校に行くために2人は東京に戻らなければならない。
「じゃあ、師匠。今週末また来るっす。」
「俺は別にいいけど東京の方のがダンジョンは多いんじゃないのか?俺が居るからってわざわざ此方に来なくてもいいんじゃないのか?」
「そうですね。確かに東京の方のがダンジョンの数は多いですね。私と遙の2人で行くのはいいんですが、毎回目的の階層まで行く時間があれば此方に来た方が楽ですからね。こっちには師匠が目的の階層に簡単に連れて行ってくれますからね。それに、他所だと師匠と出会った時みたいに他の探索者にパーティーに誘われるのは面倒ですからね。」
「そうか。」
「あっ、でも、ダンジョンには行こうと思いますよ。」
「えっ?でも、他のダンジョンは嫌なんじゃないのか?」
「嫌ですけど、それとりも嫌なことがあります。」
「ほう~、それは?」
「それは、お爺様です。」
「ん?儂か?」
急に名前が出てきて玄羅は吃驚する。
「そうです。お爺様が私達よりも強くなると悔しいですからね。」
「確かにそれは言えるっすね!朔夜の爺さんには負けたくないっす!」
「そっ、そうか。じゃあ、無理せず頑張れよ。生きていることが大事だからな。安全第一だぞ!」
「了解です!」
「わかってるっす!」
「じゃあ、気をつけて帰れよ!」
こうして俺達は支部にて別れを告げる。そして、俺達は帰宅する。家に帰るとグラム達は従魔の指輪から飛び出して各々好きなところに行こうとするが、俺は、それを許さず全員を風呂に入れる。幸い全員風呂が嫌いではないから苦労せずに入れることが出来る。風呂から上がり自室にて、グラム達に
「明日と明後日は休みだから好きに過ごしていいぞ!」
「休みなの~!」
「休みだぞ!」
「休みなのです!」
「好きにすごしていいからな。…………あとお前達もな!」
俺は、自室にグラム達以外の従魔達にも同じことを言う。俺は、ブラックではない。きちんと休みを与えるホワイト企業?というか主人なのである。俺の言ったことにグラム達は大喜びしたがグラム達以外はギクッとし、
『もっもちろん分かってるにゃ!』
それに、他の従魔達も賛成はするのだがどうにも挙動不審である。
「…………はぁ~!お前達がダンジョンが好きというか生きて行く為の生存本能みたいなところが在るんじゃないのか?」
元々は皆、野生で暮らしていたのだ。野生で何が大変かと言うとやはり食料のであろう。だが、俺の従魔となった今となってはダンジョンがある。まぁ、ダンジョンがどういう意図をもって出現したかは分からないが、中に入り、階層を攻略していくと食料が手に入る。なので、野生の時の空腹感が皆をダンジョンに駆り立てているものだと思っていた。が、
『ちがうにゃ!にゃ達は自分がどんどん強くなっていくことが楽しんだにゃ!』
その答えに全員が「うんうん!」と頷いている。その中には、グラム達も含まれている。
「それは、俺も同意しよう。」
『にゃ!?それじゃあ!』
「だけど、それならなおのこと休みは必要だ。理由はとしては、何事もずっと続けるよりもある程度休みを取ったほうが効率がいい。それに、ダンジョンは、一歩間違えれば死に繋がりかねない危険な場所だ。疲れが貯まっていると冷静な判断が出来ない可能性が高い。それは、最も危険な事だと思う。それに、ダンジョンは楽しいかもしれないけど、毎日行ってたら飽きてくるかもしれないだろ?他にも趣味をもて!」
『趣味にゃ?』
「そう。例えば外に散歩に出かけるとか本を読んだり俺の部屋にあるゲームやってみたり、まぁその他色々だよ。」
『分かったにゃ!頑張ってみるにゃ。』
他の従魔達も頷いている。そして、俺達は定期の2日間の休みに入る。俺は部屋でダラダラしており、後は少し買い物に出かける位である。グラム達は、ゲームや漫画本を読んで過ごしている。そして、グラム達以外の従魔は散歩に出かけることが多かった。勿論、散歩に出かける時は魔法やスキルを使い見た目を普通の感じにして出かけていった。