84.暴走3
ここは、総理大臣の執務室である。本堂は執務室で書類整理をしていた。すると、突然、部屋のドアが
バーーーン
と開かれる。本堂は、ビクッとする。
「何事だ!!」
本堂は自分がビックリしたので少し強目の口調で言うと、そこには自分の秘書が立っていた。
「すすすすいません。ち、ちょっと、きき緊急じ事態です。」
秘書は、とても慌てていて言葉が上手く出てこない。
「まずは、落ち着け!何を言っているのかわからん。それで、緊急事態だ?」
「そそそれがででですね。」
「待て!まずは、そこで深呼吸をしろ!」
本堂の指示のもと秘書は大きく深呼吸をする。2、3度繰り返してから秘書が話し始める。
「じっ実はですね、最近、ダンジョンにて妙な現象が起こっていたらしいんです。」
「あー、前置きはいいから何処で何が起こったのか簡潔に言え。補足は後で聞く。」
「はい。では、東京駅のダンジョンからモンスターが地上に出てきたみたいです。」
「それは、確実な情報なのか?」
「はい。現在、東京駅構内にて、自衛隊と探索者による避難誘導をしている状態です。」
「わかった。とりあえず、君は他の者に防衛大臣とダンジョン庁の長官に速やかにここに来るように手配をしてくれ。それが、終わったら詳しい話を聞こう。」
「分かりました。」
秘書は一礼すると部屋を飛び出して行った。すると、ものの2分程度で舞い戻って来た。
「速かったな………。」
「ハァハァ、緊急事態なので急いで行ってきました。」
本堂は、部屋にあった紙コップにウォーターサーバーから水を入れて秘書に手渡す。
「とりあえずこれを飲んで落ち着け!」
「あっ、ありがとうございます。」
秘書は、紙コップを受けとると水を一気に飲み干す。
「落ち着いたらそこに座って話を聞かせてくれ!」
本堂は、執務室に用意されていたソファに腰掛け、秘書にも座るように促す。
「では、失礼します。」
「それで、本題だが………。」
「そっ、そうですね。実は、この話しは数日前まで遡ります。」
秘書は、本堂の様子を見ながら話をする。
「何日前からでもいいから全てを話せ!」
「分かりました。………、実は数日前から東京駅のダンジョンにておかしな現象が見られるようになったんです。」
「ほう、興味深いな。それはどんな現象だ?」
「それは、モンスターの目が真っ赤になるというものでした。」
「目が?」
「はい。一応他のダンジョン支部や自衛隊の方にも確認を取ったのですが、それらしい現象は確認された事がありませんでした。それで、本日の夕方よりダンジョンを閉鎖して自衛隊が調査を開始する予定でした。」
「予定?」
「そうです。そこには閉鎖を知らない探索者も沢山いました。そして、自衛隊が突入の準備を完了した直ぐ後に、ダンジョンの入り口からモンスターが涌き出て来たそうです。自衛隊の指揮官は、モンスターの対処に当たると同時に東京駅内に居る一般人の避難を開始し、支部にも協力を要請したようです。」
「要請?」
「はい。流石に、自衛隊だけの対処は無理だと判断したんでしょう。探索者にも協力を要請したようです。」
「だが、探索者といっても、まだ、成り立てで、そこまでの戦力としての期待は出来ないと思うが………。」
「そうですね。なので、探索者には、避難誘導や負傷者の手当て等を担当して貰い、腕に自信のある者は、自衛隊が倒し損ねたり、包囲を突破して、外に出ようとして居るモンスターを担当して貰っているようです。」
「そうか!一般人をいち早く避難させたのは見事だな。それで、君は、この現状をどう思う?」
「いいんですか?」
「構わん。」
この秘書は、フィクションが好きで、最近ではよく異世界転生物を読んでいる。
「分かりました。私が知る限り、今の現象はスタンピードと呼ばれる現象によく似ていると思います。」
「スタンピード?」
「そうです。目が赤くなるのはなかったですが、ダンジョンからモンスターが溢れて出てくるのは同じですね。」
「そうか。それて、スタンピードは、どうやったら終わるんだ?」
「えっーと、役に経つか分かりませんが、私が読んだ小説では、モンスターが出てくるのが尽きる。もう1つは、ボスモンスターが居る場合ですね。前者の方!ではモンスターを倒し続ければその内収まると思います。ですが、後者の場合は、少し面倒だと思います。」
「どう面倒なんだ?」
「まず、ボスモンスターが居た場合、そのボスモンスターは相当強力な奴だと思います。それに、モンスターを倒し続けて出てくるなら、いいですけど、ボスモンスターがダンジョンから出てこなかった場合は、いつまでも終わらない可能性があります。」
「そうか。その辺りは、他の者が集まってからにしようか。」
それから、10数分後には防衛大臣の三枝真実子とダンジョン庁の長官、の御堂蒼真が部屋にやって来た。
「まぁ、まずは座ってくれ。」
本堂は2人にソファーに座るように声をかける。
「状況は知っているか?」
「はい。」
「聞きました。」
「そうか。それで、どうする?」
「ますは、防衛省の方ですけど、今日、ダンジョンを探索予定の隊から補給の要請があったんですが………その、」
「どうした?」
「はい。どうやら、状況を理解出来ておらず、ダンジョン探索予定の隊は、武器類。つまり、銃や主に弾薬の要請をしたつもりだったんですが、間違って食料等の物資を用意しようとしてまして、ダンジョン探索予定の隊から再度催促されて現状を把握したようで、今、弾薬等を用意させ追加で部隊を速やかに送るようにしています。」
「そうか。」
「では、次は自分ですね。ダンジョン庁としましては、探索者の参加はクエストとさせていただきました。」
「「クエスト?」」
本堂と三枝は、御堂の言葉についていけていない。
「クエスト。意味としては、探索、探求ですが、今回の場合は少し違います。こちらが、出す依頼を探索者が受けるということです。但し、今回は初めてのケースなのでクエストを受けるのは、個人の意思を尊重しました。あとは、東京駅のダンジョン支部にあった回復薬系は全て吐き出させます。使用した分は、国が保持している分を頂ければと思います。それと、クエストを受けた探索者には、国からある程度の報酬をお支払いして頂きたい。」
「報酬?」
「はい。こちらが、所謂仕事を依頼しているわけですからそれに見合った報酬を支払うのは当然だと思いますが………。」
「御堂さん。それは、あまりにも独断が過ぎるのでは?」
「独断ですか………。では、お聞きしますが、今回、ダンジョンの異変を調査予定の隊は、あくまでも調査のはずです。ダンジョンから溢れ出てくるモンスターを全滅させるには到底無理だと思いますよ。もし、探索者が強力しなければ、今頃はモンスターが、駅構内や下手をしたら街中に放たれている可能性だってある。そんなことになればどうなるかお分かりですよね。」
「そっ、それは………。」
「御堂。その辺にしておけ。」
本堂が御堂を制する。
「その辺に関しては仕方ないだろう。それに、これが最後と言うわけでもないだろうから、それは、今回の事が終わってから話をしていこう。」
「はい。」
「………わかりました。」
「でだ。今回、とりあえず、最優先は、モンスターを外に出さないことだ。そして、何故、こんなことが起こったのか。原因を追求し解決する。大雑把だが、これでいいか?」
「そうですね。それしか無いような気がしますね。………、では、ダンジョン庁では、登録されている探索者と連絡をとり、クエストに参加してくれないか声をかけてみます。」
「そうか。頼む。」
「では、防衛省の方からは、追加をしていた部隊よりも多めに部隊を派遣し、まずは国民の安全確保と同時にモンスターの排除を行います。」
「ああ、頼む。………、これで無事に終わってくれたらいいんだがな。」
そこで、本堂の横で控えていた秘書が一言言う。
「総理。それは、フラグを立たと思うのですが………。」
「「フラグ??」」
本堂と三枝は、意味が分かっていないようで、御堂が答える。
「フラグというのは、旗つまりは目印みたいな物ですよ。」
「それが、何だというんだ?」
「つまり、例えば、強大な敵と戦う前に、「帰ったら彼女に告白する。」といっていた奴に限って死んでしまうとか、敵に自分の渾身の一撃を放って「ヤったか!」等と口走ると、大抵が無傷だったり、新たに強くなったりしてしまうことですよ。」
「つまり、私が「無事に終わってくれたら」と言ったから無事では終わらない可能性があると言うことか?」
「そうですね。」
「そう言うつもりで言ったのではないのだがな。」
「何もなければラッキーって事ですよ。」
「そうなのか?」
「それでいいんですよ。」
「ハァ~。取りあえずはこれで対策は終わったな。あとは、経過を見ることにしよう。」
そう言うと椅子に深く座り直し、手を組んで目を閉じて何事もなく終わるように願うのである。